Interview-LUCA TIERI(ルカ・ティエリ) / イラストレーター/コミックアーティスト 後編

Mitsumami(2016)

前半にお聞きした内容と少し重複するのですが、日本に来たきっかけとして日本のバンド、音楽が大きかったという事で、その辺改めて教えてもらえますか?

90年代にパンクにはまってから、The Devil Dogsが好きになって聴いていく中で、それよりもっと速くて激しくてダーティなサウンドのTeengenerateやGuitar Wolfを知って「こりゃ、やべえ」と思って。Guitar WolfはMTVでも流れていたし。20歳くらいの時かな、当時のイタリアでのライブは観れていないのだけれど。

Teengenerate – Smash Hits!(1995)
Guitar Wolf-LOVE&JETT(2019)

僕の同世代のアメリカの友達も、当時USツアー中のTeengenerateを観たのが人生最大の衝撃で、だからバンドを続けてるって言ってました。やっぱり海外での影響力が凄いですよね。

そうですよね。その他のバンドではRegistratorsとかFirestarter(ex-Teengenerate)も大好きでした。

Registrators – Terminal Boredom(1996)
Firestarter – Firestarter(2000)

イタリアにいるころから色々と日本のバンドを聴いていたんですね。

そうです。The Titansとかも、レコードを聴いていたし。Gimmiesもイタリアにいた時から知っていました。あと、Banana Erectorsのレコードをローマで買ったのを覚えています。

Supersnazz 、The 5.6.7.8’sも好きでした。映画『キル・ビル』はThe 5.6.7.8’sが出ているとは知らずに観に行って、映画館で興奮して騒いじゃって。一緒に見に行った友達に「静かにしろ!」って注意されたくらい。

Woo Hoo-The 5.6.7.8’s

The 5.6.7.8’sも海外で人気がありますよね。

イタリアでは一般的に浸透していたわけではないけど、日本と同じでガレージパンクが好きな人には知られていたと思います。Teengenerateについては日本に来てから、新代田Feverで再結成ライブを観れたんです。めちゃくちゃ楽しかった。

Teengenerateは彼らの好きなロックンロールをバラバラにして、再構築して聴いたこともないような新しい音楽を作っていた。だから多分海外でも高く評価されてたんじゃないかなと思います。

Teengenerate – Get Action!(1994)

ガレージパンクといえば、2019年のBack From The Graveのハロウィンボールで、DADDY-O-NOVさんに頼まれてTシャツのデザインをしました。僕を入れて7人のアーティストのTシャツを作るという企画で。それも参加できて嬉しかったです。

来日のきっかけとなったようなバンド周辺の人たちと自然と関りができてきたんですね。

それ以外も日本ではサザナミレーベルのカマチガクさんとも仲良くなって。さっき話したフォトセッション(注:前編参照)のときにもお世話になったので結構前からのつきあいです。

サザナミのイベントでDJや似顔絵屋さんをやらせてもらったり、コンピレーションのジャケを描かせてもらったり、いろいろと一緒にやりました。楽しかったしすごくお世話になっています。

Sazanami Label 10th Anniversary Sampler vol.1 (2003-2008)

日本のアンダーグラウンドな音楽やバンドへの興味がきっかけで日本に来て、イラストレーターとしても正にその中心にいるような人たちと繋がりを持てるなんて素晴らしいですね。

そうですよね。だんだん自然に繋がっていく感じがしました。

あと、ジャンルは変わりますが、もう1つ日本で観たライブで最高だったのは『NO NUKE 2012』のYMOとKraftwerkでした。両方一緒に見れるなんて感動しました。

日本に来る前からYMOは好きだったんですか?

はい。彼らのことはイタリアにいた頃から好きでしたが、日本語が分かるようになってからはもっと面白くなりました。歌詞に自分の国への皮肉が入っているのが分かったりして。

YMOがすごいのは、あのKraftwerkのようなピコピコ系の音楽をクールにアジア風に再構築しているところだと思います。これは面白いなと思っていましたね。すごくポップだし。

TeengenerateにしろYMOにしろ、彼らが影響を受けたり、好きなものを分解して違うものに再構築しているという事がだんだん分かってきて、どんなジャンルのアートでもそういう風なやり方で新しい表現をしているのを見つけると、面白いなと感じます。

Spacy(2018)

インタビューする前に好きな作家を挙げてもらった際にJaime Hernandezなどのオルタナティブ・コミックの作家もいましたが、日本のオルタナ系の漫画家、例えばガロ系の作品とかは好きだったりしますか?

ガロ系、劇画はちょうど今イタリアで話題になってきていますが、僕がイタリアにいた頃はまだ紹介されていなかったですね。アニメが元々広まっていたからだと思いますが、白土三平作品は紹介されていました。『サスケ』はアニメで見ていたし、『カムイ伝』はもちろん好きで漫画を読んでいましたよ。

水木しげるさんとかはどうですか?僕らの音楽仲間の間ではかなり人気があるイメージですが。

水木しげる先生は、イタリアでは多分2000年代に入ってから初めて出版されたんじゃないかな。日本妖怪のイメージの原型を作った人って考えるとすごいですよね。イタリアで出版された妖怪事典は買いました。

水木しげる-日本の妖怪百科(イタリア版)

日本の漫画で最初に読んだのは『AKIRA』です。後は『デビルマン』、『うる星やつら』、『攻殻機動隊』、『きまぐれオレンジ☆ロード』、『電影少女』などですね。高校生のときに日本の漫画にハマったけれど、面白い作品があればどんな国のものにも興味を持っていました。

日本に来たきっかけは音楽だったとはいえ、やっぱりアニメ・コミック文化という面でも日本の生活は面白かったのではないですか?

そうですね。ただ、イタリアのオタク友達からは「いつでも中野ブロードウェイに行けるのが羨ましい」と言われるけれど、実際に住んだら毎日は行かないですよね(笑)

でも東京に住んだのは自分にとってラッキーな事でした。東京では展覧会や原画展がたくさんあって。そのおかげで、自分がすごく好きな漫画家やイラストレーターの先生たちと実際に会って交流することができたので。そういう身近な環境から自然と色々な影響を受けて、今の画風になっていったんだと思います。

漫画や画集からだけでなく、直接的に作家の方たちとの関係を通して、自身の作風も変化していったということですね。

日本に来なければ直接先生たちと出会う事は難しかったと思うし、日本にいたからこそ自然とそうなったという面はあると思います。

去年(2021年)、阿佐ヶ谷VOIDというギャラリーで個展をやったときに、江口寿史先生や寺田克也先生が来てくださって。すごくじっくり見てくださって、線の話をたくさんしました。本当に嬉しかったですね。

LEMON LEMON(2021)

阿佐ヶ谷VOIDでは2019年にも最初の個展をやらせてもらったんですが、サニーデイ・サービス の『いいね!』(2020年)のジャケットはそれがきっかけです。

描いている時点ではまだその音源は聴けてなかったんですが、あとで聴いたときに絵と音楽のイメージがすごくマッチしていてびっくりしました。サニーデイ・サービスのファンの方からもSNS上で直接メッセージもらえたりして、とても嬉しかった。

ちょうどコロナ禍になった頃で不安だったり落ち込むこともあった時期だったから、久しぶりに元気になれました。また、このジャケをきっかけに、以前より多くの人に僕の絵を知ってもらえて、イラストの依頼も増えました。

日本の漫画文化の話につながると思うんですが、たぶん日本って絵や漫画を上手に描ける人が多いですよね。アマチュアでも相当上手かったり、クオリティの高いものを作る人が沢山いるなと。

そうですね。

音楽文化が根付いている国には楽器ができる人が多い、スポーツでもその競技が根付いている国からはいい選手が出てくるみたいな事と同じで、漫画やアニメがそれだけ根付いてるということなんでしょうかね?

個人的にはそれは漢字の影響じゃないかと思います。前にも話した線の話です。漫画を描くってやはり同じキャラクターを何回も描きますよね。漢字って複雑な形をしているけど、覚えるために何回も書くでしょう?だからみんな書けるようになるのだと思います。

なるほど。漢字が苦手な日本人もたくさんいると思いますが、漢字ドリルとかありますもんね。イタリアにはそういうものはないんですか?

イタリア語にもドリルはありますが、そもそもアルファベットだから形が複雑じゃないし、漢字ほど難しくないんです。僕は日本に来て日本語を勉強した際、元々絵を描いていたので、漢字を勉強するのは面白いと思いました。日本人に絵を描くのがうまい人が多い理由のひとつかも知れません。

もっと言うと、空手の型とか書道とかも同じだと思います。空手の型とか書道って続けていくことで無意識にできるようになるでしょう?ちょっと違っていたとしても、全体はある程度ちゃんとできる。漫画でキャラクターを描くのも同じだと思います。

ドリルのようなやり方で、それなりに多くの人たちがある程度以上のクオリティの創作を出来るようになるかもしれませんが、どうやったらそれを超える特別なものを生み出せると思いますか?

最近イタリアでは、日本人のような漫画を描きたいという若者が多いです。最初はみんなマネから入るし、好きな漫画がきっかけでもいいと思いますけど、自分の表現が見つかることが一番大切だと感じています。

リスペクトする相手のマネばかりしていたら面白くないですよね。それだけになっちゃうと僕はつまらないと思ってしまいます。だから僕は若者に絵の悩みを相談されたときには、さっきのTeengenerateやYMOの話じゃないけれど、「一旦好きなアーティストをもっと理解するために、バラバラにしてみたら?」と言います。

そのアーティストがどうしてこういう風に描いているのか、何に影響されたのか、それこそ漫画だけじゃなくいろいろなアート、音楽、映画もインプットになっているかもしれない。

もっと深くディグして、そのアーティストの表現を自分なりに理解してから、自分自身の好きなものを組み立ててみると新しい表現が出来るかもしれないよ、と。

Holorosa(2022)

音楽にも絵にも通じる話が聞けて嬉しいです。まとめというか、今後の目標などいただけますか?

僕の作風は「どこか懐かしい」とか、「レトロ未来」とか言われるんですが、やっぱりポップな世界感が好きなんです。もう今の世の中はディストピアみたいな感じだから、ディストピアじゃない未来、ディストピアでもポップなディストピアを描いていきたい。もっと色んな人に見てもらえるような活動ができたら嬉しいです!

最後に個展の告知もお願いします!

8月3日から14日、東京のブルックリンと言われている蔵前のTOKYO PiXEL.で個展「電撃Bit」を開催します。最近描いている作品のジークレープリントをメインに展示、販売します。Tシャツやバッグ、ステッカーなどグッズもいろいろ作りましたので、ぜひ、ウルトラ未来ポップの電撃を浴びに来てください。お待ちしています。

TOKYO PiXEL
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