“わかりやすく荒々しいサウンド”を聴きたい人向けの60sガレージ入門推薦盤
text by Toyozo-The Fadeaways
自分の好きな60sガレージと呼ばれる音楽は不思議なもので、その音楽性については画一的ものではなく、例えばレコード屋によってはパンクのコーナーにあるものや、サイケのコーナーにあるもの、サーフやオールディーズ、ロカビリーのコーナーにあるものもジャンルとして内包している。
したがってパンクや90s以降のガレージのファンなど、そのテの荒々しいサウンドが好きな若者が、その流れでルーツである60sガレージに興味を持ち、初めて聴いた際に抱くのが「あれ?意外とソフトだぞ…」という疑問(感想?)である。
今でこそ死ぬほど好きだし60sガレージだと認識しているが、自分も ?&the MisteriansやRising Stormを初めて聴いたときには「これのどこがガレージなんだ…」と思ったものです。なんというか、のどかだった。
そうした若者(だけに限りませんが)が、最初のレコードのチョイスに失敗して二度とガレージはごめんだと思われたくないので、最初の一枚として荒々しいのを期待してOKなバンドのアルバムを自分なりに選んでみました。ローカルなバンドの個別のシングルや曲単位で切り取って挙げ出すとキリがないし(それが60sガレージの魅力ではあるのだが)、有名どころのバンドかつ、入門編としてCDでも出ており比較的手に入れやすいアルバムからチョイスしています。
時代性ゆえ、ラウドな曲がメインであっても、アルバムにはセールス狙いの有名曲のカバーなどが数曲混じっていることも多いがそこは勘弁してください。
“The Sonics / Boom”
ワシントン州はタコマ出身のガレージパンク最高峰バンド。初期の録音はメンバーの家族が録音を手伝っており過激さには欠けるが、65年以降の音源はおしなべて激しいです。1st “Here Are The…”ももちろん素晴らしいが、ここはバスドラ鬼踏みの冒頭曲 “Cinderella” 収録のこちらを。基本ハイテンションな割れたボーカルがひたすらに続く、ガレージパンクの教科書のような1枚。2011年にNJでライブ観ましたが荒々しかったです。Sonicsに関してはNYのNorton Recordsがしっかり丁寧な再発をしてくれているため入手もしやすいかと。
“Bob Hocko & The Swamp Rats / Disco Still Sucks!”
これはもう荒々しいです。すさまじく。ペンシルバニア州ピッツバーグが生んだガレージモンスター。先に挙げたSonicsもカバーしているRichard BerryのLouie Louieのカバーは12弦ギター×2+ドラムというベースレス録音だが、ギターが歪みまくっており相当に荒々しいです。楽器の音は70s Punkみたいに聴こえます。ほかにも”No Friend Of Mine” “Psycho” のように初期シングル3枚にはどれも高水準で気が触れたような荒々しいカバーが収められており、これら全てが収録されている、Get Hip Recordsからの編集盤がおすすめです。途中例によってBeatlesの “Here, There, And Everywhere” のしっとりカバーが唐突に始まりますが気にしないでください。
“Zakary Thaks / From The Habit”
テキサスの暴れん坊。パンクやサイケがそうであるようにガレージパンクにとってもテキサスというのはワイルドなサウンドを産む特別な地なのです。代表曲”Bad Girl”は60sにおけるプロトパンクといえる程バキバキです。というかリズムとリフが既に70sパンクしてます。メンバーの好きなバンドはYardbirdsだったそうですが、どこを聴いてこんな風になったのか甚だ疑問です。その他にも”Face To Face” “Won’t Come Back”など荒々しくて良い曲が沢山。こちらは良質な再発でお馴染みのBeat Rocketからの編集盤です。
“MC5 / ’66 Breakout!”
あのMC5です。デトロイトの。彼らの15歳の頃のライブの録音なんですが既にMC5の音です(特にギターが)。でもちゃんとジャケットの下にタートルネック着て、タック入りパンツ履いてます。音の方は60sガレージの中においても音圧、ギターのサウンドの面で相当荒々しいです。”Looking At You”はこの時すでにもう演ってます。ライナーにてWayne Kramerが自身を振り返って、”Overdoesed smarty-pants’d punks”と書いてますが正にその通りといった感じ。結局このバンドを出してしまうと、その後のUSパンクの流れに繋がってしまうんでお題に対しては少々ズルですが。パンクのルーツにガレージパンクがあることの1番分かりやすい例かなと。
“The Pretty Things / Midnight To Six”
UKで60sで激しいサウンドといえば真っ先に名前が挙がるのがThe Pretty Thingsです。同時期にはRolling StonesやYardbirdsなどのブルースを下敷きとしたバンドがいますが、暴力的なサウンドという意味では頭ひとつ飛び出しています。Rolling Stonesを去った男であるギタリストのDick Taylorの極悪なギターサウンドがハードなR&Bサウンドの要ですね。
1st “The Pretty Things”、2nd “Get The Picture”も勿論素晴らしいですが、分かりやすいところで初期のFontanaからのシングルを集めたこちらの編集盤がおすすめです。人気曲”Rosalyn” “Midnight To Six Man” “Get The Buzz” “Come See Me”などを網羅しており非常に便利な1枚です。Pretty Things自体はその後音楽性がどんどん変わっていきますが、初期の音はまぎれもなく60sガレージそのものを体現したような荒々しく乱暴なサウンドで強烈です。
“The Birds / The Collectors’ Guide To Rare British Birds”
続いてUKからはガシャーンというギターと吹き荒れるハープが荒々しいThe Birds。UKのこの手のサウンドはFreakbeatと呼称されますが、要はヨーロッパ版ガレージパンクってことです。このThe BirdsもWhoや初期のKinksのような分かりやすく暴力的なサウンドです。Deccaからの初期のシングルはどれも激しい出来ですが、Eddie Hollandのカバー “Leaving Here” はもはやパンクのような仕上がり。当時イギリスではこういったビートバンドもメジャーレーベルからのリリースが主流だったようですが、大手レーベルからもこういったハードなサウンドのリリースがあるというのは素晴らしいですね。ちなみにRon WoodはのちにRolling Stonesに加入。
“Chants R&B / Stage Door Witchdoctors”
ニュージーランドのクライストチャーチからはChants R&B。UKのPretty Thingsに多大な影響を受け〜、とよく紹介されるが、正にその通りで、単純に影響を受けただけでなくサウンドの荒々しさを正統に受け継ぎつつ、更にラウドな音作りとなっています。このバンドに限らずOZ、NZには当時Pretty Things影響下のR&Bサウンド志向のバンドが多かったようです。(Pretty ThingsのドラマーViv Princeによる、ニュージーランドツアーでのステージ放火事件や国外退去命令事件などが有名ですが、当時それで興味を持った若者も結構いたんでしょうか)
66年のシングルである”I’m Your Witchdoctor” “Neighbour Neighbourの2曲がすさまじい情念R&Bパンクで最高ですが、その他にも”Mystic Eyes”(Them)、”Come See Me”(Pretty Things)のカバーなどにも総じて荒々しい音づくりが徹底されております。こちらは米カリフォルニアのBucchus Archivesからの編集盤でCDのみのリリースですが激おすすめです。LPはNorton Recordsよりほぼ同内容のものが出ています。
…こんな形で紹介してみましたが、振り返ってみれば今では「王道」とか「基本」といわれるセレクトばかりになりました。結局長く広く聴かれるもの、後世に残るものってのは普遍的な良さがある訳ですね。なのでこのあたりは入り口にして、到達点であり、60sガレージの魅力が凝縮されていると言ってもいいでしょう。
とはいえ最初の入り口によってその後の感じ方が変わることを考えれば、ソフトなものから入った結果、そのままトワイライト系に行ったり、ガレージにはまらなくてもソフトロックに行ったり、60sポップに行ったりもできるわけで、道は一つではないよとゆうことですよね。何も60sガレージを聴いて60sガレージのファンにならなくてもいい訳です。ロックは自由なので笑。
それでももしこれらの音源で60sガレージを気に入り好きになったのであれば、個人的にはですが、荒々しいサウンドを聴きむさぼっていくうちに、チープなものや哀愁のあるもの、ヘンテコなものなど、ガレージパンクの持つ様々な側面の魅力に気づいていってもらえたら嬉しいなと思います。