Destroy All Art 〜17 Under-The-Radar Punk Hits From The 90’s 〜 前編

text/Interviewed by Kenji Sagahara-The Smog

90年代に世界中で乱発された「ガレージパンク」レコード。有名どころではEstrus、 Crypt、Sympathy、Get Hipといったレーベル、日本でもBurn Homes等のレコードショップ、Doll誌で関口氏が熱心に紹介した事で、マニアックな現行バンドのレコードが各種輸入〜流通され、非常に刺激的な時代であった。

パンクファンの中でこの時代の大きな流れが、オブスキュアなパンク編集盤Killed By Death(以下KBD)だ。90年代にBack to Front, Blood Stains等のレアパンクコンピが多数リリースされ、自分もそうだったのだが、70’sパンクのレア盤を海外でメールオーダーしたり、レコード屋さんにレア盤を買うために朝早くに並びに行ったり、世は70’sレアパンクブームに突入する。現行のガレージパンクを聞きつつ、オリジナルパンクのレコードも買うという、そういう人が当時多かったと思う。

そういったガレージバンドの盛り上がり、KBDの流れで90年代初頭、当時大人気だったMummiesを代表とするサンフランシスコ周辺のロウファイパンクシーンからRip Offsが登場する。マスクを被った見た目のインパクト、70’sパンクなサウンドはかなり強烈で当時Rip Offサウンドというジャンルもあったくらいだ。

The Rip-Offs – Got A Record(1994)

そして、この日本でもTeengenerate, Registrators〜クロロホルムといった70’sパンクスタイルのバンドが現れ、90年代中頃~後期にレイト70’sパンクに的を絞ったバンドが世界的に多数現れた。ガレージパンクからバンド、リスナーともに70’sパンクに徐々に傾倒していった。

Teengenerate – Smash Hits!(1995)
Registrators – Terminal Boredom(1996)

Destroy All Art 〜17 Under-The-Radar Punk Hits From The 90’s 〜。90’sパンク版KBDともいえるオムニバスが2015年にリリースされた。プレス数も少なくシングル1〜2枚で消えていったような知られざるUnknown Punk Bands、ロウなキラーパンクをセレクトしたまさにKBDな視点で発掘された90’sパンクはパンクファンの間でも近年話題となった。

Various – Destroy All Art(2015)

日本のバンドも多く収録されている。Vol.1ではPrivate Ways、Intimate Fagsの前身バンドでゴリゴリのUKパンクスタイルのCockscratch 、Zymoticsの前身として知られるプリミティブな名古屋のBou Sou Nezumi、Vol.2では京都ならではのモッドパンクThe Nailclippers、本格的なOi〜MODリバイバルなRustがエントリーされた事で知ってる人、買った人も多いんじゃないかな?と思う。

自分的には全く知らないノーマークのバンドがあったりで90’sモノの再発見にもなった。70’sモノが飽和状態な中で斬新な切り口なコンピレーションだとも思った。製作者は70’sパンクレコードのコレクターとしても知られるAndrew Winton。オブスキュアなだけでは無い、素晴らしい曲ばかりのパンクコンピレーションだと思うので、まだ未聴の方は是非とも聴いてもらいたい。Andrew Wintonへ色々と聞いてみた。

Andrew Winton

まずは自己紹介をお願いします。

Andrew Winton、43歳、カリフォルニア州のベーカーズフィールドに住んでいるよ。1994年からのレコードを集めていて、フライヤーも集めているんだ。

Andrewの自宅のフライヤー

子供の時はどんな音楽を聴いて育ちましたか?

ボクが子供の頃、姉がハードロックやヘビーメタルがとても好きだったんだ。Van Halen、Judas Priest、Kiss、Motley Crueなんかが好きで、母はカントリーが好きだったよ。Kenny Rogers、 Dolly Parton、Wille Nelsonとかね。当時は基本的にそういうものしか知らなかったし、最初はそういうのが好きだったよ。

その後、パンクロックとはいつ出会いましたか?

パンクにハマったのは高校1年の夏で、1993年。当時14歳だったよ。ボクの友人の姉がChrisっていうパンクスと付き合っていたんだ。彼が車のカセットデッキでMisfitsのWalk Among Usを聴かせてくれたんだ。彼が、MTVのビデオで観た事があって知っていたDanzigがボーカルだと説明してくれたんだ。

Misfits – Walk Among Us(1982)

この時の体験がボクの心を打ち砕いたんだ。そのアルバムは当時の11年前にリリースされていたけど、Misfitsのサウンドとルックスは新鮮でエキサイティングなものだったよ。もちろんThe Ramones、Sex Pistols、Clash、Suicidal Tendenciesなんかは知っていたけど、それとは明らかに違っていたよ。

その年の夏、ボクはChrisにベーカーズフィールドのMarsという地元のパンク・クラブに連れていってもらえるようお願いして、その夜に地元出身のJFUKというバンドを観たんだ。そのバンドのベーシストは、今ではボクの親友の一人。そこから、Chrisをはじめ、そのクラブのライブに通ううちに知り合った人達や高校の先輩たちからパンクのことをどんどん教えてもらうようになったんだ。

特に、ChrisはFangやThe Lewdといったバンドに夢中だったので、彼に教えてもらってから古いカリフォルニアのバンドに興味を持つようになったよ。ChrisからはMaximum Rock’n’Rollも教えてもらって、その時に90年代に活躍したバンドの記事について読むようになったんだ。

ベーカーズフィールドってどんな町なんですか?

ボクの地元はカリフォルニアの中央部、ロサンゼルスとサンフランシスコの中間でLAまでは車で2時間弱かかるよ。天気のいい日は1時間40分くらいかな?ベイエリアはここから北に4時間ほど行ったところで夏はとても暑く、冬はかなり寒いんだ。石油と農業なんかが盛んな地域。ボクの家族は、昔からこの地域に住んでいるけどホント気に入っているよ。オールドスタイルの家、大きな木があちこちにあって、天気が良かったら散歩にもすごくいいんだ。

ベーカーズフィールドのバンドでお気に入りってありますか?

ベーカーズフィールド出身の古いバンドで有名なのは、The Lizerds、Terrorists、Burning Image、Big Jed And The Flatbeds なんかだね。これらのバンドは80年代初期から中期のバンドなんだ。

The Lizerds – Is It Late?(1981)
The Terrorists – Crazy Life(1981)
Big Jed – Die Faggit Die bw My Town First(1989)

90年代にはJFUK、Melted Gumby、The Acrylics、Active Ingredients、Brian Jones Was Murdered といったバンドがいたよ。

The Acrylics – Throw It To Lucas(1995)
Brian Jones Was Murdered – Beat Me Like A Star(1997)

Andrew自身も昔はバンドでドラムをやってたと聞きましたが?

かれこれ12年以上バンド活動をしていないんだけど、初めて参加したバンドはCrosswalkというバンド。実は、さっき話したバンドのひとつ、The Acrylicsとスプリット7インチがあって、それは1995年にリリースされたんだ。どちらかというとメロディック・ポップ・パンクのようなバンドだったよ。そのレコードはYouTubeにアップされているから聴きたい人はどうぞ。

Crosswalkの初ライブのフライヤー(1995)

リリースしたとき、ボクは16歳だったよ。The Criminalsというバンドにも在籍しててTomorrow’s too lateというCD Epを作ったんだ。The CriminalsはLookout!、Adeline、Recess recordsからもリリースしてたよ。

他にはThe Pineというバンドもやっていて、これはインディー・エモ系のバンド。彼らの1st 7インチと1st LPの半分に参加したんだ。他にもIcarus LineやBullet Train To Vegasといったレコーディングをしなかったバンドにも参加したけどこれらのバンドとはツアーをしただけだったね。

結構がっつりとバンドやってたんですね。70’sパンクロックのレコードコレクターでもありますよね?

ボクは7インチを集めるのが大好きなんだ。パンクのフォーマットとしては最高だね。ジャンルとしては、ハードコアやメタルはあまり集めていないんだ。1976年から1985年にかけてリリースされたものを中心に集めていて、ポストパンク、KBD、パワーポップ、デスロック、ノーウェーブ、ガレージなどなど。

当時、70年代のパンクのレコードを買い出したきっかけは何ですか?

ボクは高校生の時にレコードを買い始めたんだ。The Dickies/1st LP、Ramones/Leave Home、Rocket To Russia、It’s Alive、Sex Pistols/Never mind the bollocksなんかの基本的なものを買ったのが始まりだったよ。

16歳の時に買ったMiddle Classの編集盤CDは今でも持ってて、あれはボクにとってかなり重要な音源だったんだ。CDのインサートの内側に、Human Hands、100 Flowers、Gun Clubなど、Middle Classが当時一緒に演奏していたバンドのフライヤーが入っていたと思うんだけど、当時はそれらのバンドは聴いたことがなかったんだ。もちろん、Black Flag、Social Distortion、The Germs、Adolescentsなんかの名前は知っていたけどね。

Middle Class – A Blueprint For Joy(1995)

そのようなバンドの中で好きなパンクバンドって何ですか?

う〜ん、それは難しい質問だね。でもやはりまずはMiddle Classをあげなければならないな。このバンドがボクが若い頃に聴いていた音楽や、レコードコレクトの方向性に大きな影響を与えたんだ。Bobby Soxx、The Germs、The Screamers、The Consumers、Wire、The Saints、Pere Ubu、The Mad、Xなんかもお気に入りだよ。

The Middle Class – Out Of Vogue(1978)
The Mad – Eyeball/I Hate Music(1978)

Middle Classにはどのような影響を受けたのですか?

初めてMiddle Classを聴いたときは、圧倒されたと同時にこのバンドに興味を持ったんだ。なぜ今まで彼らのことを聴いたことがなかったのか、ボクの町では彼らのことを話す人がいなかったのか、不思議に思った。また、UKバンドに似ているな、とも思ったのも覚えているよ。

ライナーを読むと、メンバーの2人が17歳と15歳の時にバンドを始めたことがわかり、それにも衝撃を受けた。こんなに若い連中がこんなに素晴らしいパンクをやっているなんて信じられなかった。このCDを購入した当時、ボクは彼らと同じくらいの年齢だったので、とても刺激になったんだ。

また、彼らがとても控えめなルックスだったこともよかったよね。ルックスは当時のパンクスには見えないけど、間違いなく当時のベスト・パンク・ミュージックを演奏していたんだ。

そして、彼らのLPといえば、これもまたとても気に入ってるんだ。彼らはバンドとしての短い活動期間に、音楽的に多くのジャンルをカバーしてて、1st〜2nd7インチ、そしてLPに至るまで、彼らは3つの異なるバンドのように聞こえる。4、5年の間に、音楽的な意味で急速に成熟しているのが印象的なんだよ。

難しい質問かと思いますが、70’s パンクの7インチのお気に入りは何ですか?

はははは、これまた本当に難しい質問だね。 Vomit Pigs/7″、The Germs/Lexicon Devil 7″、Berlin Brats/7″、Middle Class/Out Of Vogue7″のどれかだと思うな。この中から選ぶのは難しいよ。

V.P.’s – E.P. Take One(1978)
The Germs – Lexicon Devil(1978)

(後編に続く)