Interview-Naoki Takano/IN THE SUN-New Album”Metaphor”
今年2月に初のフィジカルリリースアルバム”Metaphor”をリリースしたIN THE SUN。結成初期からスタイルを変遷させつつも、ハードコア、電子音楽、ノイズを縦横無尽に横断し、独自のプリミティブ・エレクトロサウンドを切り拓いてきた彼らの一つの到達点であり、高純度かつ高濃度な傑作となっている。
これまでも完成度の高い音源作品と強力なライブパフォーマンスによって、様々なシーンのアーティストからも高い評価を受けているIN THE SUNだが、バイオやディスコグラフィー関連の情報がほとんど無く、また、土着かつ神秘的なそのサウンドも相まって「神出鬼没の謎多き電子音楽ユニット」という認識の方も恐らくいるのではないだろうか。その為、今回は新譜の他にも、バンドのこれまでの道程やルーツに関してコンポーザー兼パーカッションのタカノ氏にインタビューを行い、IN THE SUNサウンドの謎についてアプローチを試みた。
Interviewer-満州候補者/in the middle
今回新譜をリリースされたということでインタビューをお願いしたのですが、その前にまずは簡単にIN THE SUN結成から今に至るまでを教えてもらえればと思います。
結成は2011年だったと思います。バンドの原型は高校生の時に友達とやっていたハードコアっぽいバンドなんです。HOLIDAY IN THE SUNってバンド名だったんですけど(笑)、最初は3ピースだったんで1人が抜けたのでIN THE SUNになったんですよね(笑)
サウンドから想像して、バンド名はもっとプリミティブな意味があると思ってました(笑)
それで2人体制になってからも引き続きハードコアっぽいのをやってたんですが、その頃はCANとかNEU!やDAFとかのサウンドに興味を持っていたので、ノイズとダンス的な要素を取り入れたいってのがあってノイズを使うメンバーに入ってもらったんです。それが2014年くらいで。
最初の方はエフェクターとか使ってたんですけど、ギターとかアナログシンセを使って色々やっていましたね。この時に今のサウンドに繋がる原型がスタートしたっていう形ですね。
ノイズのメンバーは過去に在籍していた方ですよね。
そうですね。IN THE SUNのオリジナルメンバーは自分しか残っていなくて。今は基本的にはケンタさん(Electronics)と、プエル君(Sax)と自分の三人という編成です。
二人のスケジュールが合わない時は一人でライブをやる時もあります。最近はできれば一人ではやりたくないなっていうのはあったりもするんですけど(笑)
自分以外のメンバーには手伝ってもらえるタイミングで曲やライブをやってもらったり、レコーディングをやってもらったりっていう形ですね。この間ケンタさんも忙しくてしばらくお休みしていたんですけど、これから復帰してくれる予定です。
メンバーに激しく入れ替わりがあるわけではないですけど、割と即興プロジェクトっぽい編成みたいな感じでもあるんですね。
割と自由度高い感じでやりたいっていうのはありますね。バンドって形で縛られたり、縛るのも嫌になってしまって(笑)。やっぱり長く続けたいというのもあるので、こういう形でやっていますね。
音源もたくさんリリースしていますよね。
初期のデモとか含めたらたくさんありますが、今のスタイルに近いのは2019年のInsomoniaと2020年のCamouflageぐらいですね。
過去の音源は手に入らなかったり、配信も既に聴けなくなってるものもありますよね。
正直、ネット関係が得意じゃないというのがあって…サブスクとかBandcampとかSNSとかもあまり使い方がわからないんですよね。
自分も含め過去の音源を聴いたり、辿りたいって人もいるかと思いますが。
やりたいサウンドが変わると前のものはいいやってなっちゃうんですよね。というかあまり振り返りたくないですね(笑)。なのでサブスクの配信も更新しなかったりして。
でも最近はそういうのも無くなってきたので、年代別にまとめて聴けるようにしても面白いのかなって思ったりもしますけど。
本人的に、まあいいやってなったとしても聴く側としてはやっぱり気になるので、聴けなくなってしまった音源のディスコグラフィーは出してほしいです!
そうでしょうか。ただ心境的には今作でやったIN THE SUNとしてスタート地点に立てたという気持ちなので、ディスコグラフィー音源とか出すのは、まだまだ先になりそうですが(笑)
それまでの音源も完成度が高いので意外な感じもしますが。というかめちゃくちゃストイックだなと(笑)
ではあらためて新譜について色々聞いてみたいのですが。今作’’Metaphor’’はこれまでの作品と比べてどのような点に変化があったと思いますか?
前作のCamouflage、その前のInsomniaも作品として発表しましたけど、自分的にはデモ的な感覚に近かった面もありますね。曲がまとまったから、サブスクで配信してみて気軽に聴いてもらえたらなっていう感じでした。
今回の音源はそういう意味でちゃんとやった正規音源っていう形になりますね。ちゃんと物を作ってお店に卸すのも初めてですし。レーベルであるDISCIPLINE PRODUCTIONオーナーのシュウ君(KLONNS)が色々自分に足りないことをやってくれたりしたのでよかったです。マスタリングとかもちゃんとやってもらって、リミックスも入れてMVも作ったりしましたし。
’’Metaphor’’はいわゆる分かりやすいダンスミュージックではありませんが、これまでよりロック的なアプローチがかなり減り、クラブミュージックの文脈も感じました。楽曲面で意識した点などを教えてください。
作り方という面では、PCを取り入れたのが一番大きいですね。前作のCamouflageから導入したんですが、それ以前はスタジオに入って、自分発信のアイディアをメンバーと練習を重ねて作り上げていく形でした。
ただ、それだとやはりどうしてもメンバーが揃っていないとできない部分もありましたし、あとは技術的な事から脱却したかったというのもあって。今は基本的にはスタジオには入らずデータでやり取りしています。アイディアはたくさんあったんですけど、それをちゃんと形にするにはこれまでのスタジオで作っていくやり方だと困難になってきてしまったんですよね。そこが大きく変わった点です。
その制作スタイルで作品をリリースするのにはどれくらいかかりましたか?
曲を完成させたのは5か月くらいですね。そこからレコーディングやリミックス、リリースの準備などもあったので、トータルで1年くらいかかりました。
PCを使い始めたきっかけは何かあったんでしょうか?
元々ずっとやりたかったんですけど、アナログ人間なのでPC恐怖症みたいなところもあって。でもレコーディングスタジオの人と作業している時に横で教えてもらってたんで自分でも全然普通に使えました(笑)
DAWは何を使用していますか?
Studio Oneを使用しています。それもレコーディングスタジオの人に勧めてもらって。
エンジニアでStudio Oneを推す方は確かに多いですね。どちらかというとトラックとかクラブミュージックとかに寄っているDAWの印象もあります。ちなみに2016年にリリースしたEl Energyの時はまだ生のサウンドですよね。
そうですね。その音源を元に即興でプレイしている時期もありました。その頃は新しい曲が出来なくなってる頃で色々試していて。いわゆる迷走期です(笑)。その後からPCを入れ始めて、そこから脱却できたという感じですね。
これまでは楽曲にもインプロヴィゼーション的要素が強かったかと感じていましたが、今作は曲の構成的にもガッシリと作曲したものを元にしている印象を受けました。その点に大きな変化を感じましたが、やはりそれはPCを取り入れたからでしょうか。
そうですね。ただ、やはりIN THE SUNのコンセプトとしてバンド感、ライブ感っていうのは大事にしています。
あのサウンドに生ドラムを組み込んでいくのはすごいですよね。以前は生ドラムをセットで叩いていましたが、今はスタイルを変えていますよね?
今はタムのみにしてパーカッション的に叩いていますね。前はバスドラムにトリガーを付けてプレイしていましたが、今はそれも止めました。
サウンドも変化していく中でベースをしっかり出したいなと。だったら中間の音のタムだけでいいんじゃないかってなって。
PCを入れてサウンドが変化して、ドラムの演奏形態も自然と変わってきたんですね。
そうですね。打楽器奏者の高田みどりさんの演奏が好きなんですけど、スタンディングでタムを使って演奏していたりもするんですよね。そのスタイルがカッコいいなと(笑)
DTMで作る際はシンセサイザーもタカノさんが入れているのですか?
そうですね。MIDIを打ち込んで、Elektron Analog Fourで鳴らしています。
バンドで使用しなくても、それまでも個人的にシンセは弾いていたんですか?
いわゆる演奏的なことはできないんですけど、元々シンセは好きだったので色々といじっていました。
なるほど。ではいざサウンドに取り入れるとなった時もすぐにシフトできたんですね。また、今作はサンプリングも色々と入れてますよね?前はサウンドもドラム、リズムの印象が強かったですが、最近は上物の印象も強くなっているように感じます。
ちゃんと曲っぽくしたかったというか、上物も含めてちゃんと考えて作っていましたね。
あとこれはサウンド全体にも言えるんですけど、いろんな異なる要素の音を混ぜたりするごちゃまぜ感が好きなんですよね。ただ、わかりやすい要素を組み込まないように気を付けています。
不思議と今作のサウンドは「何処かはわからないけど、なんとなく自分たちと近い地域の音楽」のような印象も受けました。色々な文化が混ざっているけど、具体的な特定は難しいというか。
確かに今回聴いてくれた人たちにも「どこの国の音楽かわからない」って言われたので、それはなんか嬉しいですね。
最近良く聴いているアーティストや作品があれば教えてください。
坂本龍一さんの作品ばかり聴いていますね。元々YMOが好きで。
あと最近すごい好きなのは現代音楽家の三輪眞弘さんですね。友達がDJでかけていた音源がすごいカッコよくて。パフォーマンスを重視しているみたいであんまり音源はないみたいなんですが。
今作はサンプリングなどに80年代の雰囲気を感じる時もありました。
多分影響は結構あると思います。坂本龍一さんの80~90年くらいの実験的な頃とか、特にEsperantoっていうアルバムが好きなんですよね。サンプルがブツ切りされていて、かつトライバルな感じもあって。
自分の中でアイドル的なアーティストなどはいますか?昔から今までずっと好きな人というか。
そうですね…やっぱり一番好きなのは細野晴臣さんかなと思います。細野さんの作品は全体的に、ずっと聴いていますね。特にフィルハーモニーとか銀河鉄道の夜のサントラがすごい好きですね。
でも歌っぽいのから、アンビエントのも全部好きだし、生っぽい音のも最近の自分の中でまたブームが来てますね。
IN THE SUNは映像的な曲というイメージも強いですよね。
サウンドトラック的なのが好きだからかもしれません。サントラは色々なアプローチの曲が入ってるところが好きです。
タカノさんはイベントでDJをすることもありますよね?
そうですね。今回出してもらったレーベルのDISCIPLINEのイベントなどでやったりしてますね。
DJの時の選曲の基準とかはあったりしますか?
DJの時は変わったビートでリズムが強い印象の曲を選びますね。
そう言われてみると、新しい音源もリズムは平坦ではなく引っかかる感じもありますよね。それが故に音自体は少ないけど暴力的な感じをキープしているというか。
それは完全に意識していますね。4つ打ちとかって、長い時間かけて持ち上げていくものだと思うんですよね。
自分たちはライブハウスで演奏することも多いので、ハードコアパンクとかに近いような、瞬発的なビート感にしたいっていうのがありました。クラブ音楽に影響を受けつつも、バンドっぽさを残したいっていうのはやっぱりあったので。
なるほど。ビートへのこだわりがあるっていうのはIN THE SUNの大きな特徴ですね。なので作品によって上物の音が変化してもIN THE SUNの感じは共通しているというか。
そう言ってもらえると嬉しいですね。色々好きなものとかあったり、それが変化したりもしてはいるんですけど、やっぱりリズムにこだわりたいっていうのはありますね。
あと今回の作品を聴いて思ったのは、AメロBメロ…って作曲というよりは、音色に影響されて曲が構築されている印象も受けました。
それはあるかもです。一回適当な音で曲を作ってからその後に音色を決めるんですけど、そうすると最初想像していたのから全然印象が変わってくるので、そこからまたどんどん変わっていきますね。
音色もリズムも含め、IN THE SUNはライブ全体でドーンと浴びるって感じの楽しみ方ですよね。ロックの要素はありつつも、テクノとかの快楽に近いのかもしれません。
それも嬉しいですね。ライブハウスであろうと、クラブであろうと成立するっていうのはテーマの一つなので。
今作の共同作業者の方についても教えてください。Matomosのリミックスは驚いた方も多いと思うんですが。
Matomosは来日ツアーのサポートをしたんですよね。その関係もあったのでリミックスを頼んでみたら向こうも快諾してくれて。そしたらビートがバチバチにリミックスされていて驚きましたね。
T5UMUT5UMUさんはどのような経緯でリミックスをすることになったのでしょうか。
一度共演した時に繋がりができて、今回リミックスをお願いしたという流れですね。T5UMUT5UMさんの制作する曲はどの曲も大好きなのですが、今回も強めのトライバル感が最高でした。DJプレイも素晴らしいです。
リミックスは印象が変わる感じでしたけど、両方ともカッコよかったですね。マスタリングをした大城真さんについても教えてください。
大城さんは元々知り合いで、マスタリングを頼むなら大城さんがいいなってずっと思ってたんですよね。元々大城さん自身のパフォーマンスも、マスタリングした音源も好きだったのでお願いしました。
Disciplineは定期的にイベントもやっていますよね。
2か月に1回第四週の土曜日に決めてやっていますね。Disciplineはシュウ君が中心でやっていて、僕はDJで参加したりしています。
2か月に1回でもイベントを定期でやるのはかなり大変ですよね。
そうですね。なのでいつもすごいなと思ってますね。
新譜に関してはトータルで皆さん元々縁があった人に依頼したということですね。
そうですね。活動の中で知りあった人だったり、そういう人たちの中でお願いしたいなというのはありました。
直接的な音楽の話とは逸れるんですが、タカノさんは秩父出身ですよね。
そうですね。出身は秩父です。今は秩父からわりと近い熊谷に住んでいるのですが、そこから東京までライブをしに行っている形ですね。
過去に自分たちとも秩父でライブをしたりもしましたが、自然豊かな地域ですよね。いきなり飛んでる質問になっちゃうんですけど、IN THE SUNはサウンド的にもプリミティブなイメージだったりハードコア・ヒッピー的な幻想や憧れもあるのですが、その辺りはどうなのでしょうか?サウンドと土地や自然の関係性というか。
考えた事ないですね(笑)
そうですか(笑)
ただ、実家があるところが本当に山なので、もしかしたら自然と出ている部分はあるかもしれません。あとは小学生の時から和太鼓とか祭囃子もやっていたんですよね。
なるほど。
それと自分の住んでた山の方は結構変な祭りがあったりする地域だったんですよね。TVで取り上げられたりして結構有名になっちゃったんですけど、「ジャランポン祭り」っていうのがあって。適当なお経を読みながら、酒を飲んで葬式の真似事をするって祭りなんですけど(笑)
やっぱりあの神秘的なサウンドにはバックボーンがあるような気がしてきました。結構土着的な要素が強い地域なんですね。
そうですね。秩父を出てみるとより感じますね。
自分も仕事で埼玉のいろんな街を見てきましたが、やはり秩父の文化は明らかに他の埼玉の地域とは違う雰囲気がありますよね。
それは盆地文化だからだと思いますね。山に囲まれていて、他所と離れているので、独自の文化が形成されていったのではないでしょうか。
なるほど。農民蜂起の秩父事件とかも有名ですけど、独立の気風も強い土地柄なのかもしれないですね。
悪く言えばやっぱり鎖国的な面もあると思うんですが、昔のままの部分が残っている良い面もあると思います。昔はとにかく早く出たかったですが(笑)、今はすごい面白い地域だと思いますね。名物のホルモンもうまいですし(笑)
食べ物に関してはそれ以外もかなり色んなものがあって良いと思いますけど(笑)。自分は初めて行った時に街全体の雰囲気がすごくいいなって思いましたね。ミュージシャンや漫画家でも秩父出身の方は多いですよね。
フォルクローレ(ラテン民族の大衆音楽)のギタリストで有名な笹久保伸さんも秩父在住ですね。最近のサム・ゲンデルとの共作がすごい好きな作品で。自分も一回ドラムとして笹久保さんの作品のレコーディングに参加したこともあります。
やはり色々と秩父は興味深い場所ですね。また是非イベントを一緒にやれたらいいなと思っています。新作のレコ発は予定しているんですか?
3月に下北沢SPREADでやる予定だったんですけど、残念ながらまん防で延期になってしまって。7月にまた予定しています。あと、その前の5月に小岩BUSH BASHでもレコ発をやる予定です。小岩編・下北編の2本ですね。
楽しみです!最後に新譜を聴いてくれた方、これから聴く人に何かありましたら。
今作はバンド的にも形になったなと思える手応えがあった音源なので、じっくりと聴いてもらえたらと嬉しいです!
IN THE SUN
東京を中心に活動する秩父出身トライバルエレクトロニック・ユニット“IN THE SUN”。2011年頃にドラム+シンセ+ギターのバンド編成として活動をスタート。Bjorkのリミックスでも知られるボルチモアの鬼才デュオ・Matmosの来日ツアーのサポート、Bushbashでの主宰イベント「RAW TEMPO」の開催等、電子音楽、ノイズ、オルタナティブ、ハードコア…様々なジャンル/シーンを横断的に行き来しながら独自の地図を拡大し、自らのスタイルを練磨してきた。そして2022年、パーカッション+エレクトロニクス+サックスの現編成としては初のフィジカルリリースとなるNEW ALBUM”Metaphor”を、自らもメンバーの一員である小岩BUSHBASHのレギュラーパーティー「Discipline」のレーベルライン〈DISCIPLINE PRODUCTION〉よりリリース。
Discography
2016年 El Energy
2019年 Insomonia
2020年 Camouflage
2021年 Metaphor