Pickup Album 2022
text by Ashira/NOBODY
早いものでもう12月。2022年も終了ということで、今年リリースされた作品で個人的に印象に残ったアルバムを10枚紹介したいと思います。
国やジャンルでテーマを絞って書いてきたこれまでの記事と比べてよりパーソナルでフランクな内容となりますが、新しい音楽との出会いに役立てて貰えると嬉しく思います。
Blind Seagull – Personale Decay
ロシア・カリーニングラード出身のポストパンクバンドによる新作。前作はコアなコールドウェイヴやEBMのリリースを続けるDetritiからのリリースでしたが今作はイタリアの名門Avant!から。
今年はウクライナ侵攻という悲劇がロシアの音楽シーンに与えた影響は大きいのですが、ロシアのバンドがこの状況で他国のレーベルからリリースが出来るというのはせめてもの救いに感じます。
(もちろん、ウクライナ侵攻はロシア国民の総意ではなく、多くのロシアのミュージシャンもウクライナ侵攻に反対の声明をあげていることを補足しておきます)
前作までの漆黒のダークウェイブサウンドは健在ですが、さらにシャープさを増した今作はロシアンポストパンクファンだけにとどまらない幅広い層にアピールできるポテンシャルを感じます。リードトラック『Stray』はうねる電子音とエモーショナルなシャウトが魂を揺るがす今年のダークウェイヴ/コールドウェイヴを代表する名曲かと。
Stray (Official Video)
Viagra Boys – Cave World
相変わらずポストパンクをベースとする若いバンドたちに勢いがあり今年も良作多数でしたが、個人的に一番聴いたのはスウェーデンのバンドViara Boysの3rdアルバムでした。
これまで同様ドライヴィンなポストパンクサウンドが展開されるのですが、無骨さと汗臭さ、弾丸のような勢いはそのままに、ちょっとだけポップになったように感じます。
収録曲『Ain’t No Thief』や『Troglodyte』は個人的にもよくDJでプレイしました。
Ain’t No Thief (Official Video)
Softcult – Year Of The Snake
2010年代終わりごろからのギターロック人気再燃もしっかり継続しているけど、その中でも90’sの影響を感じるアーティストが徐々に勢いを増してきているように感じます。
カナダの双子姉妹によるデュオSoftcultも90年代のオルタナやグランジ、シューゲイザーを現代的にアップデートしたようなサウンドやメロディセンス、社会的メッセージ性の強い歌詞が素晴らしく、Spotifyで偶然発見して以来ずっと愛聴していました。
現時点で2枚のEPのリリースのみなので、フルアルバムがリリースされると一気に人気が爆発しそうな予感。
Spit It Out [official video]
Vitesse X – Us Ephemeral
2022年の100% Electronicaは本当にすごかった。
NYのレーベル100% Electronicaは設立者であるGeorge Clanton(Esprit空想)やEquip、Negative Gemeiniを始めとした良質なヴェイパーウェイヴやチルウェイヴを世に送り出したレーベルですが、今年はよりサウンドの幅を広めたリリースで、尚且つそのどれもが素晴らしいクオリティだったかと思います。The CureやCocteau Twinsの影響を受けた美しくもモダンなドリームポップを聴かせてくれたCaroline Loveglow『Strawberry』や、よりエモーショナルなポップ方面に進化したDeath’s Dynamic Shroud『Darklife』。そして個人的に最も刺さったのがVitesse X『Us Ephemeral』でした。
Softcultのコメントで90’sリバイバルについて触れましたが、Vitesse XからはUSオルタナとはまた違った角度からの90’s…例えばレイヴやドラムンベース、Aphex TwinやFour Tetのようなアート性の高いエレクトロニカやテクノの要素を感じました。
(余談ですがWorking Mens ClubやTalk ShowといったUKの若手ポストパンクの新作にもこの流れを感じられます)
それらをレーベルの得意とするヴェイパーウェイヴやドリームポップと融合し、フューチャリスティックにアップデートした、正に2022年のエレクトロ・ポップアルバムと言える傑作かと思います。
好きすぎてレコードもカセットテープも買ってしまいました。
Us Ephemeral (Official Music Video)
The Masukovic Dance Band – Bukaroo Bank
オランダ アムステルダムで活動するNicola Mauskovicを中心に結成された5人組The Masukovic Dance Bandの2ndアルバム。元々クンビアやアフロカリビアンをベースにしたダンス~ファンクサウンドで徐々に知名度を上げていた彼らでしたが、この2ndアルバムではポストパンクやインダストリアル、ダブといった要素を取り入れてよりエッジの効いたスタイルに進化。ジャキジャキした金属的なギターはPop GroupやGang Of Fourを連想させるし、Maimum JoyやESGのようなミニマルながらグルーヴィーなベースラインも素晴らしい。そして不穏な雰囲気漂うダビーなサウンドが最高にドープな1枚でした。
ちなみにメンバーのDonald MadjidはDon Melody Clubというベッドルームポップ・プロジェクトでのリリースもあり、こちらも秀逸。2023年に新作リリース予定とのことで楽しみです。
Bukaroo Bank
Lady Wray – Piece Of Me
相変わらずの快進撃を続けるソウル/ファンクレーベルBig Crown。Colemineもそうだけど、リリースされたらとりあえず買ってしまう…という人も多いのでは?
Big Crownからのリリースでは、今年はBobby Orozaのスウィートソウル~チカーノソウルなアルバムも素晴らしかったけど、今の気分であえて選ぶなら個人的にはLady Wreyのアルバムが1番でした。
El Michels AffairのLeon Michelsがプロデュースした今作は、ベテランシンガーならではのヴィンテージスピリッツと、ヒップホップの要素も感じるモダンなサウンドが絶妙に混ざりあい、そこにLady Wreyのソウルフルなボイスが響き渡る極上のソウルアルバム。
盛り上がるインディー・ソウルシーン、来年も期待です。
Under The Sun (Official Music Video)
Leonard Marques – Flea Market Music
ブラジル・ミナスのSSW Leonard Marquesの新作は、ヴィンテージ楽器による優しい質感のローファイサウンドと美しいメロディが交差する傑作アルバム。
彼のアルバムの中でも最もパーソナルに感じる本作。まどろみを感じるノスタルジックなサウンドが心地よく、個人的に夏の終わり~秋くらいによく聴いていました。
Flea Market Music – Live
Sam Gendel And Antonia Cytrynowicz – Live A Little
エフェクターを駆使した独自の音色で、今最も注目を集めるサックス奏者と言えるSam Gendel。多作家でもある彼は今年も多くの楽曲をリリースしていますが、その中でも最も衝撃だったのがこのアルバム。
本作は、驚くべきことに11歳の少女Antonia Cytrynowiczが即興で口ずさんだ歌を基にSam Gendelが演奏して完成させたとのこと。
イノセントでありながらどこか哀愁や儚さを感じるAntoniaのボーカルと、Samの幽玄なサウンドが唯一無二の世界観を創り出した本作は、音楽の根源的な美しさと創造性を感じさせてくれる奇跡のような1枚。
Sam Gendel & Antonia Cytrynowicz – Process Video
Lady Aicha & Pisko Cranes Original Fulu Mziki of Kinsasha – N’DJILA WA MUDJIMU
衝撃度で言うとこのアルバムが1番だったように思います。
Pisco Craneが自身の育ったコンゴ・キンシャサのスラム街で結成したバンドFulu Mzikiと、ファッションデザイナーや彫刻家として活動するLady Aichaによるアルバム。
民族性と未来性が融合した衣装(これはLady Aichaによる素晴らしい作品)やアートワークを見ただけで只ならぬ存在であることが分かると思いますが、音もかなり衝撃的。
使用する楽器もパイプ、木材、缶、電子機器の部品など、身の回りにある物を使用して作られており非常にユニーク。
複数の打楽器や金属音が幾重にも折り重なって創り出すグルーヴは、伝統的なアフロミュージックをベースにエレクトロやポストパンク、スピリチュアル・ジャズが融合したような革新的なサウンド。それをコンゴのストリートの生々しい熱気と共に封じ込められた強烈な1枚です。
Kraut
Aerofall – Rh
ご縁あって国内盤CDのライナーノーツを担当させていただいた作品なのですが、そういった個人的事情を除いても本当に素晴らしい作品だったロシアのシューゲイズバンドAerofallの3rdアルバム。
シューゲイザー/ドリームポップだけでなく、ポストパンクやUSオルタナ、サイケデリックロックといった複数のエッセンスを取り込んだサウンドは、2020年代のシューゲイザーを代表する名盤になるのではないでしょうか。
彼らはサウンド面の多彩さだけでなく、メロディーメイカーとしての才能も素晴らしく、この作品はよりボーカルの輪郭がはっきりした事もあり、ポップさという面でも過去最高のクオリティ。メロディーがシューゲイザーにとって重大な要素の1つということも再認識させてくれた1枚でした。
もし気に入っていただけたら是非CDも手に取って貰えると大変嬉しく思います。
Aerofall – Rh(Garnet Records)
Heads (Official Video)
以上、10枚紹介させていただきました。
ちなみにこちらは今の気分や、僕がこれまでin the middleに寄稿した記事とリンクするような作品を中心に選んだので、今後別の形で2022年のベストアルバムを発表する機会があった際に全く違う内容になってる可能性も御座いますのであしからず。
今年も沢山の音楽との出会いがあった1年でした。それに加え、in the middleで記事を書かせていただくことで、発見した音楽を紹介できる機会も増えた事に感謝です。
来年も宜しくお願い致します!