ライブレポート – Maya Ongaku presents ‘ISHIKI NO NAGARE’ at Oppala 江ノ島

text by Hyozo-ゴヰチカ

江ノ島はかなり独特な風土を持っている土地です。古都鎌倉にほど近い海沿いの観光名所であることもさることながら、道を歩けばサーファーや外国にルーツを持つ人々の自由なファッションが目に入り、そして何より生命力に満ちた顔をしている人が多い。

そして素敵なバーやライブスポット、服屋にアートスペースなど、何世代にも渡って土地に積み重ねられてきたインディペンデントな精神。ここまで自由でオープンな気風を感じさせる街は首都圏ではちょっと他に思い浮かびません。

そんな江ノ島でサイケデリックロックバンドとDJによる素晴らしいイベントが開催されました。会場は長年に渡りロックやヒップホップ、DJイベントなどの開催拠点となっているライブバー/カレーダイナーのOppa-La (オッパーラ)。

江ノ島を望むビルの4階というロケーションもはっきり言って最高で、会場の入り口にはHappyのメンバーとその友人たちが直々に受付を担当。すでに会場内に「良いバイブス」が満ちていることを感じます。

この日のオーガナイザーでもあるMaya Ongakuはこの地で結成された5人組グループ。テナーサックスとYAMAHAの巨大なヴィンテージキーボードがうやうやしくステージに並べられていくのを見ているだけでもワクワクしてきます。

ちなみにオッパーラではステージと観客の間がフラットで境目がなく、それがフレンドリーな空気をより演出しているかのよう。一度演奏が始まると、グルーヴィーなベースを軸に、ラウドになりすぎず軽快なギターが時にファンキーに、また時にPink Floydのような幽玄さを演出。

ミニマルな展開でじわじわと上り詰めた先に広がる激しくラウドな展開ではギターと共にテナーが叫び出し、観客たちも激しく乗ったり、まったりとチルしながら聴いたりと自由そのもの。70sスタイルの音色、ルーツに感じるクラウトロックやプログレッシヴロックのテイスト、囁くようなヴォーカルのアプローチを含め、Kikagaku Moyoが改めて示したロック文化が新たな形で日本に根付こうとしていることを強く感じるステージでした。

DJ陣はツアードライバーとしての顔も知られるDJ Roadman, ロン毛の青年が集う江ノ島のヴィンテージ古着の名店として名高いAce General StoreからYota Ito、こだわりの自家焙煎珈琲店「周波数」から瑠偉氏など、界隈のエネルギーを正しくエンパワーメントする面子。もちろん選曲は最高で、フロアの空気が澱むことはありません。

後攻のHappyはメンバー全員未だ20代ですが、すでに結成10年目の手練れ。ギターヴォーカルのAlecを中心に、全員ロックミュージシャンとしての華があります。どこかTemplesを彷彿とさせるようなサイケデリックポップを身上とする彼らを見るのは、2014年にNHKで放送された「NiPPoN RockS」というTV番組以来、8年ぶりのこと。生演奏を見るのは初です。

その番組が放送された頃彼らはUSツアーを行なって破天荒なステージを繰り広げていたようですが、結成10年目の強みはやはりメンバー同士のグルーヴの共有と洗練されたステージング。ポップな歌を挟んで繰り広げられる即興性の高いインストゥルメンタル部分の瞑想性に、深い酩酊も相まって思わず意識が飛ばされそうになります。踊る人々、飲み干される酒、紫煙。本質的な酒場の音楽。2杯目のバーボン。意識の流れ。

「君ハーフでしょ?どこ?俺ブラジル」

「私インド。」

「インド超いいね。かわいいよ。」

聞こえてくる屈託のない男女の会話。束の間のシンプルな世界。ソファに沈む俺。隣の青年チャーリーに火をもらい、巻きタバコに灯す。幾分か目が覚める。ヤーマンたち。

Happyのセットが終わると、最後にMaya OngakuのメンバーとHappyのメンバーでスペシャルセッションが行われました。Bフラット一発の即興にもかかわらず、段々と各人のプレイが一つの集合体となり、Kevin Ayersのソロのような祝祭的ブラスロックへと形を変えていきます。途中で小さい子供が演奏に参加していたのも「アジテーション・フリー」といった趣で素晴らしかった。

底抜けに肯定的な会場の空気感、音楽とこの空間を楽しもうとする観客と演者の一体感、ラウドすぎずほどほどの音量。江ノ島以外でこの雰囲気はなかなか生まれないだろうなと思う反面、いつか日本中でこのような光景を見てみたいと思わせるような素晴らしい一夜でした。