Interview-Masayuki Takeda/ゴヰチカ 前編
千葉県市原市五井に2020年にオープンしたゴヰチカ。国内外の現行ハードコア・パンク、ポストパンク、アンビエント等の作品を中心に、日々尖ったアーティスト、レーベルをプッシュし続けている。また、映像配信スタジオとしても活動しており、県内のアーティストの配信ライブやトークイベント等も行っている。
今回は植木職人としての顔も持つオーナーの武田氏に、ゴヰチカの成り立ち、地元・五井について、氏の音楽遍歴などをインタビューした。
取材/Black Hole,in the middle
-お店の紹介とこれまでの成り立ちを教えてください。
ゴヰチカという映像配信スタジオとカセットテープをたくさん置いているお店をやっています。始めてからまだ1年くらいの新しいお店です。
-武田さん一人ではなく、他にもスタッフの方がいますが共同で経営しているというスタイルなのですか?
今のお店自体は僕がやっているんですけど、建物の元々の借主はタイチくんという別の方で、元々彼がレンタルスタジオとして始めたんです。お店として畳んでしまうという話を聞いて、そこを自分が借りて、お店を始めたという流れです。タイチ君も元々音源を扱うお店をやりたかったっていうのもあったので、じゃあやってみようよと。
タイチ君は近くでchachaという居酒屋をやったりデザイナーとしても活動していて、今は一緒にゴヰチカもやっているという感じです。もう一人Hyozoくんは、僕がやっている武田屋作庭店という植木屋の従業員もやってもらってます。彼はミュージシャンでもあり、ライブの企画や仕入れたいカセットのピックアップとかもしています。あとカセットの他に洋服が置いてありますが、近所に住んでいる古着好きのヒロキくんが権七って屋号で仕事の空いた時間で古着屋をやっています。
-武田さんがお店をやっていて、いろんな方が集まって運営しているという形なんですね。お客さんはどういう方が多いですか?
東京や埼玉から来てくれる方が多いですね。関東圏のカセットを置いているお店をぐるっと回る時にここにも寄ってくれる、とか。ここ最近は近場に住んでいる音楽好きな人が見つけて来てくれるようになってきました。
-お店を始めるにあたっては色々と大変でしたか?
そうですね。元々音楽は好きでアンダーグラウンドのバンドのレコードを買ったりライブに行ったりもしていましたが、あくまでお客さんという立場でしたし、お店の事情とか詳しいことは知らなくて。なので思いつきで始めた部分も結構あるんですよ。でも他所でやってない、できないようなスタンスでやろうっていうのは頭にありましたね。
-どういう点で他とは違うことをやりたかったのですか?
ここのお店のスタイル自体が変わってて。本当は小さなポップアップが集まる商店街みたいにしたかったんですよ。洋服を置いているのとかはそういうイメージで。カセットテープ以外にも違うお店やりたいなって人がいれば置いてもらって、店番もやってもらってっていうのを考えてて。
-開業にあたっての準備期間とかはどれくらいあったのですか?
始めるまで一週間くらいでした(笑)。最初は何やるかも決まってなくて。タイチ君に「お店を畳んでしまうんですけど、何かやれたりしないですか?」って言われた時は「じゃあ僕借りてなんかやります!」って即答しちゃって(笑)。もちろん今までの自分の経験とかから瞬間的に色々考えて、即答したってのはあると思いますが…ただ、その日の夜はめっちゃ後悔しました(笑)。「俺、なんてこと言っちゃったんだろう…」みたいな。酔っ払ってたし(笑)
-お店の経営の仕方は結構特殊ですよね。
そうですね。お店として経営が上手くいっているかというのは置いておいて(笑)。本業が植木屋で、他はそれ以外、とかそういう分け方はできればあまりしたくないんですよね。生活の一部としてどれもあるというか。ただゴヰチカはこれ一本でやっていくぞというわけでやってはいないので、いろいろとチャレンジできる場にしたいというのはありますね。
-カセットテープの作品にこだわっている理由を教えてください。
それはお店を始めやすそうだったからです(笑)。レコードやCDが家にめちゃくちゃあって、レコード屋さんやりたいというのもあったんですけど、やはり植木屋をやっているのでそれは両立できないなと。カセットテープならいけるんじゃないかって思ったんですね。
-ある意味アーティストのリリースと同じですね、最初はカセットでっていう(笑)。今はそれがメインの人も少なくないですが。
そうですね。あとジャンルがギュッと絞られているというか。僕はカセットを出す人って良い音楽を作ってる人が多いと思ってるんでよね。たとえばレコードとかCDってたまに「?」ってなるものがあると思うんですけど(笑)、カセットってあまりそういうのが無いというか。
-確かにそうかもしれませんね。わざわざカセットを出したいぐらいだからこだわりがあるということかもしれませんね。
でも、たとえばメジャーのもので、カセットで出す必要性がないんじゃないかって自分たちが思うものは仕入れないです。カセットリリースとしてハマっている作品は特に入れたいと思っています。レコードも少ないですけど仕入れています。でもそれもカセットの延長線上にあるような感覚ですね。
-音源の仕入れは武田さんがやっているのですか?
そうですね。最近はHyozo君にもやってもらっていますけど、結構好みが一致するのでそこで意見が合わなかったりとかはないですね。基本的にはカッコいいなって思ったものを入れてます。あとは…自分はこれまで色々な音楽を聴いて来たタイプだとは思っていて、そのバックボーンを大事にしてますね。たとえば昔好きだったアーティストさんが今やってることも気になりますし。
-他所とは違ったお店のスタンス、とういうことを話されてましたけど、扱っている音源のチョイスもやはり変わっていますよね。
そうですかね…僕はあまり自覚がないんですよね。
-かなりマニアックなものもある印象ですが(笑)。それぞれのジャンルの専門店にいけば一つ一つは置いてあるかもしれないですけど、かなり変わった音源やジャンルがひとつのお店に集まってるなと思いました。
元々パンク/ハードコアが根っこにあるっていう自覚はあるんですが、アンビエントとかも好きですね。
-ジャンルは違えどどこかつながる感覚はあるものが置いてあるのかもしれないですね。
最近入れたAlready Dead TapesっていうLAのレーベルがあるんですけど、だいぶトンガっていて。ジャケットも凝っていて、パンク精神が溢れつつパンクではなく、掴みどころがないというか(笑)
-意識はしてないといってもチョイスの傾向はありますよね。
そうですね。ざっくり現行のポストパンクとかが在庫のメインになってくるとは思いますけど。あと国で言うとなんだかんだロシアのものが多いですね。
-それはどこから情報を得るんですか?
ネットですね。でもみんな知ってるんじゃないかな?と思いながら仕入れてますけど。ここ以外でも日本で仕入れてる個人店を見たことがありますし。
-かなり少数派だと思いますけど(笑)。プレス数も少ないものが多く、UK、US以外の国も多いという印象ですが。
そうですね。フィリピンなんかも多いですね。
-僕も個人でディストロもたまにやってるんですけど、友達のバンドを聴いてほしいから入れるって場合と、あとは自分で見つけて他のレコード屋で扱っていないからやるっていう場合の2パターンあるんです。ゴヰチカは後者の方で、他で扱っていないものを入れたいなという尖った感覚を僕は一方的に感じてたんですが。
そこは本当に意識してないですね。他で扱っていてもいなくても「コレめっちゃいいな!」って思ったらとりあえず入れるって感じで。
-ナチュラルに尖ってるんですね(笑)。リリースの1stプレスにこだわっているお店もありますけど、それもカッコイイなと思っていて。勝手にそれに近いものをゴヰチカに感じていたんですが。
結果的に一番惹かれるのはそこかもしれません。最初のプレスは入れたいと思いますし。あと海外からレーベル始めたよっていうインフォも結構来て、そこで聴いてよかったら「お願いします」って感じで。
ただ、そういう意味ではまだ不完全な部分があって。置きたい音楽も音源もまだたくさんあるけど、まだスピード感とマンパワーが無い状態で。
-ネットショップの方にアップしきれない音源とかもありそうですね。
ありますね。
-でもそれは地元…そのエリアでお店を出してるのでいいと思いますけどね。店に行って買うというか。欲しいのが売り切れていても、お店の人と話して違うものを買ったりとか。
そうですね。まあこういう土地でお店をやっていても商売としてはなかなか成り立たない面もあります(笑)。都市圏は音楽文化が豊かですけど、この辺りはスタジオもライブハウスも無いし。僕自身も学校で音楽の話できる友達はいなかったんで。
そうなると、ゴヰチカで扱ってるような音楽に興味を持ってくれる人って何人いるのかなって(笑)でもそういう昔の自分みたいな人が来て、色々きっかけになってくれれば嬉しいなと思います。
-個人でやっているレコード店はどこでも、自分が好きだったり、良いと思っている音楽を聴いてもらいたいっていうのは前提としてあると思うんですが、都市圏にあるお店とゴヰチカではお客さんの層も違いそうですし、自然と違った道を辿っていきそうですよね。たとえばフラッと来た人とかが多かったりすると思うんですけど、どういう風なお店になっていくのかなと。
そうですね。たとえばお隣の千葉市でお店をやったら、どういう人が来てどんな風になっていくかってのはなんとなくイメージできるんですよ。ただここは全くそれがわからない(笑)。もちろん千葉市のあたりからも来てくれる方はいるんですけど。
-自然発生的な要素が多そうですね。
結構面白いのは「地元にこういう人いたんだ」って思うような音楽好きのお客さんが現れるんですよ。Hyozoくんなんかはもろにそんな出会いなんですが。あと、以前音楽をやっていたけど辞めていた人にお店でライブをやってもらったりとかも嬉しかったですね。
-都市圏に住んでいなくて、めちゃくちゃマニアックな人も意外と多いですよね。こういう土地の方が、たとえば音楽じゃない別ジャンルの人でも感覚が近い人同士はつながりが深くなりそうですし。
-ゴヰチカはお店だけでなく映像配信スタジオも兼ねていますが、配信ライブなどで出ている方はどういうつながりがあるんですか?
知り合いで出たいと言ってくれた方や、知り合いじゃなくても僕らが好きな人に声をかけて出演してもらうこともあります。お店としてもライブ感を出したいので、インストアライブとかは増やしていきたいですね。元々ライブ配信スタジオっていうこともありますし。ただ、なかなかそこが軌道に乗り切れていないので数を増やしていきたいです。
-映像は武田さんがやっているんですか?
映像担当の方は右田(みぎた)君という配信オペレータがいて、最近独立して仕事としても映像配信をメインでやっています。元々ゴヰチカにあった機材を彼の仕事で使ってもらいつつ、ゴヰチカで配信をやる時は彼に来てもらって手伝ってもらってます。
-ライブ以外のイベントの配信もしていますよね?
トークイベントもやってますね。政治の話が好きなスタッフもいるので、評論家の方に来てもらって対談したり。脱線してグチャグチャになって批判が来たりするんですけど(笑)。配信中にゲストの人と考えの違う人がたまたまお店に来たこともあって、「何で話のテーマと違う人が出て来るんだ」とかコメントに書かれたり(笑)
-でもちゃんと見てくれてるんですね(笑)
そうそう、最後まで見てくれたんだって(笑)ただ、ライブ配信はなかなか難しいです。切り取れないので全部流しっぱなしで、脱線とかダラダラしてしまうのがこっちは面白かったりするんですけど、見てる方はキツイのかなって思ったりします。
-でもそれくらいが好きな人もいますよね。構えずに見れるというか。流し見できるじゃないけど。
ではライブ配信をもっとやってきたいというのが展望としてひとつあるんですね。
そうですね。他のやっていることともつながるような形でできたらいいなとは思っているんですけど。
-武田さんの考えるゴヰチカのコンセプトは具体的にはどのようなものですか?たとえばこんなお店にしていきたい、とかあると思うんですけど。
やっぱりローカル感…憧れもあるんでしょうけど、大事にしたくて。じゃないとここでやってる意味がないですよね(笑)。僕は多分地元好きなんでよね。好きだとは言いたくないし、嫌いなとこもあるんですけど(笑)。五井駅前はとにかくつまんないんですよ(笑)。お店もご飯食べるとこも無くなっちゃったし。
ただ、高校とかが多くて学生が多いんで。そういえば僕が学生の時とか、学校帰りに寄ったり遊んだりするスペースとか欲しかったなあって思って。じゃあ自分がそういう場所を作れば楽しく過ごせる人が増えるんじゃないかなっていうのは思いますね。
-高校生とかも来るんですか?
カセット好きな高校生はごく少数いて。あとは音楽やってる子とかがちらほら来てくれますね。すごい少数ですけど、結構お店で話したりして。月に一回でもそういう子が来てくれてたら嬉しいですね。
-その子たちはどういう音楽をやってるんですか?
ラッパーですね。あと、音楽やりたいけどどう始めていいかわからない人とか。そういうのを見てると、今はバンドはやりにくい世の中になっているのかなと感じたりもしますね。先輩後輩感も無くて。
-今は少人数のバンドも増えてますよね。2人でやるとか。4人とか5人だとお金も時間も掛かる面もありますし。
どんなジャンルでも宅録は増えてますね。
-海外も前よりバンドは減っている印象がありますけど、日本は特に減っているかもしれませんね。でも音楽をやりたい若い人たちに、ひとつ場所を示せているのはゴヰチカのスタンスとしてできていることですね。
武田屋作庭店
-武田さんは植木屋さんもやられているということですが、元々ご実家が造園関係のお仕事だったんですか?
いや、違うんです。実家は駄菓子なんかもある酒屋さんで。植木屋は自分で始めました。
-自分で何か始めるのが好きというか、得意なんですね。
元々音楽も植物も子どもの頃から好きで。それに沿ったことをしているというのはあるかもしれません。
-植木屋さんの仕事はフルタイムでやっているんですか?
そうですね。基本的には毎日やっています。
-そういう仕事を独立してやっていると色々と忙しそうですよね。商工会とか組合とかも。
僕はそれに関してはたぶんアウトローなんですよ(笑)。どこにも属してなくて。それでも結構色んなところから仕事はいただいてるんですけど。
-そうなんですね。皆どこかに所属しているのかと思っていました。
いろいろと自由にやりたいなら多分そういうのには入らない方がいいと思うんですよね。
-植木の方も独特なスタイルにこだわってると聞きましたが、どういう点が他と違うのですか?
いわゆる雑木というか、一般の植木屋さんが使わない自然なかたちの木を植えて、森みたいな庭をつくっています。
-植木の仕事でも、お店と同じく強いこだわりを持ってやってるんですね。関わっていることすべてに思いがあるというか。
不思議な感じですけどね。植木の方は関わる人も職人さんばかりなので、音楽に興味ない人と色々な仕事をしていて。逆にゴヰチカの方では音楽しか見てないような人たちとたくさん会って(笑)。そこは普段全然交わらない世界だと思うんですけど、交わらせたいなと思っていて。いや、でもなんとなく…あんまりそれは上手くいかなそうだなって思っています(笑)
-上手くいかないなって思ってることは、上手くいかないことが多いですよね(笑)。でも日本は文化的なジャンル同士でもあまり交わらないですよね。映画とかアートの人とかと、音楽の人が交わったりするのもあまりない気がします。個人レベルでは知り合いだったりとかはあると思うんですけど。
そうですね。でもたまにボーダーレスな人もいますけどね。スタッフのHyozo君とかもそうで。今日は昆虫採集行ってるんですけど(笑)。きのこにも詳しくて、色々と教えてもらっています。
少社会珈琲
-ここにあるこのコーヒーはなんでしょうか?ゴヰチカのこだわりがありそうですが。
ドネーション製で欲しい人にあげてます。あとはちょっと時間がある人はコーヒーを飲んでもらって話したりして。お金でもそうじゃなくてもいいんですけど、できればお金を介さずに人と動きを繋げたくて。自分は「こういうことができるからコーヒーちょうだい」みたいな。
あと例えば袋にQRコードをつけて音楽と繋げたりして。そういうことを試していきたいですね。カセットもそうですけど、フィジカル的な…物体を通したいんですよね。それを使って面白おかしく何かできればいいかなと。
-たとえばQRコードでBandcampに飛ばすとか。
そうですね。あとは1曲ダウンロードできるようにするとか。単にネットからダウンロードして終わり、じゃなくて「コーヒー1杯飲んだぜ!」みたいな(笑)一個出来事を作りたいですね。どれが正解かはわからないですけど。アナログ感を大事にしたいというか。
カセットも究極のアナログ感があると思うんです。壊れやすいし、時間が経てば聴けなくなっちゃうかもしれないし、レコードよりも儚いものだと思うんですよ。そのどうしようもないアナログ感を活かしていきたいんですよね。例えばカセット自体に直接アートワークを描いて10本だけ売るとか。変な特別感を大切にしていきたいし、生み出していきたいし、そういうのがこの場であってほしいなと思いますね。
後編に続く