Zea,The ExとMakkum Records

text by Takeshi Sato(満州候補者

パンク界のレジェンドであり異端児、オランダのThe Ex。彼らの音楽はアナーコパンクからスタートしたが、FUGAZI、Tortoise、Sonic youth、Tom Cora、Han Bennink、getatchew mekuria等のオルタナティブ、エクスペリメンタル、フリージャズ、アフロジャズのアーティストとの共演やコラボレーション作品を通して様々な要素を取り入れながら唯一無二ともいえる音楽スタイルをアップデートし続けている。結成40年を迎えながらも衰えを見せることはなく作品を発表するごとに新たな刺激を私たちに与えている。

そのThe Exの現シンガー兼ギタリストであるArnold De Boer。

2009年にGW Sokの後任として加入して以来、彼のソングライティングの才能はThe Exの音楽的DNAに浸透し、現在のThe Exのサウンドの要といっても過言ではない。今回はArnoldの代表的なプロジェクトであるZeaと、彼の運営するレーベルMakkum Recordsについて簡単ではあるが解説したいと思う。
*少数ではあるが 今回Makkum Records の作品を Arnold に送ってもらい、in the middleで販売しているので気になった方はそちらもチェックしてみてください。

ZEA

ZeaはArnold De Boerによるギターとサンプラーを駆使したソロパフォーマンスのプロジェクト。最小限のセットから鳴らされる強烈なベースライン、アフロミュージックを感じつつもラフでパンキッシュなリズム、そして現The Exでもサウンドの要になっているシンプルでありながら独特で脳裏にこびりつくギターフレーズに鋭いエレクトロパンクな詩を叫びリスナーの胸を高鳴らせる。

20年の間に、Arnoldは自身のバンドZeaとThe Exと共に、6大陸35カ国で2000回以上のライブを行ってきた。つまり、1年に平均100回のライブを行ってきたことになる。彼は、レーベル運営もしながら音楽とパフォーマンスの持つの力の信奉者として活躍を続けている。

Zea – The Beginner(2011)

Zeaの4枚目のフルレングスアルバムで、Makkum Recordsからは初のリリース。A面一曲目の”Song For Electricity”はエチオピアの歌”Bogiye”(Abonesh Adendw)をベースにしている。2014年のガーナツアーではこの曲が6つの放送局と国営テレビで流れ話題になった。今でも停電のたびにラジオ局はこの曲を流すとのこと。A面最後の曲”Bourgeois Blues”はLead Bellyの原曲をベースにしているが、歌詞はThe Fallの”Bourgeois Town”というバージョンから引用している。世界中から集められたような多種多様な音楽の要素が詰まった楽曲が散らばるエネルギッシュでキャッチーな作品だ。

Zea – The Swimming city(2014)

ZEA5枚目のアルバムはゲストミュージシャンを迎えた作品となっている。ノルウェー/スウェーデンのJAZZトリオTHE THINGのMats Gustafson(バリトンサックス)、アムステルダムの即興ピアニストOscar Jan Hoogland、フランスを代表する即興クラリネット奏者Xavier Charlesが参加。パンク、ノイズ、サウンドサンプル、アフリカンリズム等を再解釈することによって、洗練された、現代の「生」の音楽を産み出している。

ZEAは世界中をツアーしており、エチオピアやガーナ等35カ国で演奏しているが、ガーナでは地元のミュージシャンと一緒に立ち上げたスタジオでこのアルバムに収録されている曲”Dark Minded Me”と”Ikkin Der Net By”を録音している。また収録曲”Ikkin Der Net By”は彼の母国語であるフリース語で歌われている。

Zea-Agency(2019)

今までのZEAのスタイルを踏襲し、よりシンプルに洗練されたシングル。Agencyはスクラッチ音にアコースティックギターが鳴り、必要最小限の音数でこの曲の壮大で危機感のある世界観を充分に出している。”人間以外の物に発言権を持たさなければ、いつしか地球は私たちの目の前で爆発してしまうかもしれない”といった環境問題への警告ととらえられるメッセージが含まれる。My First Friends Were Animalsはジョンレノンのヒット曲から引用されているこの曲もミニマルな電子音とサンプル音にダビーなアプローチもあり、不穏で浮遊感のある音に引き込まれてしまう。

Zea+Oscar Jan Hoogland-Summing(2020)

ZEAとアムステルダムの即興ピアニストOscar Jan Hooglandによるアルバム。全てワンテイクで録音されたこの作品は、インプロビゼーションとソングライティングの間を行き来している。ZEAの作品の中でも最もアヴァンギャルドな部類に入るが、逆にフレーズのキャッチーさもこれまでより一層際立ったものになっている。レコーディング前のガーナのツアーによってより洗練された強靭なグルーヴと緊張感。そして何より楽しみながら作曲と演奏に向き合っている姿勢が十二分に感じ取れる傑作。

Makkum Records

Makkum recordsは2008年にスタートしたArnold De Boerによるレーベル。Zeaのリリースからのスタートになったが、Arnoldとの親交が深いアフリカはガーナのミュージシャンやオランダ国内のオルタナティブバンドのリリースもしている。ここではArnoldとアフリカのアーティストとのつかながりについて触れてみる。

Arnoldは18歳の頃アムステルダム自由大学(VU)で文化人類学を専攻していたが、スライドショーや本での学びだけでは不十分と感じた為オランダを飛び出し、ケニアで灌漑プロジェクトに参加した。東部州のワカンバ族のために井戸を掘る作業をしていたが、その時Arnoldが楽しみにしていた事が彼らとの文化交流であった。日曜日にはケニアの教会の礼拝で様々な音楽が演奏されていてArnoldを惹きつけていた。この時に演奏したレニークラヴィッツのカバーが彼のファーストレコーディングとなった。

Arnoldは1995年にZeaを結成。2004年にThe Exとオランダ、ベルギー、フランスをまわる「Big Convoi Tour」に参加した。アフリカ音楽に対する愛情と知識という共通点でこの2つのバンドはうまくいき、The ExのギタリストのTerrieはZeaのイベントをエチオピアで行うように依頼することになった。

一方Arnoldの姉インゲは、ガーナ政府と共同でガーナのインフラにバス網を導入するプロジェクトに参加していて、彼女は夫と共に地元のミュージシャンであるケン・カボルヌの家に滞在していた。その繋がりがきっかけでZeaはガーナのカトリック教会でケンとコンサートを行うことになるが、その時の旅でArnoldはKing Ayisobaの音楽と出会うことになる。ガーナのラジオでKing Ayisobaの音楽を聴いたArnoldは衝撃を受け、この音楽をヨーロッパに広める為に何かをしなければと思うようになった。2012年にArnoldはガーナへ戻り、ケンと一緒にNext To Joopというスタジオを立ち上げた。その時にArnoldはKing Ayisobaとコンタクトをとることに成功、Zeaと一緒にヨーロッパツアーをする事を依頼した。

そして、Next To JoopにてMakkum RecordsでZea以外のアーティストで初のリリースとなるKing Ayisobaの「Wicked Leaders」をレコーディングすることになる。ここから、MakkumはKing Ayisobaを中心としたガーナのアーティストのリリースを続けることになった。

King Ayisoba-1000 Can Die(2017)

King Ayisobaは国内のワールドミュージックを専門に取り扱っているレコード店で流通しているので現在のアフロミュージックをチェックしている方は耳にした事があるかもしれない。

ガーナの音楽界では国民的英雄といわれているガーナ・ボルガタンガ出身のシンガー・ソングライターでガーナ北部に暮らすフラフラ族に伝わる2弦の弦楽器“コロゴ”の演奏者。ガーナの流行音楽ヒップライフ(地元のハイライフとヒップホップを融合させた音楽)を利用することでガーナの伝統的な音楽をより強力なものにしている。Arnoldは2013年にKing Ayisobaのヨーロッパツアーを企画して見事に成功させている。アルバム1000-can-dieはarnoldによるプロデュースのアルバムで、Zeaも曲に参加している。

Ayuune Sule – Putoo Katare Yire(2021)

King Ayisobaと共にコロゴミュージックを牽引するAyuune Sule。過去作品もMakkumよりリリースされてきて、こちらは2021年発表の最新作。パンデミックで落ち込んでいる人々の気持ちを励ます為に作られた新曲”Don’t Be Lazy”を筆頭にアルバムはエネルギーに溢れたキャッチーな曲が満載、思わず踊りたくなる事必至である。ゲストでAfrican Head Chargeのメンバーや、Prince Buju等が参加している。

Various Artists – This Is Frafra Power(2019)

King Ayisobaの出身地であるガーナ北部にある町ボンゴで活動する8アーティスト8曲を収録したコンピレーション。ほとんどの曲はこの地域の言語であるフラフラ語を使用している。King AyisobaのバンドのドラマーであるFrancis Ayamgaのスタジオで録音したまだ世に出ていない地元の無名アーティスト等の200曲以上の中からArnoldがピックアップし、その後現地でインタビュー、ビデオ録画、録音を行い完成させた素晴らしいドキュメンタリーとなっている。コロゴミュージックだけでなくラップやゴスペル、ヒップライフなどバラエティー豊富な音楽が詰め込まれている素晴らしい作品となっている。

Kanipchen-Fit – Unfit For These Times Forever(2016)

2004年にオランダ人の音楽家Empeeとアメリカ人のパフォーマー、詩人のGroriaで結成されたダブルボーカルのバンド。2011年から拠点をニューヨークからアムステルダム東地区へ移した。楽曲はシンプルだが、ロックの決め事を避けるように構成されたストレートなリズムとハーモニーの変化はThe WipersやMisson of burmaをも彷彿とさせる。彼らは自分たちの音楽を『21世紀のファンキーなプロテストソング』と呼んでいるように、歌詞の中ではかつての母国であるアメリカの政治的、社会的状況を扱っている。7インチ2枚30分弱のミニアルバム。

今回は紹介しきれないが他にもMakkumは多数の素晴らしい作品をコンスタントにリリースしているので是非体験してほしい。
*Makkumのリリース作品の一部は in the middle shopで取扱っています。