Review-V.A. ‘Trip to Japan’

text by Hyozo-ゴヰチカ

インターネットの海で最近、Weedianという奇妙な組織を発見しました。ストーナーロック(植物やお酒を愛する人たちのロック)の聖典と称されるSleepの名作「Dopesmoker」(植物にまつわるとんでもないコンセプトの大作)に登場する一節から名付けられたこの組織は、Facebookやtwitter, Instagram, PatreonなどのSNSでストーナーロックシーンのライブ情報や動画、記念日やミームなどを日々人々と共有しながら、これまで20作以上にわたるコンピレーションをBandcampやYoutubeでリリース。その再生回数は100万回を超えるなど、どうやら少なからぬ影響力がある模様。

今回発表されたV.A.- Trip to Japanは全40曲というとんでもないボリュームで「現代日本のストーナーロックシーン」という知られざるジャンルを総覧できるものとなっており、まさに美味しく重い音が食べ放題。

V.A.Trip to Japan(2022)

さて、ドゥームメタル、スラッジ、デザートロック等細かいサブジャンルに分類されることもあり、Melvinsなどのグループを介してグランジの勃興に影響を与えたこのジャンルですが、そのルーツには70年代の伝説的グループ、Black Sabbathの存在が大きいことで知られています。

つまり彼らはSir Lord BaltimoreやBlue Cheerなどのブルースにルーツを持つサイケデリックロックの中でもよりダークかつラウドな路線に向かった一派であり、そのシーンの人脈はハードコアパンクや広義のヘヴィメタル、プログレッシヴロックやアンビエントの世界にも繋がっています。そしてライブにおける常軌を逸した大音量や瞑想的な即興演奏なども珍しくありません。

今回はこの知られざる国内の秘境を「Weedian」となって巡礼してみましょう。

1. Kikagaku Moyo – Tree Smoke

フジロック2022出演決定、言わずと知れた日本産サイケバンド、Kikagaku Moyoが軽やかなムードを纏わせながらジャムバンドとしての本領を発揮した一曲。心地よいグルーヴ感、音色の豊かさが楽しい。後半はしっかりラウドに〆る。

https://www.instagram.com/kikagaku.moyo/

2. Church of Misery – Road To Ruin

シリアルキラーをテーマにした曲たちで知られるシーンの重鎮。チャールズ・ホウィットマンをテーマにした歌詞と、どろりとした低速リフで個性を発揮しています。画像検索するとわかりますが、ベースの構えがめちゃめちゃ低い。

http://www.churchofmisery.net/

3. Dhidalah – A.U.M

タイトル通り密教的ムードを纏わせる重厚な一曲。リフとマントラのようなヴォーカルが絶えず降り注ぎ、アジアのロックという印象が強調されます。ちなみにギターのKawabe氏は元Church of Miseryなので、それを意識した曲順かもしれません。

https://www.facebook.com/Dhidalah/

4. Eternal Elysium – Ancient Soul

ここまで日本語で歌詞が聴き取れるクリーンボーカル、実はこのジャンルではとても珍しい。ライブに真価がありそうな長尺曲です。1991年の結成以来メンバーは様々なバンドに参加しており、まさにシーンの重鎮的存在。

http://www.cornucopiarecords.com/ee/news.html

5. Black Creek Drive – 泥濘の中 In The Sludge

軽快なテーマで2分半駆け抜け、後半は沈み込むような低速で広がるスラッジーなリフの上でギターが歌う。不思議な魅力のある一曲。

https://blackcreekdrive.wixsite.com/black-creek-drive

6. Hebi Katana – Pain I Should Take

ベースの粘るフレーズがかなり気持ち良い。シンプルなビートをひたすら全力で打ち出し続けるドラムの鍛冶屋的職人芸も素晴らしいです。

https://www.facebook.com/profile.php?id=100062960723237

7. Lightning Swells Forever – Fire In Your Eyes

最も80年代の様式美的メタル、ハードロックの要素を感じたキャッチーな一曲。これも当コンピの多様性のひとつですね。

https://twitter.com/lsf_fsl

8. Hibushibire – Blow ! Blow ! Blow !

ドライな音像が他の収録曲といい感じのコントラスト。声はレスリースピーカーのようなエフェクトを通されていて完全に楽器としての扱い。ブレイクからはブルージーな展開で、ジャムバンドとしての一体感が見事です。最後は絶頂に向けて全力疾走していくランナーズハイ的快感あり。

https://www.instagram.com/hibugram/

9. Blasting Rod – Switchblade Cars

前半は歪んだベースがリフを主導するヘヴィブルース。ブレイク後はサイケなアルペジオに胡乱な効果音が絡むアシッドな空気のジャムへ。ユニークでかっこいい。

https://www.facebook.com/blastingrod

10. Sonic Flower – Cosmic Highway

パンキッシュでスカッとしたインストゥルメンタルで、10分近い長尺の曲が多い当コンピでは一服の清涼剤のような存在。個人的にはチェコのREKというバンドを思い出しました。Church of Miseryのベースにして中心人物のTatsu MIkami氏が結成したグループのようです。

11. Sithter – Color Me Blood Red

遅いリフ、ダーティでロウなシャウト。金物にフェイザーをMaxにしたようなエフェクトが薄くかかっていて、さながら隠し包丁のような技が心憎いです。

https://www.facebook.com/Sithter

12. BlackLab – Weed Dream

このコンピでは貴重な女性グループによる一曲。彼女たちもよく出演する大阪緑橋の戦国大統領というライブハウスは駅の構内という驚きの立地でヘヴィなサイケデリックミュージックを数多く聴ける聖地。タイトルも直球でいいですね。

https://www.facebook.com/blacklabmoon/

13. Greenmachine – Dragon’s Sorrow

緑機械。ハードコアロックを標榜するスカッとヘヴィなサウンド。都内ハードコアの中心地の一つ中野Moonstepや新大久保Earthdomでもよくライブをしているようです。

https://www.facebook.com/GREENMACHiNE.Hardcorerock/

14. Guevnna – The Bloom

ミドルテンポでブルージーな渋めのロックでいい感じ。ヒリつきつつ枯れたギターの音色が侘びですね。

https://www.facebook.com/guevnnaband

15. Joseph of Kirezi – Theme

焼け付くようなリフの繰り返しとシンセサイザーによる「宇宙音」の組み合わせなどに重鎮Acid Mothers Templeからの影響を感じます。そう、お気づきの通りエネルギーを最大限ライブで放出しようとするならば、曲は極力シンプルな方がいいのです。

https://www.facebook.com/kirezinojoseph/

16. Blind Witch – FLY To The Witch Mountain

三重県桑名市のドゥームメタルバンド。ヴォーカルからBlack Sabbath愛が溢れ出ています。ギターのトリルが様式美的!

https://www.facebook.com/profile.php?id=100063703894771

17. 沈む鉛-Shizumunamari – 自堕落 Decadence Bloody Decadence

ベースヴォーカルとドラムの2ピースバンド。ナチュラルダウナー感溢れる中にも歌に向かおうとするエモーショナルが滲むリアル日本人サウンド。しっかりパンクしてます。

https://twitter.com/shizumunamari

18. North by Northwest – Beyond the Limit

砂漠などない神奈川県にありながら圧倒的デザート感を放つ渋い若手3ピース。ここからどのような路線に進むのか期待高まるグループです。

https://www.instagram.com/northbynorthwest_jp/

19. Prodigal man – The Four Horsemen

大阪のグループのようですが、こちらはドゥームメタルに一途な一曲。職人的なサウンドメイキングに安心感があります。

https://www.facebook.com/prodigalmandoom/

20. Crocodile Bambie – Freedom

スペーシーなイントロがクラウトロック風で良さげ。メインのリフに突入してからの歌心にはどこかジミ・ヘンドリックスを感じるところもあります。不思議と爽やかな一曲。

https://www.facebook.com/crocodilebambie/

21. Genocide Nippon – Living Legend

なんと結成は1979年に遡る国内最古のドゥーム系メタルバンド。燻銀なサウンドメイクはもはや伝統の域!

https://www.geno666.com/

22. Euphoric Zen Sessions – Terra’s Aspect

まさにエレキギターによるエレキギターのためのインストゥルメンタル。Nobukazu KatagiriとYukito Okazaki(ETERNAL ELYSIUM,STUDIO ZEN)、Yoshihiro Yasui(CROCODILE BAMBIE,OUTRAGE)の3人によるセッションで、この辺りの人脈の交流が伺えます。

23. 101A – Sea

切迫感あるグランジ、ポストハードコア風の演奏にメロディアスな女性ボーカルがシューゲイザーっぽく漂う当コンピでは異色のナンバー。これがストーナーロックかと言われると判断に困るところですが、一服の清涼剤としてはとても効果的です。

https://101a.org/

24. Black Market – Witch

重い!遅い!煙たい!と三拍子揃いで、まったりとした土着音楽の趣さえある10分間。こういう曲で盆踊りもありなのではないか。

https://www.facebook.com/nucoblackmarket666/

25. Tsukamaro – 土に溶けた記憶 (Tsuchi ni Toketa Kioku)

乾いたギターの音色、どこかMotorheadを思わせるような暴走ロックンロール。とても男らしいサウンドで、テストステロンに訴えかけてくるタイプ。

https://twitter.com/tsukaandmaro

26. Bastahaze – Full Black

スラッシュメタルの要素も取り入れつつ、歌モノという要素も強く感じる一曲です。岩手のアンダーグランドというまさに秘境からの参加。

https://www.facebook.com/BASTAHAZEBURIAL/

27. ITHAQUA – Death Drain

ヴォーカルのダーティさはこのコンピでも随一!ジャリジャリした音の渦の上で唸る声がなんとも言えず生々しいです。

https://www.facebook.com/ithaquajp/

28. Vomit Monster – Night Survivor

eyehategodも引き合いに出されるような本格スラッジーサウンド。聴く側にも体力を求めるようなパワフルでぶっとい男の世界。 ライブ現場ではこういう音が一番強い。2020年に活動を休止しているようです。

https://twitter.com/vomit_monster

29. Garadama – At The Doze

そろそろ耳も脳みそも疲弊してきたあたりでもお構いなしに、重く沈み込むような曲調が続きます。94年結成、かなりの歴史を持つドゥームメタルグループのようです。

https://www.garadama.com/

30. Khola Cosmica – Denjinmara

BPMの遅さが極限に達し、時間の間隔が狂ってきます。遅く、暗く、声も何を言っているのか聴き取れず、まさに終末的な世界観が貫かれています。そしてビートが抜けるアンビエントパートを含めて17分近くもあるエクストリームな一曲。

31. Hylko – Fullsmoke Gloria

ドラムとベースだけの2ピースバンドで、なんと歌さえありません。それでもここに鳴っているのは紛れもないロック。肉や皮を剥がされ、ロックが骨だけとなった姿なのかもしれません。

https://twitter.com/hiruko49108962

32. Floaters – Cluster Amaryllis

日本人離れした渋い風貌の3人組によるスラッジバンド。見た目も音も素晴らしく暑苦しい。彼らがよく出演する西横浜El Puenteにもストーナーロックのシーンがあるようです。

https://twitter.com/TxJun666

33. The Outburn – Saharan

Kyussからの影響もありそうな愛知県産デザートロック。他のレビューでも言われていることですが、日本語の歌詞が違和感なく曲に溶け込んでいて演奏もタイト。しかもよく聴くと歌詞が結構ポジティヴというのがこのジャンルでは珍しい。

https://www.facebook.com/theOutburn/

34. The Scathe – Slow Dance

茨城のストーナーロックバンド。文化不毛の地、茨城県からこの音が生まれてくるのは驚きです。ダークかつ穏やかささえ感じさせるスローテンポなインストゥルメンタルでリラックスできます。

https://thescathe.bandcamp.com/

35. Inside Charmer – Stride Over

汗と涙滴る益荒男たちによる勇ましい一曲。Real Doom Rockを自称しており、西横浜El Puenteによく出演しているようです。

https://twitter.com/insidecharmer

36. Redwood Blues – Black Crown

おそらく神奈川を拠点とするオブスキュアなパワートリオの一曲。このコンピレーションの中でも突出して録音がローファイで面白いです。

https://mobile.twitter.com/redwoodblues

37. nibs – Worth

名古屋のグループ。軽やかなドラムイントロがどことなく爽やかで、真っ直ぐな歌詞とミュージシャンシップ溢れる演奏に確かな実力が伺えます。

https://www.facebook.com/nibsdoom/

38. Abiuro – 21g

フィードバックノイズが幽霊の声のように囁くイントロ。ドロップチューニングの低音リフの奥から絞り出されるグロウル、まさに暗黒の沼。

https://www.instagram.com/abiuro666/

39. Oldemada – Okinawa

沖縄、それはかつて日本ではなかった場所。ファジーなファンファーレの中、雄叫びがこだまする。ラウドさの奥に二六抜き音階の南国ムードが見え隠れする不思議な一曲。なおバンドの拠点は香川県のようです。

https://twitter.com/oldemada

40. Riffana – Burn The Empress

雅楽(越天楽)を塗りつぶすファジーサウンドは深読みすればアンチ皇室のメッセージともとれるラストナンバー。穏やかなアルペジオで終わっていくのがかえって不穏ですね。

https://www.facebook.com/obeytheriffana/

爆音を皮膚で浴びることだけではどうやらまだガンは治らないようですが、気分スッキリ、鬱に効くのは間違いない。ぜひこのコンピレーションがライブハウスへの巡礼に向かうガイドの一つになればと思います。

ちなみによりドゥーマー(ミームの一種、詳細はググれ)な内容のDoom FujiyamaというコンピレーションもBandcamp上で発表されており、Trip to Japanとやや趣は異なるものの、こちらもシーンとしては近いジャンルなので要チェックでしょう。