Russian Post-Punk Discovery Vol.2

text by Ashira/NOBODY

独自の美学とサウンドで大いなる魅力を持ったロシアのポストパンクシーン。前回のRussian Post-Punk Discoveryに続き、今回も最近愛聴しているロシアのポストパンクアーティストを紹介したいと思う。

Russian Post-Punk Discovery Vol.1や、インディ・ミュージックZINE「PØRTAL」で連載中の「RUSSIAN INDIE GUIDE」と併せて読んでいただくと、より深く楽しんで貰えるかと思うので、こちらも是非よろしくお願いします。

Электрофорез(Electroforez)

Электрофорез (electroforez)-505(2021)

サンクトペテルブルクを拠点とするシンセポップデュオ。2012年から活動を開始しておりキャリアも長く、ロシアのインディーニューウェーブ/ポストパンクの中でも代表的なアーティストだ。

と言っても日本ではあまり馴染みが無かったかもしれないが、今をときめくMolchat Domaをフィーチャーした楽曲「Мёртв внутри」が昨年リリースされた事で彼等の事を知ったという人も多いのではないだろうか。

退廃的な歌詞や、ダークだがキャッチーさも兼ね備えたシンセサウンドは、やはりDepeche modeや、ソ連時代の代表的なシンセポップバンドであるТехнологияを連想させる。子供のころ合唱団に所属していたという経験が活かされたIvanの表現力豊かなボーカルも見事だ。

ちなみにロシアのアーティストはなかなかレコードでのリリースが無いのだが、去年リリースされた最新アルバムの「505」は、今年2月にレコードでのリリースが行われている。現在の情勢では入手は難しいと思われるが、この傑作アルバムはいつかは手に入れてレコードで手元に置いておきたい。

Где Фантом?(Gde Phantom?)

Где Фантом- Я тебя люблю(2019)

ロシア連邦中央部に位置するバシコルトスタン共和国の首都ウファで活動するPost-Punk/Dream Popユニット。2019年から配信にてリリースを開始している。

初期の音源ではオーソドックスなロシアン・ポストパンクといった印象の曲が多く、これはこれでカッコいいのだが、注目したいのは今年1月にリリースされた最新アルバム「Иллюзия любви」だ。

New Orderを思わせる軽快なシンセポップで幕を開けるこのアルバムは、メランコリックな電子音スタイルを軸に捉えながらも、ポストパンクの枠に止まらない実に多様な楽曲が収録されている。

四つ打ちにブリージンな女性コーラスが絡むオシャレなハウス風の「Остаться одним」から、なんとボサノバやラウンジの要素を取り入れた「Чужая жизнь」「Я и ты」といった曲まで。しかしボーカルはやはりロシア特有の低音ボイスであり、この組み合わせのギャップにより更にユニークな世界観を作り出しているように思う。

今後どのように変化していくのか実に楽しみなアーティストだ。

Скубут(Skubut)

Скубут-Меланхоличен(2021)

オーストリアを拠点にしているロシア人アーティストMikhail ShlepinによるCold Waveプロジェクト。
Joy DivisionやBauhaus、近年のアーティストだとLebanon Hanover等の影響を感じる冷たくダークなサウンドが特徴だ。

徹底したモノクロームの世界を創り出した1stEP「Меланхоличен」、そこにほんの少しの色彩を加えポップさやメランコリックといった要素が強まった2ndEP「Сгублен」、どちらも高い水準を誇っており、まだロシアの音楽には触れたことが無いPost PunkやCold Waveの愛好家にもオススメだ。

それぞれの世界観を的確に表したアートワークも素晴らしい。

Перемотка(Peremotka)

Перемотка/Peremotka-
Начало прекрасной дружбы/Nachalo Prekrasnoy Druzhby(2020)

エカテリンブルクを拠点とするPost punk/Dreampopバンド。2015年ごろから音源のリリースを開始している。

最初のアルバムである「В добрый путь」は現在のポストパンクスタイルとは少し異なり、アコギやハーモニカを使ったフォーキーな曲や、スウィング調の曲で構成されている。

(この流れはなんとなくだがローファイなフォークサウンドからスタートし、後にポストパンク化しソ連のロックスターとなるKиноを彷彿させる)

2017年のアルバル「Начало прекрасной дружбы」からは、美しいギターのアルペジオと悲哀を秘めたメロディーが軽やかなリズム隊と共に疾走するサウンドとなり、現在のポストパンクスタイルが確立される。

彼等の楽曲は特にメロディーが素晴らしく、ロシアのポストパンクシーンの中でも抜きん出て優れているように感じる。最新アルバム「Начало прекрасной дружбы」に収録の「Старое кино」などはネオアコやドリームポップのリスナーにもアピール出来る、彼らの中でも屈指の名曲だ。

また、同アルバムの1曲目を飾る「Супермарио」では口笛を取り入れたりと1stアルバムであったような牧歌的なアプローチが散りばめられているのも面白い。

Kondratie

Kondratie-Москва(2022)

カマ川の両岸に広がる都市ペルミで活動するKonstantine OstrovskiによるCold Waveプロジェクト。

ひたすら仄暗く冷たいボーカルと、暴力的なマシンビートやシンセ音が刺激的に響く彼の楽曲はIndustrialの要素も強く感じる。

基本はミニマルなサウンドながら、「Vnimanie」 という曲では同じくペルミのアーティストであるГагат をフィーチャーし、眩暈のするようなドラッギーなUnderground Hip Hopに仕上げるなど、実験的で幅広い音楽性を追及している。

4月22日には最新アルバム「Москва」のリリースが予定されており、Скубутをフィーチャーした楽曲も収録される。どのようなアルバムになっているか非常に楽しみだ。

また、彼はToska Po Domu名義のプロジェクトでも活動しており、こちらはMinimal Synthの要素が強い。Kondratieと併せて是非聴いていただきたい。

以上、今回は5組のアーティストを紹介させていただきました。

最後に…前回の記事でも少し触れたが、ご存じの通り現在もロシアによるウクライナ侵攻はまだまだ解決の目途が立たない状況だ。この記事で紹介しているアーティストの音源は主にBandcampで購入可能だったが、Paypalや荷物の発送に制限がかかっている今、音源の購入も難しくなってきている。

この記事で紹介したСкубутやKondratieを含む、多くのPost Punkアーティストをリリースするカセットテープレーベル「НИИ」も新作のリリースを休止することを発表している。

改めて、一刻も早くこの戦争が収束しウクライナとロシアの人々が安全に暮らせる日が来ること、そして当たり前のように音楽を楽しめるようになることを祈っている。

Аут-Я не хочу войны(2022)