ダムドという名の深き森 -episode5

The Damned ‎– Machine Gun Etiquette(1979)

text by Tsuneglam Sam/YOUNG PARISIAN

パンク史、いやロック史に残る名盤『MACHINE GUN ETIQUETTE』。デイヴ・ヴァ二アンは「グレイトだ」と、そしてキャプテン・センシブルは「完璧に近いアルバム」と語る本作をさらっと終わらせるには惜しいので、もう少し詳しく書いておきたい。

前回、本作の冒頭2曲が後のハードコアパンクの誕生に与えたであろう“直接的な”影響について書いてみたが、タイトルナンバー 『MACHINE GUN ETIQUETTE』 はただただ高速なだけでなくそこにひとつおもしろい仕掛けが組み込まれている。それはゲイリー・グリッターの代表曲『Rock And Roll Part 1/Part 2』のリフの挿入だ。これは偶然かどうかとキャプテンに尋ねたところ……。

以下のやりとりをご覧あれ。

キャプテン「偶然かって? (ぺしっと自分の手の項を叩き、やっちまったよってな仕草で)いや、意図的だよ(笑)」

デイヴ「キャプテンはゲイリー・グリッターの大ファンなんだよ」

キャプテン「実はゲイリー・グリッターに会ったことがあるんだけどすごくナイスな人だったよ。俺がまだいちファンの時の話だけどね。ライヴの後の打ち上げに潜り込んで『ポスターにサインをしてもらえませんか? すぐ帰りますから』って頼んだら快くサインしてくれてさ。おまけに『好きなだけ食べて飲んでいきな、きっとこの部屋で俺のこと好きだって言ってくれるのは君だけだからね』って言ってくれたんだよ」

ゲイリー・グリッターはご存じのようにかなり難ありの人物で、今となっては“好きだった”ということも許されないようなムードではあるが、それはひとまず置かせていただくとして、こんな風にゲイリー・グリッターとの思い出を嬉しそうに語ってくれたキャプテンはインタビュー直後のライヴ(『SUMMER SONIC』 2004年)で「Machine Gun Etiquette」の例のフレーズに入る直前に高らかと“Gary Glitter!!”と叫んでくれたのだ。これはエピソード2でも述べた“指さしからのマーク・ボランに捧ぐ!!”MCに続く、我がロック人生における大事件のひとつである。 恐らく私がインタビューで訊かなきゃそんなことをライヴで叫ぶこともなかったはずだからね。

Gary Glitter – Rock And Roll, Part 1/ Part 2(1972)

さて、本作はミック・ロンソンからキャプテンがレコーディング用にギターアンプを借りたことやマーク・ボランの訃報を知ったキャプテンが『Smash it UP』のパート1をすぐさま書き上げたことはエピソード2で述べたが、このアルバムは他にもトリビアが多い作品なのでいくつか書いておこう。

まず冒頭の「Ladies and Gentlemen How Do?」の語りはジャック・ハワースというイギリスの俳優の1971年のスポークンワードアルバム『Ow Do』を用いている。

ジャック・ハワースはイギリスのテレビのドラマ「コロネーションストリート」でアルバート・タトロック役を1960年から1984年までを演じたことで有名なようだ。

それから『Noise, Noise, Noise』のコーラスや『Machine Gun Etiquette』のハンドクラップには同じスタジオで『LONDON CALLING』を録音していたTHE CLASHのメンバーが参加。 「ハンドクラップやらせたらクラッシュの右に出るもんはいねえよ」とはキャプテンの弁。

また、作詞作曲に関してDAMNEDのメンバー以外の人物が含まれてることも洗い出しておこう。
まず『Anti-Pope』のクレジットに名をつらねているフィリップ・バーンズ はキャプテンと同じく初期Johnny Mopedのメンバーだ。続いて『Noise, Noise, Noise』のジャネット・ワードはラット・スキャビーズの当時のガールフレンド。そして『I Just Can’t Be Happy Today』にクレジットされてるのはジョバンニ・ダドモ。この人物は『SOUNDS』誌のライターなのだが、オブスキュアなパンク好きには有名なSNIVELLING SHITSのメンバーでもある。

ちなみにこのジョバンニはDAMNEDの『There Ain’t No Sanity Clause』、『Dr Jekyll & Mr Hyde』でも作家のひとりとしてクレジットされている。

The Snivelling Shits ‎– Terminal Stupid I Can’t Come!(1977)

次にジャケットを見てみよう。”ベレー帽にサングラス”と並んでキャプテンのトレードマークとなる“バードスーツ”がここで初登場している。果たしてこれはどこで手に入れたものなのか? 私は以前キャプテンにそれを訊いてみたことがある。

「HULLという街でライヴをやった時の前座のバンドがこのニワトリスーツを持ってたんだよ。見た途端に欲しくなって、10ポンドで売ってくれないかって頼んだけど、これは俺のイメージそのものだからって言われてさ。それでも交渉し続けて50ポンドまで値段を上げてやったのにまだ拒みやがったんだ。だからもう・・・・しょうがないから盗んじゃったんだよね。そりゃあすんげぇ怒ってたよ(笑)。もともとは頭までのかぶりものもついてだんだけどね」

一言で言ってひどいエピソードだが、せっかくなんで私はその衣装を盗まれたバンドを割り出してみた。『MACHINE GUN ETIQUETTE』が79年の3月~5月と7月~8月に録音され、同年11月にリリースされたことを考えると、被害者はおそらく79年3月20日にHULLで共演しているROOM SERVICEというバンドであろう。共演者は他にもAUNTIE PUSというラット・スキャビーズとも所縁のあるバンドがいるのだが、彼らはこの時期DAMNEDとTHE RATSのツアーにほぼ同行していたことを考えるとわざわざ「HULLでやった時の前座のバンド」なんて言い方はしないと思われるので、やっぱりROOM SERVICEではないかと踏んでいる。因みにこれはせっかく特定したんで書き残しただけで、本題とは全く関係ありません。あしからず。 ただ、このバードスーツを盗ませてくれたおかげでDAMNEDのロックンロールサーカスなイメージが更に強固になったのは間違いないだろう。

トリビアはこのくらいにして、とにかく2ndまでの曲をほとんど作ってたブライアン・ジェームスなき後の不安を吹き飛ばし、名曲を立て続けに収めた大名盤として今も燦然と輝いているのがこの3rdアルバム『MACHINE GUN ETIQUETTE』なのだ。

聴きどこだらけの本作はMC5のカヴァー『Looking at You』や『Anti-Pope』の後半のXタイムのセッションなど、これぞ2ndでやろうとして出来なかった「実験的」で他のパンクがやらなったことを軽々とやってのけてるし、ワルツというか悪夢のメリーゴーランドのようなサーカスデカダンスなナンバー『These Hands』などもバンドの音楽的な幅とイメージを広げるのに一役買っている。

では、前回、思わせぶりに書いた「DAMNEDはこの3rdからそれまでの彼らとは決定的に違うバンドへと変貌を遂げている」理由を述べたいと思う。

それはズバリ言ってリフの名手ブライアンからメロディの名手キャプテンとデイヴにコンポーザーが移ったことである。これによってダムドは歌メロの幅が激的に広がったのだ。なんだそんなことかと簡単に片づけないでおくれ。ギターリフ中心のロックってのはすなわちR&Bから直接産み落とされたようなものである。ストーンズなどの英国60sブリティッシュビート勢はもちろん、そこに影響を受けたガレージパンクも、はたまたハードロックも、そして多くのパンクすらもこのリフ・ロックに基づいているのだ。
ところがキャプテンは元々オルガンプレイヤーでブライアン・オ―ガ―などにも影響を受けていただけあってメロディー先行の曲作りが中心となっている。 もちろん3rdには2nd後の一時解散期の曲も含まれているのでそれらはリフ中心ではあるが、『I Just Can’t Be Happy Today』や『Melody Lee』、『Plan 9 Channel7』や『These Hands』、そして『Smash It Up』などは明らかにメロ中心だ。

Captain Sensible

リフ型かメロ型なんていい曲だったら関係ねえじゃんって思う方もいるかもしれないが、それによってヴォーカルスタイルも大きく変わるのはわかっていただきたい。それはもうヘタクソながらも10代からずっとバンドでヴォーカルを担当してる私が痛いほど感じてることなのです。簡単にいうと、例えばビートルズの曲の多くはやっぱりメロ中心なのでなんとなく口づさめたりするもんだが、ストーンズみたくリフ中心の曲は黒人のR&B流れの歌唱なので非常に歌うのが難しい。メロ型は“上にのっかって流され”ていくのに対し、リフ型はそこに“言葉を置いていく”といえばわかりやすいかもしれない。いや、わかりづらいかな?

とにかくそんなことを注目しつつデイヴの2ndまでの歌い方と3rd以降の歌い方を聴き比べておくれ。初期は良くも悪くもどこか一本調子だ。そしてそれが無機質で不気味な魅力を放ってるのも事実であろう。だがしかし3rd以降の彼はヴォーカリストとしての圧倒的な存在感が開花しているのだ。パンクロックの中にバリトンヴォイスやロックンロール誕生以前からあるクルーナー唱法(ソフトに優しく語り掛けるようなスタイル。起源はイタリアのオペラ歌手がオーケストラをバックに歌っているものにジャズやブルースの語り口が加わったもの)を持ち込んだ男、デイヴ・ヴァ二アン。それこそが彼が唯一無二の存在である由縁だ。
デイヴ・ヴァ二アンの歌唱やメロディ作りには多くのクルーナー系シンガーの影響が垣間見ることができるが、そこにジョン・バリー、ヘンリー・マンシーニ、エンリオ・モリコーネなどの映画音楽の要素がミックスされてるのも非常に重要なポイントである。あの『Love Song』にすら西部劇的な哀愁の旋律を聴きとることが可能でしょ?

Dave Vanian

ヴォーカリストならばやはり歌ってて気持ちの良いメロを、自分の歌がよりうまく聴こえるメロを歌いたい。それはもう当たり前のこと。デイヴが本当にそう思ったかどうかは知らぬが、DAMNEDが『MACHINE GUN ETIQUETTE』の後に『BLACK ALBUM』の発売を待たずに世に放ったのはJEFFERSON AIRPLANEのカヴァー『WHITE RABBIT』のシングルだ。

The Damned ‎– White Rabbit(1980)

こんな難易度の高い歌を見事歌いこなすことに成功したデイヴは、パンククルーナー歌手としてその後も堂々と『ELOISE』や『ALONE AGAIN OR』のカヴァーにも挑み、結果として世界中の多くの音楽ファンを魅了し、賞賛を浴びることとなったのはご存じの通りであろう。

己の美学に忠実に生きる男、デイヴ・ヴァ二アン。デイヴ・ヴァ二アンは一貫してブレることがない。そんなデイヴのルーツを中心に次回は書いてみたい。

ダムドという名の森はまだまだ深い。