Interview-Ryo Hisatsune/Studio Zot,Transkam,moleslope 前編

2011年に中野区野方でスタート、2013年からは杉並区阿佐ヶ谷に移転し、今年10周年を迎えたStudio Zot。店主の久恒氏の音楽経歴からもインディー、オルタナ系のサウンドにも強く、都内でその手の音楽活動をしている人であればなんらかの形でZotに関わったことがあるのではないだろうか。
多くのビンテージ機材が揃い、気軽にサウンドの相談に乗ってくれるアットホームな雰囲気もあり、数多くのアーティストのリハーサル/レコーディングの場として常に賑わっているStudio Zot。今回はスタジオの成り立ちやこだわり、久恒氏のエンジニア/音楽活動についてインタビューを行った。
Interviewer-Matsuda,Miyapon(満州候補者,in the middle)

Studio Zotを始めたきっかけについて教えてもらいたいのですが、久恒さんはZot以前はスタジオなどで働いていたのですか?

いえ。スタジオとは関係ない仕事をしてました。WEBデザインなどの仕事で、会社には所属しているんですけどわりとフリーランスに近い形で。その遥か昔からバンドはやってたんですけど、スタジオにたくさん入るとやっぱりお金が掛かるじゃないですか。なので自分でスタジオやっちゃえば、タダでできるっていう不純な動機でスタジオがやりたくて(笑)

音楽をやってる人は誰しも一度は考える妄想ですよね(笑)。でもよく考えると結局無理だって普通はなりますけど、そこで本当にやろうと思ったんですね。

勤めてたWEB会社が、近いところで活動しているバンドの人が割とたくさんいる会社だったんですけど、スタジオやりたいな~って同僚とかにもよく言ってたんですよね。それで社内の隣の席がStarlingraidっていうバンドをやってた人だったんですけど、彼の近所のスタジオが閉店するっていう情報を教えてくれて。野方の東京スタジオって老舗のところだったんですけど、テナント募集をしていますよって。

音楽用の防音の工事がされている居抜き物件ですね。

それでもうそれこそ勢いでそこのスタジオに掛け合ったんですよね。一人で行って。それでこれだけお金用意してくれたらスタジオやらせてあげるよってことになって。それでじゃあやります、って言って決めて。でもう勤めてた会社に速攻で「辞めます」みたいな(笑)

それは何年くらいのことですか?

多分2011年の1月くらいですね。それでそのまま4月くらいには始めたかったんですけど、震災があったことで延期になったんですよね。原発事故があったことで、生活に関係のない電気を使うなっていう意見とかもあったじゃないですか。それでその間は悩んだりもしてて。そんなこともあったりで延びてたんですけど、同年7月にようやくオープンしました。

旧Studio Zot(中野区野方)

久恒さんの他にスタッフの方はいたんですか?

自分が店長って形で、skillkillsのスグル君を誘って2人で始めました。彼とはバンドも一緒にやってたし、一番長い付き合いだったので。彼は僕と出会った当時スタジオのバイトもやったりして経験もあったんですよ。

震災のこともそうですけど、オープンするまでは色々大変だったと思うのですが。

そうですね。建物はオーナーの持ちビルで、一階で自分はカメラ屋をやっていて、「スタジオは儲かる!」みたいな時代の時に地下にスタジオを作ったみたいなんですよね。で高齢になってからは辞めて、その後僕みたいにやりますって人がやってたのが前の「東京スタジオ」、名前はそのまま引き継いでやってたみたいです。その後、その時のスタジオの店長さんが独立するって話になって、閉店の話になったんだと思うんですけど。ちなみにその人は東久留米でSUS4ってスタジオを経営してます。

で、しばらく空きになってたところに僕が交渉したって感じですね。保証金やら前家賃やら、かなりの高額だったので元々そんな資金は無かったので、試行錯誤してなんとか銀行からお金を借りれる事になり始められました。13畳くらいの2部屋のみのスタジオだったんですが、とにかく家賃がすごく高かったので全部埋めたとしてもトントンくらいにしかならなくて、かなりキツかったです(笑)

最初の内はスタジオの受付で、WEBの仕事も委託で引き受けていたのでギリギリいけてたんですが、それも途中で無くなって。なので、それで野方でやっていくのは無理だってなって。結局1年半やりましたけど。

旧Studio Zot受付

野方ではオープンしてすぐにスタジオライブをやってましたよね。

そうですね。当時野方でライブをやっているスタジオはなかったと思いますけど、うちでは結構やってましたね。昔は動画配信プラットフォームも今みたいに色々なかったんで、Ustreamにライブ動画をたくさん上げてたんですよ。でもいつのまにかUstreamが無くなってて、アーカイブも無くなっちゃてて。結構それは後悔してるんですけど。

10年前だと意外に日本ではライブ配信をやってるところはあまりなかったですよね。WEB関係の仕事をしてたからというのもあるんでしょうか。

そうですね、当時は敏感でした(笑)DOMMUNEが始まった頃というのが結構大きいかも。ZotのHPも自分で作ったり。でも10年前の知識で止まっているので、当時のコーディングでやっててHPは古い雰囲気なんですけど(笑)。まあでもWEBの仕事が無くなって家賃払うのもキツくなっちゃって。

最初に払った保証金も本来戻ってくるはずのお金だったんですけど、「現状復帰のために業者を入れるから保証金は戻さない」とかって話になって(笑)。これはマズいなってことで、自分たちで修繕とかをやったんですよね。めちゃくちゃ掃除したりとかペンキ塗り直したりとかして。掃除している間も日割りで家賃が発生してたりで結構減っていて(笑)

キビしいですね(笑)。今も野方はスタジオとしてやっているんですか?

いや、もうやってないですね。現在は1階が薬局になっていてそこの倉庫になってるみたいです。

でも野方のスタジオは部屋の鳴りも良かったし機材はめちゃくちゃ良かったんですよ。機材がそのまま使えますっていうスタジオ契約だったんですけど、80年代に作ったスタジオだから、その時代の機材がたくさんあったんです。ドラムもヤマハのレコーディングカスタムとか、マーシャルも800が2台あったりとか。スーツケースのフェンダーローズMARK1が2台もありましたね。それに自分が買い集めてた機材も加えてたので、高価なの機材が多くて異様な感じのスタジオでしたね(笑)。でも今の阿佐ヶ谷に移転する時にお金が必要だったので、結構いい機材を売っちゃったんですよね。

旧Studio Zot リハーサルスタジオ

高い物件を借りるわけなのでお金はやっぱりかかりますよね。野方から阿佐ヶ谷に移転するのはどれくらい期間があったんですか?

期間は3か月くらいしか空いてないんですよ。元々はZotの前はQKUっていうスタジオだったんですけど、昔だとThere Is A Light That Never Goes OutやkularaとかBAREBONESとかが使っていて。それで元kularaで現MERMORTのサトシさんが「QKUが閉店するから久恒君やってよ!」って教えてくれて。それで速攻話しにいきましたね。QKUはワンオーナーではなくて、会社が所有しているスタジオだったので、交渉も自分と会社って形だったんですけど。それでこうこうこの条件でこの家賃ならやっていいよってことになって。でも、最初は「機材残しておくのでそのまま使ってください」って話だったんですけど、いざ借りてみたら全部無くなってて(笑)

それはアリなんでしょうか(笑)

びっくりしましたね(笑)。やっぱり機材も売った方がお金にはなりますからね。直前で方向転換したんだと思います(笑)

でもそもそもなんですけど、野方を一回閉めた時点で「もうイヤだ」とはならなかったんですね。バリバリやる気があったというか。

そうですね。Skillkillsのスグル君と野方を閉める前に次のスタジオ候補は探してましたね。レコーディングスタジオでもいいなとかはあったんですけど。物件は色々探したり見に行ってましたね。保谷とか江古田とか、広くて安くていい物件があったりしたんですけど、やっぱりQKUは中央線沿いにあるっていうのは大きかったですね、やっぱりお客さんも来やすいので。まあでも成り行きで決めたってとこはありますけどね。タイミングはラッキーでした。

現Studio Zot(杉並区阿佐ヶ谷)

でもたとえばすごいお金持ってる人以外でスタジオを始めるってなると、居抜き物件じゃないと難しいですよね。物件とかは成り行きで決めざるをえないというか。

それはありますね。あとは始めたばかりの時は、「スタジオは部屋を貸すだけだからすぐに借金は返せる」と思ってたんですけど、物が壊れまくるんですよ(笑)。それの出費がすごくて。

特にシンバルがヤバいですね。安くても1万円とかのを使っているので、新しいのを買った3日後に割れた時とかはかなりキツかったですね(笑)。シンバルを水平にセッティングして、上からではなくて横から叩くと割れやすいんですよ。セッティングとか叩き方はその人のスタイルだから、こっちから止めてとは言えないんですけど…

横から叩いてるドラマーの人は止めましょう(笑)

あとはスタジオ経営初めて思ったのは、全然自分で練習に入れないってことですね(笑)。元々は自分がたくさんスタジオに入りたいっていうのがあったんですけど。

土日がメインの仕事ですしね。

そうですね。あと本当は置いてもらえるはずだった機材も無かったので、しらばくは6部屋のうち2部屋くらいで稼働してましたね。自分が集めた分の機材だけでやっていて。

その後は機材を買い足していったり、譲ってくれる方もいて、順に他の部屋も使えるようにしていきました。ドラマーの山本達久君、元Water Closetのドラマーだったzazoのアニさん、Blood Thirthty Butchersの小松さんとかが使っていたドラムを安価で譲ってもらったり。

ベースアンプもWho The Bitchのehiさんからメサブギーを譲ってもらって。ギターアンプもオプションで置いてあるのは、譲ってもらったり、自分の私物だったり、円高の時にeBayで買い漁ったりした珍しいアンプがたくさんあります。

Selmer TREBLE’N’BASS
SUNN solarus

あとBstにアップライトピアノがあるんですけどそれはドラマーの植村昌弘さんのご実家から引き取ったものです(笑)

最初からお客さんは結構入っていたんですか?

結構来てくれてました。全盛期の5,6年前は本当にめちゃくちゃお客さんが来てましたね。今はコロナでっていうのもありますけど、その一年前くらいからZotに来ていたバンドの解散が続いてしまってその時からお客さんは減ってきていましたね。不思議とバンドの解散のタイミングって重なるじゃないですか。周期というか。

不思議とありますね。あるタイミングで一気にたくさんのバンドが解散するっていうのは、何回も見たことがあります。

それで今はお客さん結構減ってしまっているんですけど、それでもなんとかやっていけてるのはレコーディングの仕事が増えてきたからですね。

最近はすごくたくさん録っていますよね。

スタジオを始める前からレコーディングはやっていたんです。レコーディングはお金が掛かるんで自分で録ってみようって感じで。わりとみんなそうだと思うんですけど。僕とスグル君はESPにいたので、その頃から仲間と一緒に録ったりもしてて。

そのあと一回デモを当時リンキーディンクにいた鈴木鉄也さんに録ってもらったんですよね。もちろんできあがった音はめちゃくちゃ良くて、それで更に興味が湧いて。あと若い頃ってお金ないじゃないですか(笑)。なので自分で録るようになりましたね。

今でこそ自分で録音するバンドやアーティストの方もどんどん増えてきていると思いますが、当時久恒さんはレコーディングの知識はどうつけていったんですか?

ほとんど独学ですね。最初は自分のバンドで実験しながら知識をつけていきました。本もネットもたくさん読んだし、プロの人からアドバイス貰ったりして、失敗もたくさんして、それをブラッシュアップして…の繰り返しですね。経験すればするほど上手くなっていくと思います。あとはやっぱりエンジニアを目指す人は色んな音楽をなるべく聴いた方がいいと思いますね。

独学というのが驚きですね。

でもちゃんと習ったとしても、10人エンジニアがいたら10通りの録り方があると思いますね。自分のドラムの録り方とかも変わってるタイプだと思います。普通だと垂直で録りますけど、前から録ったりしますし。

前から録ると、人間の視聴覚域と同じように聴こえるとか言いますよね。

そうですね。ライブでお客さんとかドラム以外の楽器の人が聴いてる音に近くなりますね。でも自分の中のブームもあるし年々変化もありますよ。

レコーディング面で好きな作品は何ですか?

そう言われると色々あって難しいですね(笑)。アルビニ作品はやっぱり好きですね。ShellacのAt Action Parkとか。やっぱり生々しいのも好きですね。自分はアルビニ作品を目指しているわけではないんですけどアルビニマナーはあります(笑)。あとはTortoiseのジョン・マッケンタイアがやった作品とか。

Shellac – At Action Park(1994)

日本の人でいったら、フィッシュマンズとかUAを録っているZAKさんとか。あとゆらゆら帝国を録っていた中村宗一郎さんも良いなと思いますね。特にレコーディングからマスタリングまで全部中村さんがやっている作品はめちゃくちゃいいですね。

ゆらゆら帝国-空洞です(2007)

海外のメジャーとかだと誰かいますか?

Al SchmittとかNigel Godrichとかはやっぱり凄いですね。でも海外メジャーは言い出したらキリがないですね(笑)

確かにそうですよね(笑)。やっぱりその辺はインディーのエンジニアの方がわかりやすく個性がハッキリしているというか。

でもアルビニとかはメジャー作品もたくさん録ってますけどね。Mogwai のMy Father My Kingってシングルがあるんですけど、それとかすごいことになってますね。

Mogwai – My Father My King(2001)

録音的に好きな年代とかあるんですか?

やっぱり一番聴いてたのが90年代だから、その辺りの音が一番自分に沁みついてる気がしますね。80年代の音も小学校とか中学校で聴いてたたけど、20歳くらいの時はその時代の音聴いたら「クソダセえ」とか思って(笑)。ゲートリバーブの音とか。でも今聴いたらカッコいいとかって思うし、周期というかそういうのは循環しますよね。それは録音だけじゃなくて音楽自体もそうですけど。

ちょっと前は80年代テイストが流行って、今は90年代の感じが流行ってますよね。

ファッションもそうですよね。最近はダボダボで大きい感じだったから、たぶんこれからは細身の感じが流行るんじゃないかな(笑)。でも音楽に関しては、今はどの年代も好きですね。そのおかげでというか、自分がレコーディングする時に「こうしてほしい」って言われて「?」ってなることはあまりないですね。

色んな人の注文に応えられるように色々聴くという面もあるんですか?

それもありますけど、無理矢理聴いてもしょうがないっていうのもあるんで、自分は好きで色々聴くタイプの人間だったという事が良かったと思いますね。ただ特定のジャンルだけが好きっていう人は、それの方が個性を鋭くできるというか、自分の色が出せるってのはあるかと思うんですけど。例えばサイケロックがめちゃくちゃ好きで、この人に頼めば間違いない、とか。

でもそれぐらい局所的だと日本の場合だと仕事にならないっていうのはありそうですね。アメリカとかだったらそのスタイルでもなんとか食えていけそうですけど、日本だとやっぱり音楽人口が少ないから特定のジャンルだけでやるってのは難しそうですね。

そうかもしれないですね。でも日本はそこまで狭くなくても、ジャンルに特化したエンジニアの人が多いと思います。自分に関してはある程度何でも録れた方がいいかなと思ってるんですけど。

あとよく思うのは、やっぱりエンジニアは機材・メカ好きの人が多いですよね。

そうですね。機械好きの人の方がハマりやすいと思います。やっぱり自分の機材を使いこなせてる、こうすればこうなるっていうのがちゃんとわかってることが大事ですね。

ただ自分はメカは好きなんですけど、強くはないんですよ。説明書も端から端までは読まないタイプですし。ただ、時間はかかるんですけど、ひたすら色んなところをいじりながら何とかしようとはしますね。分解とかは怖くてあんまりできないタイプなんですけど(笑)

僕らも含め、友達のバンドもZotで録ることも多いですが、やっぱりその他のジャンルもたくさん録っているんですよね。変わったレコーディングとかはありました?

色々録ってますね。演歌とか、音楽以外にもアニメのアフレコとか。シャクティのメンバーのパーカッションドラム録ったことがありますがマイクの本数がめちゃくちゃ多かったです。あとノイズとか録ったこともありますよ。

ノイズって他の人に録ってもらうこともあるんですね。アーティスト自身が持ってる機材でほとんど完結してるのかと思ってました。

そういう人が多いと思いますけど、自分が録ったのはINCAPACITANTSの美川さんとdoubtmusicの沼田さんのデュオのmnのライブ録音でしたね。あとは即興の録音とかもあります。インプロ系はわりとジャズっぽい録り方になりますね。

他にも、ジャンル問わずサブスクなどでも聴けないような手売りや通販のみのマイナーなCDになってる作品もたくさんやってきましたが、その中にもめちゃくちゃ名盤だなって思う作品結構ありますよ。

mn-無理難題(2014)

普段録音しているAスタは何人くらい同時に録れるんですか?

24畳なので大所帯のビッグバンドの一発録りとかは録り方次第では厳しいんですけど、5,6人編成くらいまでのバンドとかなら普通にいけます。Bスタにはアップライトピアノもあるんですけど、マルチケーブルで他の部屋と繋げれる構造なので、遠隔で同時に録れますね。この前は歌とピアノをそれぞれ別の部屋で同時に録りました。

Aスタはデッド感(音の反射、残響が少ない)が特徴的な印象もあるのですが。

確かに独特なデッド感があるので、わざわざうちで録りに来るエンジニアさんもいますね。

Studio Zot-Ast

いわゆる普通の音楽…っていったら変ですけど、自分たちのような一般的ではない音楽以外の方も録ってるんですね。たとえばポップスとか歌ものとか。

そうですね。結構多いですよ。元々特殊なバンドばかりを録っていたので、最初はビビりましたけど(笑)。普通のスタイルの音楽ってスタンダードにミックスしないといけないので。でも昔はボーカル録りとか一番ビビッてましたけど、むしろ今は一番楽しいかもしれないです。

ビビるとは、どういう意味でですか?

元々自分が楽器の人だから、馴染みがないというか(笑)。でもむしろ最近はちょっと音程がずれてたりすると気になるようになっちゃいましたね(笑)。歌は1番重要なんで。

前は本人が良ければずれててもいいって思ってましたけど、客観的に聴いて音程がずれて気持ち悪いところはちゃんと指摘するようにしていますね。本当にどうしようもない時はこっちでなんとかしますけど(笑)。こういうのが合うんじゃないですか?っていうことも言うようにしています。もちろんエンジニアに言われたくない人もいるので、「言ってください!」っていうオーラを出している人には言うようにしてるという感じですけど(笑)

レコーデングの機材について教えてもらえますか?

ハードウェアはPro Tools HD i/oでHDXを使ってます。LogicとかCubaseは使ったことないんですよ。元々はHDDMTRで自分のバンドとか録ってたんですけど、DAWになってからは初めからPro Toolsだったんです。対バンしてたバンドも録りまくってたんですけど、Pro toolsを持ってて、コンデンサーマイク、ショートのマイクスタンドを持ってて、Sureの57も何本も持ってて…みたいな人はあまりいなかったんですよね。自分だったら頼みやすいみたいのもあったのかもですけど(笑)。そういう風にしてるとだんだん友達の友達のバンドとか、元々は知らなかったバンドも録るようになっていって、仲良くなっていったりして。

あとは年下の子でエンジニアやっている人もいたりして、その人に録ってもらう時とかもあったんですけど、そういう人に色々聞いたり、情報交換したりして知識をつけていって。スタジオやる前からそういうことをしてたんです。それが23,4の時ですね。

Zotの他ではあまり置いてないような機材はありますか?

基本標準のものが多いんですけど、ギターマイクとかはビンテージ機種と同じタイプのものを揃えていますね。マニアックなものになってしまうんですけどSennheiser MD409とかですかね。今はE609とかが後継機種なんですけど、その前のモデルですね。ビンテージと同じ口径していて同じような音なんですけど、若干周波数の焦点のポイントが違ってて。MD409の次のMD509もあります。

左からSennheiser E609,MD509,MD409

バスドラはAKG D12とかもあります。D12はもう売ってないのでビンテージですね。現行機種のD112とかはみんな使ってますけどね。キックでもギターでもベースでも使ったりしますし。D12はジョン・マッケンタイアも使ってるマイクです。ただバスドラ用で言えばBeyerDynamicのM380TGが今欲しいです、アルビニが使ってるやつ。

AKG D12

あとはドイツのUherのM538とか。これは見つければ安いんですけど、物自体があんまりないんですよね。

UHER M538

定番のSennheiser MD421(通称:クジラ)も古いタイプの白色のがあります。

Sennheiser MD421(白クジラ)

最近のお気に入りは真空管マイクのWARM AUDIO WA-251です。

WARM AUDIO WA-251
その他様々なマイク

AltecのEQとかハードウェアも色々持ってるんですけど、ほとんど使ってないですね(笑)。ハードウェアで使ってるのはマイクプリくらいですね。HPには書いてないですけどAudientってところのものを使ってます。

エフェクトは基本的にはソフトウェアですか?

そうですね。音楽業界のスタンダードはUAD(ユニバーサルオーディオ)ですけど、自分はWAVESを使っています。UADは音がいいけど高いっていうのと、いわゆるUADの音になってしまうっていうのはあると思います。聴く人が聴いたら、UADっぽい音だなって分かると思います。まあそれを言ったらWAVESもそうなんですけど(笑)。

たとえば「BossのエフェクターはBossの音がする」みたいな感じですね。

あそこまで露骨じゃないけど、なんかエレハモっぽいとかそんなです(笑)。WAVESは全部のプラグインが使えるMercuryってバンドルが100万円なんですよ。でも下位のHorizonが50万円くらいで、それを買ってアップデートするとMercury がプラス2~30万で買えるんですよね(笑)

デジタルってなんかスゴイですよね、今サイト見たらHorizonは94%オフで3万円になってましたけど(笑)。ちなみにMercuryも79%オフで20万円ですね(笑)(※2021年12月1日時点)

レコーディングの時はエフェクトをかけ録りしますか?

基本的にはしないです。素の音で録ってミックスの段階で色々とやっていきますね。ハードウェアを使ってかけ録りをすると、たとえば「こういうコンプにする」っていう制限の中で録ってるので、まとまりやすいという良い面もあるんですが。ただ、自分は素の音で録音するタイプなので、後で変化つけたり、その人の出してる音で一番いい音を探るってことをしますね。でもバンドごとにそれは変えてるイメージです。いろいろな要望もありますし。

自分とかもそうですけど、専門用語がわからないとなかなか要望を伝えるのが難しい時もありますね。めちゃくちゃなことを言ってるかな?とか不安もあったりするんですけど(笑)

それはこちらが頑張るというか、理解することがエンジニアのやる仕事なのかなと自分は思いますね。抽象的、長嶋茂雄的な伝え方で大丈夫です(笑)。むしろ専門用語が分からないなら、分からないまま伝えた方がいいと思うんですよ。

専門用語を誤って解釈していると、エンジニア側も逆にわかりづらくなってしまうんですよね。「ここの低音を~」って伝えてたとしても、それが実際は低音じゃなくて全然別物だったりすることもあったりするので。もちろん、その時はそれも含めて、その人が伝えたかったことを頭の中で考えて修正するんですけど。専門用語を理解しているにこしたことはないんですけど、たとえば「ドカンとか来るように!」っていうのでも僕は大丈夫です。

でもこれはエンジニアによるかもしれません(笑)。「わけわかんねえこと言ってんじゃねえ!」って言うエンジニアの人もいるかもしれないです(笑)

人によると(笑)

ただ、要望はなるべく録る前に言ってほしいですね(笑)。録った後に「こういうバンドの音にしてほしい」っていうのは難しいというか、現実的に無理なこともあるんですよね。頑張りますけど(笑)

録り音で大部分が決まってくるということですよね。それはエンジニアの人はよく言いますよね。

あとこういう雰囲気の音にしたいっていう見本の音源があれば、事前に聴かせてほしいですね。もちろん全く同じじゃなくてもいいので、こういうのを想定してますっていうのがあれば。

レコーディングの際の心構えというか、アドバイスはありますか?

前もって機材のメンテナンスをしておくこととか、基本的なことをやっていればいいと思いますよ。ちゃんと曲を固めておくとか。

アドリブを録るためにあえて曲に空白部分を残しておくのはいいと思うんですけど、当日にアレンジ変えたり、他のパートの人に無茶ぶりしたりとかは止めた方がいいですね。ほんとのプロの人だったら別ですけど(笑)

やっぱり基本は今まで積み重ねたことを本番で出す、っていう方がいいと思いますね。熟成されて、もう録った方がいいよねって思ったものを録るというか。まあでも自分もレコーディング後に気づきがあって、録った後に曲が良くなっていく…ってことはよくあるのでなんとも言えない部分もあるんですけど(笑)

あとはシールドは500円の安いのとかではなく、高めのものにした方がいいと思いますね。そこは絶対音が良くなるので。悪い音を狙って、わざと安いのを使う人もいますけど。

あえて、とか確信犯的ではなく、なんとなく悪いものを使ったり、なんとなく曲の空白部分を残すのは良くないということですね。たしかに何でもそうかもしれないですけど、適当に決めたりやったりして偶然良くなることなんてほとんど無いですよね。

あとはよく寝てリラックスすることですかね(笑)。でもこれに尽きると思うんですよ。やっぱり緊張してしまいますし。いかに普段の自分を出せるかが重要だと思います。その辺りはスポーツと同じですね。4,5回以上録り直すしたりすると、だんだん演奏も良くなくなってくることが多いですし。

それはなんとなくわかります。あんまり何回もやるより、1,2回で録った方がノリというかテンションもいい感じで収められますよね。
自分目線で演奏側のことを色々質問してしまいましたが(笑)、レコーディングエンジニアを目指す人にアドバイスはありますか?

教科書を読んで「こうだからこうする」っていうやり方ではなくて、ちゃんと聴いて、違うなと思ったら変えていくということが大事だと思います。固定概念や数字、パラメーターに縛られるのではなく、生きた知識や自分の耳を信じることも重要ですね。

Studio Zotの今後の展望はありますか?

そうですね…やっぱり機材はレベルアップしていきたいですし、単純にスタジオの規模を大きくしたいとは考えてます。まあお金はかかってしまうんですけど(笑)、もっとスタジオ全体のクオリティを上げていくのが目標です。お客さんいっぱい来てください。