雑多パンク探訪-ヒューマニズムと可愛げを求めて

text by Closh/WETNAP

 私はあんまり有名じゃないパンクを、たまに掘る。bandcampとかで、10人くらいが購入しているようなやつ。カセットだったり、デジタル音源だったりすることが多い。

 作っている本人達が、ものすごく売れたいと思っていたらとても失礼なんだけど、メインストリームに上がってこなさそうなやつだ。川の本流から逸れて逸れて、細い筋になって行き着いた先が水たまりだった、そんなイメージの音楽。
(本当は世界中にファンが沢山いて、カルト的に人気になっているかもしれないけど。)

 そういう音楽に興味を持ったきっかけは、パンクの有名なコンピレーションの”Killed by death”シリーズにハマったことだった。無名ながらKBDに発掘されたパンクは全部歪で雑だった。でもそのざらついた音質でしか表現できなっただろう衝動的な何かが、聴いた当時死ぬほどかっこいいと思った。

 パンクは好きだ。だけど毎日聴いていられない。怒っている、意味が薄い、政治的過ぎる、直接的過ぎる、訳がわからない、ふざけてる、ストレート過ぎる、カッコつけてる、ダサい、悲しみすぎ、重すぎ、軽すぎ、パクリ、テクいけど変、下手。

 「明日死ぬとして、じゃあ今あなたは何を聴きますか?」と聞かれたら、私の場合は、父や母や周りの人が好きだった曲や、気持ちが落ち込む度に聴いていた曲が思い浮かぶ。だけど、私の中でその中にパンクは入ってこない。

 じゃあ振り出しに戻るけど、なんで聴いてるんだよって言われたら、多分こういう音楽に、単純な尺度で測ることができない「強さ」があるからだと思う。まだうまく言えないけど、こういう音楽に、人間の顔を見ているような気分にさせられることがある。その度に剥き出しでいてくれって思う。野心に喰われないでそのままアホなままやってくれって願う。

 という感じで、こういう音楽を見つけては紹介していけたらなと思う。

CHERRY CHEEKS-s/t(2021)

アメリカのオレゴン州ポートランドにあるレーベル、Total Punkから2021年にリリースされたアルバム。Total punkは、最近私がよく聴いているレーベルで、2011年から結構精力的にパンクのレコードをリリースし続けている。

 前にAusmuteantsやLumpy & The Dumpersも出していたので、そういうのが好きな人は「多分知ってるよ!」って言うと思う。東京のM.A.Z.E.が好きなら絶対に好き。良いEgg punkレーベル。時代的にも、Egg punk vs Chain punkの影響を直接受けたレーベルだと思う。なんだその卵と鎖の謎のバトル…と思う方はちょっと調べてみて欲しい。分かりやすい画像が出てくるのですぐに何を言っているのかわかるはずだ。

 そんなTotal punkが、昨年の12月にこのアルバムをリリースしていた。フロリダ州オーランドに住んでいたKyleさんという方が作っており、クレジットにはLead guitar:Kyle Elferdinkと書いてある。聴いてみると、Wireを感じるポストパンクリフのギターと、淡々と言い捨てられていく歌詞が心にザクザク刺さってくる。かっけー!しかも、ものすごくポップな3コードのご機嫌な曲も沢山入っている。かわいー!打ち込みのドラムとベース、キーボードも人力のように聞こえるナチュラルさが良い。

 アルバムを通して、諦めているようで怒っているようで、遠くから笑っているようで、その温度感が人間らしく感じる。Devo coreが好きな人には、少しミドルテンポだけどオススメしたい。

 中でも私は「Go outside」という曲が好きだ。歌詞が手元に無いので画像でしか確認できなかったが、アッパーなタイトルの割に、サビ前で「It’s misery It’s misery」と言う。そして最終的に「I don’t wanna go outside」と言って涙を流している。ピエロになっているような、自分の外部にある存在、つまり社会や周囲の人とか、そういうものに適応できない辛さみたいなものを私は感じた。

 Instagramがあったので、見てみたらイケてるパンクのおにーちゃんだった。こんなおにーちゃんでも鬱屈するんだなと少し心配になったが、もしかしたら、こういうパンクをやってる人って、オタクじゃなくて実はイケてる人なのかもしれない。いや、でもその割に歌詞が暗いし、作り込みが凄すぎるからやっぱりオタクなのか。どちらでもいいか。何にせよ格好良さは変わらないし、その両極面を表現できることは、とてもうらやましいことだと思った。