ダムドという名の深き森
text by Tsuneglam Sam/YOUNG PARISIAN
ちょっと雑なもの言いで申し訳ないのだが、ダムドを選ぶかクラッシュを選ぶかで人生は大きく変わってくると思う。ファッションも含めてね。音楽的に言えば、クラッシュを選べばレゲエやロックステディ、もしくはガイ・スティーヴンスなどに興味を持つようになるが、ダムドを選ぶということはすなわちそこから先に広がるサイケデリックな深い森の入口に立つことと等しいわけだ。
さて、筆者は数か月前、某誌でダムドのヒストリー原稿を書いたのだが、正直伝えたかったことが伝れきれてない気がするもんで、この場を借りて私的ダムド論を今一度ぶちまけさせていただきたい。かつてキャプテン・センシブルに2度、デイヴ・ヴァニアンに1度インタヴューを行い、ブライアン・ジェームス&ラット・スキャビーズの来日公演時は我がバンドがオープニングアクトも務めさせていただいた経験をいかしてね・・・って、のっけから自慢かよ!と思われそうだが、その通り。一生の自慢です。
というわけで、ここでまず最初にダムドの1st『Damned Damned Damned』を分解してみたい。本作はロンドンパンク史上初のアルバムだということは皆さま既にご承知の通りであろう。だがしかし、パンクロックのバイブルとしてマストな作品ではあるものの、あらためてコイツをねちっこく聴いてみると、聴けば聴くほど本作は「そこまで新しい音楽=パンクなのか?」という気がしてくるのだ。
いやいや、全く新しいラウドな当時最先端の音楽には違いないのだが、あのスピード感とラットの特殊な“ドコドコドコドコ”“バシャバシャ”なドラミングに気をとられちゃって気付きづらいが、それらを剥ぎ取ってあらためて聴いてみると、思ってた以上にガレージパンク、サイケデリックの要素が強いことに注目していただきたい。そこにデトロイトの二大巨頭(ストゥージズ、MC5)から油分を抜き取った上で高速化したような味が加わる…具体的に曲名を挙げるならば『Fan Club』『I Fall』『Feel the Pain』あたりが顕著にガレージパンクでサイケデリックである。また『1 of the 2』なんかはストゥージズを圧縮したら爆発したかのようなナンバーではあるが、デイヴの一方調子の歌いまわしは実にガレージパンク的だ。
一度、これらの曲を聴きながら目をつぶり、これが薄汚いマッシュルームカットのバンドがサイケな衣装で演奏してるところを想像してみておくれ。なんら違和感はないでしょ? ダムドは後にナズ・ノーマッド &ザ・ナイトメアズというガレージ/サイケの変名バンドでアルバムリリースはするが、実は1stの時点でその要素はすでにガッツリとあるわけなのだ。因みにここで私がインタビューした際にデイヴとキャプテンの二人が挙げてくれた60sの好きなバンドを記しておく。
まず二人が絶賛してるのは後に『Alone Again Or』をカバーしてるラヴ、そしてレフトバンクである。キャプテンは「ラヴとレフトバンクに勝るバンドはいない。誰もがこの二つのバンドのレコードを持ってるべきだ」と強く推す。またレフトバンクの『I’ve Got Something On My Mind」はアルバム『STRAWBERRIES』制作時によく聴いていたそうで影響もあるとのこと。他にデイヴはシーズ、シャドウズ・オブ・ナイト、MC5、ストゥージズ、ゾンビーズ、キンクスなどの名をあげている。
話を戻すと、そんな風に泥臭く前時代的になりそうな要素をモダンに聴かせ洗練された混沌を生み出したプロデューサー、ニック・ロウの手腕はさすがといえるし、こうしたルーツを新たな形で再構築したダムド自身の方法論にも恐れ入るばかりだ。 このようにダムドというバンドの作品で初期から最新作『Evil Spirits』(2018)まで常に貫かれてるのは60’sの音楽をヴィンテージな回顧サウンドではなく「今」の音で再構築する点である。その時その時のモダンなアレンジ、サウンドなので気付きづらいがメロディーや曲調などその実の部分にはかなり60s嗜好を強く感じることができる。
こうして「地獄に落ちた野郎ども」のスピードを規制しド派手なドラムに耳をふさいだとこで見えてきたのが60年代の香り。だが、しかしこの1stはなにもガレージ・サイケをパンク化しただけではない。もうひとつ重要なルーツであるニューヨーク・ドールズの毒香を嗅ぎ取らねばならない。なにしろ1stの曲をほとんど書きおろしてるのはブライアン・ジェイムスだ。彼は熱烈なジョニー・サンダース・ファンだったとのこと。でもね、デトロイト影響下はわかるけどそのわりにはドールズっぽさあったっけ?な印象を私も長年感じていたもんだ。だがしかし、よく聴いてみておくれ。もしや『New Rose』のイントロのドラムとギターのリフはドールズの『Jet Boy』から触発されたのではないかしら( 冒頭のShangri-Lasオマージュもドールズ流)。『Born to Kill』にしても『Jet Boy』を感じるし、『So Messed Up』は『Vietnamese Baby』をスピードアップしたのではないかなと私は考える。そう考えれば曲中のブレイクももろにドールズ流だ。一度、そういう耳で聴き比べていただきたい。ドールズ臭はかならずそこらから漂ってくるはずだ。
以上のように分解してみて思うに、とにかくダムドの魅力はスピードかもしれない。『Stab Your Back』や『Fish』はラモーンズ風といえばラモーンズ風だ。だがしかしそれをラットの雷鳴のようなビートでプレイすることで全く新しいなにかが生まれるのである。そういった意味でも『She Her Tonigt』はもっと評価されてしかるべきナンバーだ。MC5とドールズを足してジェット気流にのせたような高速ナンバーであるこの曲は後のダムドとモーターヘッドとの合体を早くも予見させるし、3rdアルバム冒頭の『Love Song』~『MACHINEGUN ETIQUETTE』の息もつかせぬあの流れはすでにここで完成しているとも言えよう。
それからもうひとつ、分解ついでにここで重要なことを書いておかねばならない。それは本作のオープニングを飾る『Neat Neat Neat』の“あの”ベースイントロについてだ。
ある日、私が下北沢のバー「ぷあかう」にて、海外から届いたばかりの一枚のアルバム を持参してかけてもらったのだが、そいつに針を落とすやいなや店主のFIFIさんが「このアルバム何年!? これモロにNeat Neat Neatじゃん!」とおっしゃったのだ。私が持ってきたレコードは英国のSTRIFEというバンドの『Rush』というアルバム。グラム臭のするハードロックを探索してて見つけたものだ。発売は1975年。当然ダムドより早い。曲名は『Back Streets Of Heaven』という。賢明な読者の方々はもうYouTubeで検索中かと思われるが、偶然にしてもあまりにそっくりなベースライン。たまたまか、もしくはそれより更に元があるのかはわからぬので、この件はいつかメンバーに確認してみたいところである。そうしてみるとダムドの1stアルバムの走り出しの疾走感はハードロック譲り……いやハードロックから受け取ったバトンにも聴こえてくるわけだ。
はっ、、、、ダムドについてまとめて述べようかと思ったのだが、1stアルバムについてだけで文字数をかなりオーバーしてしまったではないか……機会があればまたこの続きは書かせていただきたいが、とにかくダムドは袋かぶってみたりドラキュラメイクしたりベレー帽かぶったりケーキまみれになったり……と薄っぺらくコスプレしたくなるような魅力もありつつ、実に深く濃厚な音楽的な幅と魅力があることは知っておいていただきたい。
パンクは一日にしてならず。だが、一夜にして誕生したかのように見えるのもまたパンクではないか。
つづく