Review-ALGARA “ABSORTOS EN EL TEDIO ETERNO”

text by Ushi-Number Two

2019年末、突如として現れたスペイン・バルセロナの謎めく覆面パンクゲリラALGARAの2021年末にリリースされた1stアルバム”ABSORTOS EN EL TEDIO ETERNO”(永遠の退屈に取り込まれる)について書いてみたいと思います。

Algara-Absortos en el tedio(2022)

覆面のその姿が興味をそそるALGARAは、「階級闘争と抵抗を奨励し、警察の全滅を望んでいる」というなんとも過激な声明がbandcampにあったりますが(個人的には暴力的過激なものには賛同しません)、本人たち曰く「アナキズムと自律性を識別するプロレタリアバンド」と語っています。

デビューEPはバルセロナ内のスクウォットで録音されたらしく、ドラムマシンと冷たく張り詰めたような響きのギターがベッドルームポストパンク的(なんじゃそりゃ)な印象でしたが、今作は1曲目からその期待を良い意味で裏切るドが付くほどのストレートなパンクサウンドに驚きとともに惹きつけられ、よくよく調べてみればメンバーが2人編成だったEPから、2人増員した4人編成となった事によりバンドサウンドへと昇華させたその姿がここに鳴っているのだいうことが感じられて、なるほどーと膝を打ったのでした。

ちなみに今作もLa Cinetikaというバルセロナ内のスクウォットで自主録音されたものなのだそうで、バルセロナのパンクコミュニティとも縁の深いメンバーであることと共にその場所と繋がりの素晴らしさを想像してしまいます。

そして、彼らの辿り着いたパンクサウンドは勝手な解釈を述べさせてもらえばINSTITUTEが現代へと推し進めたCrisisサウンドへの共鳴とCRASSのDIY、そして現代社会への反骨精神、それらを脈々と受け継がれる自国スペインパンクとその情熱で鳴らしたかのような素晴らしさ。

その嬉しい変化に唸りながら聴き進めるにつれて前作を推し進めた先の今作の音である事が沸々と感じられ、そのポストパンクサウンドにおいても進化を感じざるを得ず、彼らが愛してやまないと公言するスペインシンセポップの先駆者であり、重要なインディペンデントレーベルの一つと語り継がれるDroを設立したAviador Droの影響も色濃く抽出されてる曲Hedonistasも飛び出す始末で、底知れぬポテンシャルに「こりゃ只者ではないな」と思い知らされるのでした。

Aviador Dro-Selector de Frecuencias

そしてやはり気になるのが、彼らのメッセージ。赤い覆面が不敵な何かを物語りますが、歌詞をみると、スペイン語のため細かいニュアンスまで追いきれていないのですが、劣悪な労働条件と搾取、若年失業、観光やその他の形態のジェントリフィケーション(再開発などによる街の階層上位化と、そこに存在した繋がりや伝統・文化をぶち壊す現象)によって消費される都市についてなど、資本主義社会に抗い今を暮らす彼ら個人の証言的叫びに触れることができるように思います。

そして、彼らの語る「アナキズムと自律性の識別」それはさまざまな人間関係の営みにおける権威や階層的組織を可視化させ、それとは違う目指したい暮らしの姿を自ら考え、それを実践していくことなのかもしれません。

また、今作LPにはリリックシートとは別に「サウンドゲリラマニュアル」なる、ブックレットも付属していて、その中身は書き出しが日本におけるプロレタリア映画の先駆者、佐々元十が政府の言論統制の前(1928年)に残した言葉「私たちの映画は階級意識を目覚めさせ、今日の社会の姿を明らかにし、そのさまざまな矛盾を掘り起こさなければならない」という引用から始まり、彼らのDIY録音の手順とそのノウハウが写真付きで事細かに説明されています。

それはデジタル化する音楽制作と音楽鑑賞における搾取について再考を促し、富める者が容易に手にできる洗練された音の反対側の美しさを見せ、そしてさまざまな形で蔓延る不平等な搾取と富める者のみが富を肥やす仕組みへも目を向けるきっかけとなるのかもしれません。

彼らのミュージックビデオを見てみれば、「たとえ玩具のような9.5mmの撮影機でも、使う者と使う方法によって、強力な武器になる」と言い残した佐々元十の魂へのリスペクトも伺えるようにも感じてしまうのです。

コロナ禍に作り上げられた本作ですが、最近ではライブ活動も少しずつしているようで、ライブでは覆面なしでステージに立っていて、なんだか見覚えのあるメンバーも在籍しているようなのも確認できます。

調べれば調べるだけ新しい発見がありそうなので、歌詞や付属のブックレット片手に没頭するも良し、細かな事は気にせず音とそれに乗るなんらかのメッセージを感じながら踊り楽しむのも良いでしょう。
とにかく、閉じ込められた我々の暮らしを永遠の退屈から解放する気付きを与えてくれるきっかけとなるかもしれない、語り継ぎたい現行抵抗盤です。