ライブハウスでもクラブでもないところで – 音ノ森 Outdoor & Music Camp Festival 参加録

ステージでパフォーマンスをしている人達

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Text by Hyozo /野流
Photo by 聶 /野流

以前、「NOINONE」というバンドが主催したイベントについての記事を書いたことがある。そこでお目当てだった「hYouU€a(ヒョーカ)」というサイケバンドは結局見ることができなかったのだが、なんとその後、hYouU€aのギターTaga君(moreru小腸分裂などで活動)から直接連絡があり、「今度北茨城のレイヴでライブをするので、Hyozo君(私、野流などで活動)にキーボードで参加してほしい」という内容の打診を受けた。

しばらくロックバンドではライブをしていなかったということもあり、久しぶりに大きな音を出したかったのと、イベントの内容も面白そうだったので快諾。スタジオに一回入った勢いのままライブをすることになった。

菌, 岩, 屋外, 覆い が含まれている画像

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そのイベントは「音ノ森 Outdoor & Music Camp Festival」と題されたもので、フォレストピア七里の森というキャンプ場で開催される70名限定のDIYフェスだ。ラインナップはバンドとDJを中心とした、テクノやトランスの色彩が強いレイヴな側面のあるもので、主催者はNOINONEのヴォーカル、のりお君夫妻。彼らは北茨城に夫婦で移住して音楽やアート制作を続けており、その様子はこの動画で紹介されている。

また、開催間近になって俳優の浅野忠信率いる「SODA!」の参加が告知され、twitterのプロフィールでサイケデリックロック好きを公言している彼だけに、そして彼が『殺し屋1』で見せた演技のファンであるという、ごく個人的な理由でも期待が高まった。

コンピューターの画面

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当日。面白そうということで、写真撮影や取材スタッフとして聶(私の妹、野流にも参加。作曲やグラフィティの観察が趣味)も参加することになり、同乗。hYouU€aのメンバーのリョウマ君(ベース、ディジュリドゥ担当、普段は「Egomania」という名義でDJをしている)と、シュン君(ドラム担当、小腸分裂などで活動、DJの名義はBash)も千葉から同乗して、一路、北茨城の山中を目指した。

肌寒い小雨の日だったが、14時過ぎには現地に到着。会場設営などの手伝いで、Taga君は会場に前乗りしていたので、現地で合流した。Taga君のお母さんの出迎えもあり、もてなしの一服。高いところなので空気が綺麗で、気分がスッキリする。

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そこで、DJとして出演するBryan Burton-Lewis氏がかつて「Space Shower TV」で番組を持っていたこと、90年代から2000年代序盤にかけて隆盛を誇ったフェス文化のことなどをお母さんが語ってくれた。

会場で聶が、過去に仕事で関わったことのあるグラフィティライター・Snipe1氏に再会して驚いていたが、茨城の山奥に遊びに来るお客さんたちは、文字通り遊びに対する本気度合いが違う。セカンド・サマー・オブ・ラブの空気感は、日本のメインストリームのフェスからはほとんど脱色されているが、このような場所ではしっかりと継承されていることを感じて嬉しくなった。

ステージでマイクを持っている男性

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盛りのついた犬が他の飼い犬を追いかけ回すのをぼんやり眺めていたり、コーヒーを屋台で買ったりしているうちに、ステージの方から音が聴こえてきた。

粘っこいエモーショナルなギターとソウルフル系な女性ヴォーカルのユニット、「The Factors」の演奏を聴きつけ、バンガローやテントから人々がワラワラと集まってくる。まだ日は高い。いきなりトランシーな表現から始まるのではなく、まずはアーシーで身体性の高い表現たちから始めていくのも程よい温度感だ。

壁に掛けられた看板

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キャンプ場内では地元企業や個人による飲食(クラフトビールやピザ、スパイスカレーやスープなどこだわりのものが多い)や雑貨の出店が日替わりであり、特に2日目の朝に飲んだ水戸の紅茶専門店のミルクティーは素晴らしかった。ネパール雑貨店ではスピリチュアルな音楽には欠かせないシンキングボウルやティンシャの販売もあり、フェスの雰囲気を高めている。

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また、トイレや入浴施設などのホスピタリティも充実している。レイヴといえば真夏に山奥で紙やら玉やらで踊り狂い泥まみれになる(そういうのも素晴らしいのだが)というイメージがあったので、この清潔な印象はフェスやキャンプのようなアウトドア遊びの初心者にも十分おすすめできるものだし、それを裏付けるように家族連れの客がちゃんと来ていた。

このように、きちんと地域社会に根付いた形でインディペンデント音楽イベントを開催している点はとても勉強になったし、日本国内の先行モデルとして色々な地域のアーティストが参考にできると思った。70名限定なので主催者の目が隅々に届くし、あまりおかしな客が来るわけでもない。規模感がとてもいいのだ。

公園にいる人

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森の中のテントがある

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やがて小雨が止み、暖かさを感じるようになった。続く「ザ・バッキャロー」、「ドドイッツ」も酒を愛し、酒場で鍛え上げられた燻銀のバンドたち。特にドドイッツは、ヴォーカルの超個性的なダミ声が印象的で、民謡のテイストが色濃く出たファンキーな演奏の上で、ジョン・リー・フッカーやモンゴルの喉歌の最もエグみのある部位を抽出して、ビーフハート風に煮詰めたようなヴォーカルが炸裂する。かなり個性的なローカライズのされ方をしたグループで良い感じ。

電話をかけている男性

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レストランにいる人たち

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ザ・バッキャロー
ステージで楽器を演奏する男性たち

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ステージでギターを弾いている男性

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ドドイッツ

もうすっかり日も暮れた。ステージから離れた丘では、積み上げられた薪木に火が灯された。キャンプファイヤーの明かりが、周囲を優しく照らす。

ステージに戻ると、古のサウンドシステム「Monolith」がDJたちに息を吹き込まれ、激しい音を鳴らしていた。踊る人々を見て、少しずつ体の使い方を勉強する。踊ることで肉体と脳が活性化し、演奏に向けた精神的なセッティングが整ってきた。

屋内, 窓, 男, 座る が含まれている画像

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男, テーブル, 持つ, 立つ が含まれている画像

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我々の出番が来た。DJプレイの合間を縫って、セッティングとサウンドチェックを済ませる。フェス形式のイベントではほとんどの場合リハはなく、一発勝負だ。

hYouU€aでは本来、構築性の高い曲をTaga君が用意しているのだが、今回は2つのキーと全体の大まかな構成を設定しただけのトランシーなアプローチとなった。ディジュリドゥがCのドローンを生み出し、キーボードとギターでその上を泳ぎ出す。メンバーたちの意識を一点に向かってチューニングしていく。

ステージで演奏している人たち

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やがてディジュリドゥが一定のベースラインを提示し、ドラムは基本的に3点を中心にストイックに踊れるビートを刻み続ける。そこにはトランスやガバのエッセンス、日常的にクラブに通い、また、そこでプレイしている世代ならではのセンスが光る。そしてディジュリドゥからベースに持ち替え、アンサンブルのボトムが膨らむと、ギターもラウドなアプローチとなり加速していく。

ブレイク、ユニゾン、メンバー全員(?)な瞬間などを挟みながら、ひたすらグルーヴし続けることだけを意識する。時折、見事なシンクロが発生し、気分は高揚していく。皆が踊れるように一定のビートをキープしたり、ずらしていって遊ぶ。寄せては返す波の合間に、ソロのような瞬間が生まれたり、消えたりしていく。

ステージでギターを弾いている男性

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不思議なことだが、特に何も決めていなくても全員が「そろそろだな」という感覚になって演奏は自然と収束していく。キーの違う長めの2セットと、最後にシンプルな4つ打ちを短めに演奏して、35分ほどの演奏を終えた。我ながら、この日出演した全バンドの中で最も渋い表現をやったなという感覚があり、楽しかった。

ステージでギターを弾いている女性

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屋内, コンピュータ, 座る, テーブル が含まれている画像

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ちなみに、ケータリングは昼はハヤシライス、夜はモツ汁ライスという冬に沁みるもの。どちらも薪ストーブで温められている。特にモツ汁は絶品で、臭みのないモツと各素材の味を吸い込んだ野菜類がたまらぬ美味さ。塩気もちょうどよく、美しい星たちが輝く屋外のシチュエーションも相まって、忘れられない味となった。

ボウルの中にあるサラダ

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Bryan氏のDJを遠鳴りに聴きながら、この日初めてのビールを一杯。犬を撫で、鍋をかき回し、ストーブの周りでしばしボーッとする。こういう時間がたまらなく贅沢だ。

そして、主催者のNOINONEの出番となった。パンクとトランスを軸に、緻密かつ熱い演奏を聴かせる。ギターはTaga君がかつてこのバンドに参加していた彼の父親の代わりに参加しているが、同期も使ってダンスの空間に特化した音楽性は、より純度を高めたものとしてhYouU€aに脈々と受け継がれている。フロアの人々も熟練のプレイヤーたちが生み出す信頼度の高いグルーヴに身を任せ、自由に踊っていた。

ステージで演奏している人たち

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ステージでマイクを持っている男性

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彼らは繰り返す。「システムをハックしろ」と。ポリティカルな主張が真っ直ぐにあるというのも彼らのエネルギーの根源だ。

人間の世界があるシステムやイデオロギーに管理されているという概念が理解されなければ民主主義が根付くことはないし、仮に幕府や天皇や自民党が根こそぎいなくなったとしても、この国の浸水は止まりそうにない。敗戦後、地方の百姓の子供が東京に集まって勉強し、牛馬の如く働き、酒でストレスを押し流し、家庭の仕事を女子どもに押し付けて、この国の経済発展は辛くも遂げられた。その背景には全て、大量に流入してくる欧米の文化があった。ロックもそうだ。

そこから30年。成功の概念はいまだに経済上の数字でしか語られず、セブンイレブンの駐車場でアクセルとブレーキを踏み間違える年齢の人間たちがいまだに国や企業のハンドルを握り続けている。かつての歪んだ成功体験に縛られたまま。

このような状況を変えるにはどうしたらいいのだろう? 「カウンターカルチャーは結局、資本主義と相互補完の関係だ」と喝破した、ジョセフ・ヒース&アンドルー・ポターの『反逆の神話』はとても話題になった本だが、カウンターカルチャーが何周も消費文化に吸収され、資本主義を補完し続けている移民の国アメリカと、何千年も東ユーラシアの儒教文化圏で地理的、制度的、精神的鎖国を続け、ここ150年で促成栽培のごとく西洋の文化(それも、日本から見える頂の部分だけを)を取り入れた我が国の文化的状況とは、何か本質的な違いがあるように思える。

そして、我が国は形式だけ取り入れてしまった民主主義システムのバグ(主権集団が高齢化すると、総意そのものが劣化する)を解決できず、互いに見えない階層間の文化的リテラシーや経済格差だけが増大している。

だが、日本ではインディペンデントカルチャーの可能性は欧米ほど十分に開拓されておらず、まだ試みる余地があると感じた。我々の父親たちができなかったことを私たちがやるのだ(とはいえ、「左翼は文化ではなくちゃんと政治をやれ!」というのが彼の本の主張だ)。

「システムをハックしろ」というのは、革命ではなく漸次的な改革を志向しようということなのかもしれない。

話をイベントに戻そう。

ステージでギターを弾いている男性

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夜の街を歩いている男性

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浅野忠信率いる「SODA!」は、シンプルなパンクロック!誰もが知るスターの登場に皆が湧く。洗練されたステージングと熟練の話芸も相まって、会場は大盛り上がり。翌27日が彼の誕生日ということで、ステージはお祝いムード。

「殺し屋1、めっちゃ好きです」という私の全然音楽と関係ない話にも嫌な顔ひとつせず対応してくれたことにも、ここで謝意を述べたい。映画の撮影の合間を縫っての出演だったそうだが、アンダーグラウンドな表現が集う山奥のパーティに、オーバーグラウンドで活躍する俳優が出演するという取り合わせに、芸能の本質を感じ、胸が熱くなった。

暗い部屋の中に立っている人たち

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ステージで演奏している人たち

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ステージでパフォーマンスをしている人

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その後、メンバーたちとサウナでいうところの「ととのい」を行って夜の散歩に出かけた。会場の音が遠くなっていき、やがて完全な暗闇の中をスマホのライトを頼りに進んでいく。かなり山奥だが電波は届くので、サブスクから何曲か流しながら『Siren』みたいなシチュエーションを楽しんだ。

テーブル, 座る, 火, コンピュータ が含まれている画像

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そして森から戻り、会場にいた誰かの子どもの面倒をみたり、Suzaki氏のDJ中、あまりにもスポーティーに踊り狂うタンクトップ男が発する湯気に圧倒されたり、高級なメスカルを頂いたりしたのだがあまり記憶はない。深見東州(怒涛の英語力とか画業で有名だが歌手もやっていた)が歌う『My Way』の発音があまりにも日本語すぎるという話題は覚えているのだが。

兄がフィーバーな状態となっているにもかかわらず、聶はきちんと各アクトの写真を撮り続けていた。感謝。

夜に燃えている

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23時過ぎ、1日目もなんとか終了。あらかた燃え尽きたキャンプファイヤーの前を囲んで全員沈黙し、ただ炎を眺めているという幸せな時間があったのだが、そこでちょっと厄介なお客さんが絡んできた。面倒臭いので無視していると学歴自慢やら勤め先マウント(「俺は電◯だ!」等)で突っかかってきて、無意味なおしゃべりが止むことがない。別にそんなに不快なことでもなかったのだが、こういうお客さんのことをメンバーたちが後で「スカムニキ」と表現していたのがなんか可笑しくて、印象に残った。

ちなみにTaga君以外の我々は会場に宿をとっていなかったので、幻想的な濃霧のなか聶の運転で30分、最寄りの渋いラブホテルに泊まった。聶が急遽もう一部屋手配してくれていたのだった。

宿代節約のため男3人で一つのベッドに無理やり入り、電気を消す。田舎によくあるガレージ付きの住居型ラブホテルなので、内装が妙な作りになっていて、枕元の謎のボタンを押すと爆音で有線が流れる仕組みになっていた。

なぜだか壁の複雑な模様がやたら気になったり、意識が冴えて宇宙のことを考えたり、このベッドに3人はどう考えても狭いとわかって全然眠れなかったのだが、なんとか数時間眠って翌朝の運転に備えた。

人, 男, コンピュータ, 女性 が含まれている画像

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翌朝。爽やかな快晴に心が踊る。この日はリョウマ君とシュン君の仕事の関係で15時までには東京に戻る必要があり、11時からのTaga君のDJ(午前中なので王道のオールディーズの合間にエクスペリメンタルを聴かせるスタイル)を楽しんで紅茶を飲み、再会を約して主催者のりお君夫妻、多賀家と別れた。

本当は13時半からのHI-GO氏(日本最古のパンクバンド、「ミラーズ」や「フリクション」での活動、日本初のインディレーベルの「ゴジラレコード」創立などで知られる)のDJも気になっていたのだが、それはまたの機会となった。

駐車場では相変わらず昨日のスカムニキが元気にはしゃいでいた。彼は良い感じのクラシックカーに乗っていた。私たちは山を降りて高速道路を飛ばし、新小岩の駅前で別れた。

キッチン, テーブル, カウンター, 電子レンジ が含まれている画像

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ACT:
live:
NOINONE、hYouU€a、ドドイッツ、THE FACTORS
ザ・バッキャロー、和田夫妻、SODA!
DJ:
HI-GO, ERA, Bryan Burton-Lewis, Sinsen, eckoz
Suepon, saba2, cinnskycrusir, TAGA
Toshiya the Tribal, DJ Suzaki, SEKI HIDEKIYO

2022年11月26日〜27日 at フォレストピア七里の森

夕日と雲

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