Upset! The Rhythm-Independent Record Label in London

text by Ushi-Number Two

「Upset The Rhythm」字面だけでもなんだか「気になる…」と思ってしまうレーベルなのですが、僕なりに訳せば「リズムを狂わす」である。そんな名前を掲げるイギリスのインディペンデントレーベルを僕は見て見ぬ振りできずに今に至る、というか2000年台の終わり頃から現行バンドのレコードを熱心に手にとるようになった僕がお気に入りのレコードの裏ジャケットに記されたレーベルに目をやると度々そこにいたものの一つがUpset! The Rhythmなのでした。

Upset! The Rhythm(以下UTR)は地元ロンドン内のベニュー(ライブハウス)や様々なDIYスペースでのライブイベント開催、海外バンドのツアーサポートを行うものとして活動を始めていて、彼らの活動の記念すべき第一歩は2003年、いきなりアメリカのノイズロックバンドDeerhoofのツアーサポートイベントというまさに記念碑というか、心意気とブレないセンスを感じてしまう物語の始まりである。

Deerhooh(1994-)

その後、毎週末くらいの勢いで(今やUTR名義のライブイベントはvol.350を超えています。すげー)ロンドン内の様々な場所でライブイベントを開催するなどしながら、レコードをリリースしていくようになります。そのリリースカタログナンバーは今や140を超えていて、これもすごい。

地道なその活動の軌跡と彼らが作り上げた”場”は現代に活躍するロンドンやイギリス国内のバンド、そして世界中に散らばる彼らのファンに少なからず今と未来に繋がる何かを残しているのではないかと思っています。

これを読んでもらえるような音楽遍歴の持ち主の方であれば、よく見に行っていた、行っているお決まりのイベントや見逃せないバンドを思い返してもらえたら思い当たるものがあると思いますし、それが自分にもたらしてくれたものは、かけがえのないものとして自らの中に残っているのではないでしょうか。

そんなUTRが創ってきたような日常はロンドンでも、ここでも確かに生まれていて、今そして、これからも生まれ続けていくと信じてみれば、うだうだしてる間に人生は過ぎていくから、「とにかく動け」と聞こえて来るかもしれません。あれ、Upset The Rhythmってそういうことか。「とにかく動け」だと語弊がありそうだけど「とにかくやってみな」そういうことなのかもしれない。

と勝手に辿り着いたところで、僕が出会ったUTRのレコードを思い返してみたいのですが、なんといっても2012年にリリースされたオリンピアのハイエナジーパンク/ロックンロールバンドVEXXの1st 12インチ。

VEXX– Vexx(2013)

1stプレスはサンフランシスコのGrazer Recordsから出ているのですが、2ndプレスをポートランドのM’Lady’s Recordsと共同でUTRがリリースしています。その2ndプレスを手にした事でUTRが僕の中で気になる存在となったのでした。

VEXXには2010年台の僕的重要人物なボーカルMary Jane Dunphe(CC Dust, CCFX, Gen Pop, Pinocchio, The County Liners, VEXXとどれもめちゃくちゃ良いです)や猛烈なドラムを披露しているCorey Rose EvansはG.L.O.S.S.など様々なパンクバンドでも活動していて、後にG.L.O.S.S.のライブ動画を見た僕は「VEXXの人がドラムだ!」と興奮したのを覚えています。他にもVANITYで活動するMike Liebmanがいたりもはや生ける伝説、とんでもないモンスターバンドな訳です。

Vexx @ Budapest, Gólya (2015/07/13)

そして、私的これぞUTRなバンドがTRASH KIT。アフロアフリカンポストパンクと呼ばれるのも納得な唯一無二な抗う音が鳴っています。そして彼女らの存在には70年代にThe SlitsやThe Raincoats、そしてThe Specialsが存在したのと同等な価値と意味があるんじゃないかと思えるほどに素晴らしい。元は2013年にMILK RecordsからリリースされたShoppingというバンドに魅了されたのをきっかけに、そのメンバーの別バンドという事でTRASH KITに辿り着いたのですがそこにも現れたのがUTRで、これは何かの縁だ…と追いかけ始める悪い癖が発動したのでした。

Trash Kit – Horizon(2020)

ちなみに僕調べによるとUTRの記念すべき最初の音源リリースは2004年、Death Sentence: PANDA!のアルバムPuppy, Kitty or Bothだと思うのですが(カタログナンバーがあったりなかったりで間違っていたらすみません)、2008年に来日ツアーをしていて運良く僕ら対バンしていたのを思い出しました。すごく印象に残るライブと20代そこそこの若輩な僕にはそれまで体感したことのない音だったので記憶の奥底に佇んでいたのですね。もちろんその当時はUTRの存在には気づく由もなかったのですが…人生色々ですね。当時のイベントはこんな感じでした。なんだか懐かしい。

Death Sentence: PANDA! 来日ツアー
10月11日 (土) @渋谷 LUSH Presented by disk union Central Plaza
w/ DASHBOARD, ROCKIN’ WRECKER, PASTA FASTA, WIENNERS, DIEGO, A PAGE OF PUNK, FOUR TOMORROW, NUMBER TWO, 坂本移動どうぶつ園, NO PEOPLE

Death Sentence: PANDA!-Puppy, Kitty or Both(2005)

UTRは一見、一癖二癖ある現行DIYポストパンクなバンドが多い印象を僕は持っていますが、リリースバンドのスタイルは多岐に渡っていて、そのそれぞれが確固たる個性を持っているため、聴く人それぞれに思い入れのあるバンドや語り口があるだろうと思います。それはどのレーベルにも通ずることかもしれませんが。しかし、どれを聴いてもUTRらしいリリースのように感じるのは彼らの大切にする地道に歩み続けるDIYな活動がそうさせるように感じます。

UTRのお気に入りバンドを挙げれば本当にキリがないのですが、2020年から2021年という困難な時代もとどまることなく、Vintage CropNaked RoommateKaputtなど素晴らしいレコードをリリースしています。2021年末には名古屋のNICFITのアルバムもリリース予定との事で、ますます楽しみでならないし、まだまだ夢を見せてくれるレーベルであるなと思うのと同時に、その夢の続きは僕たちがやってみるべきなのかもしれないなと勝手に思うのです。