INFOrmatiON!-Record Label in London

text by Kenji Ueda/I wonder why

今回はロンドンにある現行アンダーグラウンドインディレーベル、INFOrmatiON!についての記事を書きたい。
きっと日本に住んでいると(むしろ英国にいても)全く耳馴染みのないレーベルだと思うが、かなり尖ったリリースを連発している。

INFOrmatiON!は、元々DESIREとして活動していたSanctuary of Praiseというバンドのメンバーを中心として2020年に始まったばかりのレーベルで、主に自分たちのバンドや、日頃から関係が深いアーティスト仲間のカセットテープをリリースしている。どの作品も楽曲は先鋭的で尖っており、Sanctuary of Praiseのメンバーがデザインしているペイントアートのジャケットも印象的である。

DESIRE – Extended Play(2019)

リリース作品はレコード店などの店舗では商品を置かずBandcampのみでフィジカル、デジタル媒体で販売している。これは商業的な活動を嫌っているからなのか、彼らのプロモーション不足なのか、はたまた彼らがパンクすぎるが故に、現代の音楽ビジネスのフォーマットに全くマッチせず、音源を置いてもらえるお店がないのかもしれない。個人的な感想になるが、サブスクリプションサービスにも参加していない所も潔くて好感が持てる。

彼らはリリースだけではなくライブイベントの企画もしているが、マネージャーを立てたり、後ろに大きなレーベルのサポートがあるわけでもなく、本当にローカルでDIYなシーンで自分たちの理想の音楽を探求している。

そんな彼らの中でも、まず最初に取り上げるべきなのは先にも挙げたSanctuary of Praise(ex- DESIRE)である。彼らは『さらば青春の光』でも有名なイングランドの南の街、ブライトン出身で現在はロンドンを中心に活動している4人組のバンドである。メンバー編成はTom Bryant(Vo/Ba)、Sam Brunger(Gt/Vo)、Ethan Stahl(Gt)、Scott Kennedy(Dr)となっている。

彼らの作品を一聴しただけで、プロトパンクやパンク、サイケ、ニューウェーブなど、UKの音楽シーンに脈々と連なる伝統的な実験的アンダーグラウンドミュージックに則った音楽に影響を受けている事がよく見てとれる。

僕が彼らを知ったきっかけは、2018年にロンドンで最も楽しい(経験上の話なので異論は多々あると思う。申し訳ない)クラブイベント、「How Does It Feel to Be Loved?」のC86系バンド特集の時だった。一応説明しておくと、C86とは英NME誌が1986年に付録で付けたコンピレーションのカセットテープ(cassette-86ということ)で、その後メジャーになっていくギターポップバンドたちの礎となったコンピである。

How Does It Feel to Be Loved? ポスター

当時21歳前後という若さであったメンバーのTomとSamとJamesがそのクラブイベントに来ていて、イベントの趣旨であるJune BridesやThe PastelsといったC86系バンドはもちろん、Television PersonalitiesやThe Timesといったパンクの残り香がする時代のガチャガチャしたギターポップバンド、DamnedやRamonesといったオリジナルパンクといった、彼らが産まれる前の音楽でめちゃくちゃに踊っていたのを横目で見ていた。

僕ももちろんそういった曲が大好きなので踊っていたら向こうから「君はどこの国の人?」と声をかけてくれたので「日本人だよ。」と答えると「うわ!日本の若い人が、いろんな音楽をよく知ってるね!僕、日本のG.I.S.MとGAUZEとLSDが好きなんだ!」と話したのがきっかけである。 C86系バンド のクラブイベントで、日本のハードコアパンクバンドの話をするとは思わなかったのでとても驚いた事を覚えている。彼らは国や年代、ジャンルを問わず、いろんな音楽を聴き漁るとんでもないマニアだった。

その後も色々と話していたら趣味やウマがとても合ったので、「実は僕達バンドをやってるんだけど、今度ライブをするから良ければ来てね!」と言われて、ライブを実際に見に行く事になる。

その時に見た彼らのライブは、良い意味で恐ろしく現在のUKシーンと離れた曲をしており、本当に彼らは流行りやシーンとは関係のない、やりたいことを追求してバンドをやっているという事がよく分かった。

彼らの作る音楽の印象をあげると、非常にDIY精神の強いパンクの影響を受けた暗めのニューウェイブ、ポストパンクを経由したギターポップという感じだろうか。こちらは初期のDesire名義で活動していた頃の音源である。この頃はまだINFOrmatiON!レーベルは始めていない。

Desire-Voice of the Higher Class(2018)

この頃は彼らの敬愛するTelevision Personalitiesの影響を強く感じさせる曲が多く、ガシャガシャしたDIYパンク風の曲が多い。

Television Personalities – …And Don’t The Kids Just Love It(1981)このTelevision Personalitiesのジャケットの下記に見えるINFOrmatiONという単語がレーベル名の由来であろう。

ちなみに長年病気を患っているDan Treacyへのチャリティライブイベントに、 TomとSam と一緒に行ったのだが、なんと彼らは公式にその興行のポスターのデザインまでしていた。

DESIREの後に始めるSanctuary of Praiseも、初期のカセットではガレージやDIYパンク、ポストパンクからの影響を感じたが、最近になると80年代のFactory RecordsやSarah Recordsの影響を感じさせる曲も増えている。

このプロモーションビデオが作られた曲、”New Bliss”などはイントロからThe WakeやBlueboyのギターサウンドを思い起こさせるサウンドで、つぶやくようにベース/メインボーカルのTomと、ギターのSamが互いにボーカルを掛け合わせているのがとても印象的だ。何よりもメロディが80年代のアンダーグラウンドシーンのバンドのようでとても良い。

Sanctuary of Praise – New Bliss

こちらの”Golden”は最近の曲で、8分を超える曲ではあるが、淡々と刻まれる無機質なリズムにリバーブをかけたギターでジャーマン・ニューウェイブのようなフレーズを演奏する、とても印象的な曲である。ベースの音色はJoy Divison/New Orderも彷彿とさせる。

Sanctuary of Praise – Golden

他のINFOrmatiON!関係のリリース作品を挙げると、Ronan Pointというユニットも印象的だ。こちらはメンバーの中に先のSanctuary of PraiseのTomもいるが、テクノやエレクトロニカ、ハウス、初期ニューウェイヴに影響を受けており、電子楽器をメインに演奏するユニットとして活動している。

Ronan Point-Ronan Point(2021)

このユニットのライブも見たことがあるのだが、小さいベニューのステージに、所狭しとリズム楽器やシンセサイザーといった電子楽器の音響機材を並べて、メンバー間で顔を見合わせながらツマミをイジってマシンのエフェクトやリズム遊びの掛け合いをしていた。

ちなみにRonan Pointはカセットのケースを、パスケースにDIYで自作、改造した物にしており、こういう手触りを感じるアートな遊び心を忘れない所が彼らの素晴らしい所である。

DIYのカセットケース

他のリリース作品も挙げていこうと思う。

SYNERGY43は、重苦しい電子音を後ろに、無感情にメロディを乗せるスタイルのユニットである。音を聴くとおそらく直感的に感じる影響は、ロシアやドイツのニューウェイブだろう。

また、曲によって入る女性ボーカルは現行ジャーマンニューウェイブのLebanon Hanoverなども彷彿とさせる。ベラルーシのMolchat Domaなどともリンクする部分がある。

SYNERGY43-SYNERGY43(2020)

最後にEssential Entertainmentを紹介して終わろうと思う。こちらはSanctuary of PraiseがDesire名義で出していた頃のギターポップ色を押し出して強くしたようなサウンドのバンドである。

初期のCreation Recordsのバンドの発掘音源と言っても違和感がない音像で、The SonicsやKingsmenのような60、70年代のモッズやガレージの影響を強く感じる。

Essential Entertainment – Live at the practice rooms!(2020)

このようにINFOrmatiON! はギターやベースをセッションやジャムの勢いそのままにかき鳴らしたバンドや、仄暗い空気感を纏った電子音を鳴らすユニットをジャンルの垣根を超えてリリースしているレーベルである。

こう言葉でまとめて括ってしまうと、レーベルとして一貫性がないようにも感じるが、作品を聴くとどれもDIY精神を強く感じ、「世間の評価なんて気にするか!」と言わんばかりに自分たちのやりたい事を貫こうとしているリリースばかりが集まっている。

おそらく彼らは大きなレーベルが音楽シーンを動かしている現状のUKシーンの中で、70年代のパンクムーブメントのようにDIYで世間の流行りとは関係ない場所で動き、自分たちが共感できる”同士”を探し、リリースしてシーンを育てようとしているのだと思う。

これから先、彼らが新しいシーンを作り、昔ながらのDIYで色々なものを変える事ができると良いなという思いを馳せてINFOrmatiON!レーベルの紹介を終わろうと思う。

これを読んだ方は、これからも彼らのリリースをチェックしていって欲しい。もしかすると、彼らが次のUKシーンの土台を作る事になるかもしれない。

INFOrmatiON!