Trouble in Mind-Record Label in Chicago

text by Kenji Ueda(I Wonder Why)

Trouble in Mindはアメリカ、シカゴのイリノイを活動の本拠地としているインディレーベルで、現在も素晴らしいサイケポップをリリースし続けている。

僕が何故このレーベルが好きでこの記事に書きたいと思ったのかと言うと、60年代や70年代のアウトロー的なミュージシャンの空気感を持った、アーティスティックなミュージシャンのリリースを途切れることなくずっと続けているからだ。空気感と言ってしまえば言葉だけでは説明できなくなってしまうのだが、これまでTrouble in Mindがリリースした音源を一つでも聴けば僕の言いたい事が分かってくれると思う。それほどまでにTrouble in Minのリリース群は現在の音楽シーンの中では特徴的であるし、異彩を放っている。

そんなTrouble in Mindの発端はCococomaというガレージパンクバンドのメンバーだったBill RoeとLisa Roeの二人が2009年に始めたレーベルで、最初のリリースはまさにその彼らのバンドCococomaの7インチシングルだった。

CoCoComa‎ – Ask, Don’t Tell(2009)

彼ら二人が住んでいる家でのインタビュー動画が残っているのだが(2013年頃の映像なので、今とは状況が多少は変わっているのかもしれないが)、それを見ると彼らがいかに本やレコード、アートやカルチャーを大事にしているかが分かる。その中でBillはレコードショップで働いていて、BillもLisaも「自分達はコレクターだ」と言って古めかしいインテリアやアート作品、レコードを見せているのだが、そういう人柄の二人が運営しているレーベルと言うだけで個人的には好きになってしまう要素がある。

そんなTrouble in Mindでの作品群の中で僕が一番好きなリリースは、オランダ人のSSW、Jacco Gardnerの1stアルバム、”Cabinet Of Curiosities”である。

Jacco Gardner ‎– Cabinet Of Curiosities(2013)

Jacco Gardnerは元々The Skywalkersというキーボード、ドラムの二人組ユニットで、オルガンやメロントロンのような音作りをしたキーボードを弾きながら、ボーカルや楽器すべてといった曲の全パートに凄まじいエコーをかけた、予備知識無しで音だけ聴けばまるでピンク・フロイドの1stに影響を受けた60、70年代当時のバンドだと言われても違和感のないユニットをしていた。

彼のソロ1st作は、アルバム全体を纏う何とも言えないモヤのかかったような音像の12曲で埋め尽くされている。無駄のないシンプルでミニマルな曲もあれば、緻密にいろんな楽器が絡み合っている曲もあるが、どの曲も全体に凄まじいエコーがかかっている事と、浮遊するようなメロディという点では共通点があり、その2点において感じられるアルバム全体の統一感が本当に素晴らしい。

アートワーク的にも、動物たちが隠れた深い森の中で、赤い上着を着た一人の子供が上を向いて佇んでいる印象的なジャケットで、この幻像的なアルバムの雰囲気にとてもマッチしている。

ここまでの完成度を誇るサイケデリックポップ作品は、どこの国やいつの時期を見渡してもあまりない。本当にこのアルバムは全サイケポップファン必聴のアルバムであると思う。

他にも現行のサイケデリックミュージシャンとして語るのを外せないDoug TuttleやOlden Yolkなど、数々の素晴らしいミュージシャンをリリースしている。(ここではあまり深く書かないが、Doug Tuttleはアルバム全作品が雰囲気抜群のサイケデリックロックであるし、Olden Yolkは2018年、2019年と連続して素晴らしいサイケデリックフォークの作品をリリースしている)

Doug Tuttle ‎– Doug Tuttle(2014)
Olden Yolk ‎– Living Theatre(2019)

Trouble in Mindは、現代のミュージシャンやバンドだけでなく、2014年にはDel Shannonの1968年の名盤”The Further Adventures Of Charles Westover”を再発している。この辺りからも、彼らのサイケポップやルーツミュージックへの愛と造詣の深さを感じざるを得ない。

Del Shannon ‎– The Further Adventures Of Charles Westover(2014)

また、Trouble in Mindはサイケデリックミュージック以外にも、インディポップ的なアプローチをしている作品も多数リリースしている。例えば、フランス出身のインディポップバンド、En Attendant AnaというバンドもTrouble in Mindから2ndアルバム、Jullietをリリースしている。

En Attendant Ana ‎– Juillet(2020)

このEn Attendant Anaは、60年代のフィメールポップスを思い起こさせる伸びやかな女性ボーカルにシンプルなリズム隊、ギターソロよりもコードを中心としたギター、それにホーンやキーボードを入れたアレンジと、今日ではインディポップ人脈で語ると絶対に外せない存在となったグラスゴーの至宝、Camera Obscureと共通点がかなりある。

また、今年1stアルバム、 ” Zöe ” をリリースしたグラスゴー出身のNightshiftは、Spinning CoinやROBERT SOTELO等のメンバーも参加しているエクスペリメンタルバンドだ。こちらは内容としてはSpinning Coinから想像できるスコティッシュギターポップとは全くかけ離れた実験的な事をしており、他にも、2020年にはオレゴン州出身の脱臼DIYポストパンクバンド、Lithicsの3rdアルバムTower of Aceもリリースしたりもしているし、メルボルン出身のオージーインディポップの良心、The Shiftersの2ndアルバムも出したりしている。

Nightshift – Zöe(2021)
LITHICS ‎– Tower Of Age(2020)
The Shifters– Have A Cunning Plan(2018)

個人的に思い入れのある元Veronica Falls等のJames HoareとMazesのJack Cooperが組んでいたUltimate Paining(残念ながら仲違いで解散してしまった)などは、まさにインディポップ人脈の最たる例ではあるが、Trouble in Mindから毎回素晴らしいソフトサイケポップアルバムをリリースしていた。

Ultimate Painting– Green Lanes(2015)

このようにTrouble in Mindは、BillとLisaのオーナー2人による素晴らしい選球眼で今日もリリースを続けている。

Trouble in Mindからリリースされる作品は、サイケにもインディポップにも共通して最初に言ったような60年代や70年代の空気感を持ったミュージシャンばかりだし、一貫した軸のようなものを強く感じる。きっとTrouble in Mindの事を知らない60年代、70年代の音楽が好きな人たちがTrouble in Mindのリリース作品を聴いてもスッと耳に馴染むリリースばかりだと思うので、この記事を読んで気になった人はぜひとも聴いてみて欲しい。

レーベルオーナーの2人も、きっとあなたや私と同じような人達なのだから。