Fake it till you make itの精神

text by Ushi-Number Two

”Fake it till you make it”
「うまくやり遂げるまで、騙し続けろ」
これは「なりたい自分の姿があるなら、すでにその姿になったかのように振舞え。」という格言のようなものでありますが、彼らの走らせた列車が栄光に向かって走るのか、田舎のパブの薄暗いステージに消えるのか僕は見届けたいのだ。どちらにせよ、彼らの存在は僕の2022年に良い作用をもたらしてくれたのは確かな事実。

イングランド・ブライトンにて活動している6人組ロックバンドOpus Kinkについて書いてみたいと思います。

2022年現在、僕にとって最も異彩の輝きを放っているOpus Kinkは、もはやいち音楽ジャンルとして括られてしまいそうなインディーロックとは一線を画すインディペンデントなロックを鳴らしているように僕には感じられるのです。

Opus Kink – Wild Bill / This Train(2021)

トランペットとサックス奏者を含む6人組の彼らの音楽性は「ジャズをやりたかったけれど、十分な実力が無かったからロックバンドになった」とメンバーが語り「おいおい、そんな簡単にロックバンドになれるもんでもないんだぜ」と僕のナニクソ節が発動しそうになるも、その音を聴けば、JazzでFunkでPunkでBluesな音が鳴っており、それが混沌と共に転げ回っているかのようで「なるほど」と頷ける。

いや、そうか、音楽に焦がれて楽器を持ち寄りロックバンドを目指した瞬間にそれはもう始まってるのか。そして彼らの存在は2010年代半ばから現在に至るサウスロンドン周辺を震源に盛り上がった時代が確かに存在したと、未来への証明ともなり得る、地続きの時代の音のようにも感じるのです。

これまでに4作のEPをリリースしており、2020年4月に出た1st EP”Mosquito”が自主リリースというのが彼らの心意気も感じられて、なんとも僕の心をくすぐりますが、同時に公開されている奇妙なミュージックビデオがなんとも好奇心をそそるし、そこで鳴っているのが、なんだかThe ClashのSandinista期頃にも通じるような「これは気になる」と思ってしまう音なのでした。

そして、実際に僕が彼らを知ったのもレコードを手にするきっかけになったのも、6曲入りカセットEP”Requiem For A Quarantaine”を経て、もはやUKの要注目レーベルNice Swanから2021年末にリリースされた2nd 7インチ”Wild Bill / This Train”であります。

Wild Billのイントロでもう僕なんかはイチコロなんですが、どこかウエスタン、いや、もはやブリティッシュロックの祖であるSkiffle(スキッフル: ジャズ、ブルース、フォーク、ルーツ・ミュージック、カントリー・ミュージックなどの影響を受けた音楽。手作りの楽器や、即席の楽器を使うことが多い)のルーツまでも垣間見える地続きの地べた感とそれに絡む管楽器に血が沸き立つような感覚に陥ります。

ちなみにこのシングルはプロデューサーにThe CharlatansのTim Burgessを迎えて、ウェールズにある伝説級スタジオRockfield Studios(クイーンやオアシス、ストーンローゼズなど錚々たるバンドが使用した宿泊可能な録音スタジオ)で録音されています。

そして引き続きNice Swanからの2022年最新作’Til The Stream Runs Dryでは、数々のツアーサポートやギグを経て、さらにルーツを深く掘り下げながら新しく鳴る、まさにOpus Kinkの生き姿な彼らにしか鳴らせない音に突き進んでおり、”The Unrepentent soldier”なんて地の底から揺らされ踊りだしてしまうような破壊力。今後リリースされるであろうアルバムにも期待が募ります。

Opus Kink – ‘Til The Stream Runs Dry(2022)

彼らがいつかロックスターになって世界中を魅了する、そんな時がきたら、僕は端っこで「Opus Kinkは最初っからロックスターだったぜ」とひとりごちることでしょう。あ、これは僕の大好きな長野・松本の歌唄い岡沢じゅんくんの歌”茶色のジェームス”の一節の受け売りですが。

そしてリリース元であるロンドンのNice SwanはHallanやDead Letter、English Teacher等、素晴らしいバンドのリリースが続いているので見逃せないレーベルであります。