ダムドという名の深き森 -episode7

text by Tsuneglam Sam/YOUNG PARISIAN

突然だが本連載「ダムドという名の深き森」は今回をもって一旦区切りをつけさせていただく。

えっ、『BLACK ALBUM』や『STRAWBERRIES』は? 『PHANTASMAGORIA』や『ANYTHING』は? それ以後は? キャプテンのソロは? ブライアン・ジェームスのその後は? ポール・グレイもローマン・ジャグもアラン・リー・ショウも出てきてないやんけ!!・・・・・ などなどご意見はあるでしょう。

だがしかし、この連載は“わかっちゃいない”パンク原理主義者と、1stと3rdしか聴いてないような上っ面ファンに向けてDAMNEDの神髄を解き明かそうとして書いてたんで。ハッキリ言って『BLACK ALBUM』以降のDAMNEDをキッチリバッチリ追ってる人はもうすでにダム森の住人なわけですから、その方々に向けて知らせたいことなんかねえんですよ。当方バイオやウィキに書いてることを和訳したくてやってたわけではないのでね。 

というわけで、最後に書いておきたいことをつらつらと書いてシーズン1のラストエピソードを終えようと思う。 これまでと違って新たな発見はないのであらかじめご了承ください。

まず、私がDAMNEDをこのようにねちっこく聴くようになったのはキャプテン・センシブルとデイヴ・ヴァ二アンに何度かインタビューした経験があるのはもちろんなのだが、理由はもうひとつある。それは京都のバンド LIQUID SCREENがキッカケなのだ。 

Liquid Screen – Lament For The City Creatures(2007)

このバンドのギターリストである今井氏とベーシストの井上氏(ともに元FIRST ALERT)は私なんか比にならないくらいダムった人生を送っており、ここで書きつらねてきたようなことは既にどこかで語ってらっしゃるかもしれない。今井氏が自作でかなり細かいDAMNEDファミリーツリーを作成したことや、氏がDAMNED関連の音源を集めたCD-R(カセットだったか?)が凄いという話は私も何度も耳にした。私自身は両氏と直接DAMNEDの話をしたことはほとんどないのだが、LIQUID SCREENの作品を通しDAMNEDの核心に触れることが出来たのは事実である。

それはなにかというと、この連載でもたびたび書いてるようにDAMNEDはガレージパンクやサイケデリック、ブリティッシュビートなどの60年代の音楽をヴィンテージで懐古的な音ではなくモダンに再構築した点である。それはDAMNEDの2000年以降の作品でもずっとずっと貫かれていることなのだ。

これまで私が触れてきた身近なバンドはヴィンテージな楽器でヴィンテージな録音でヴィンテージな服装で60年代の素晴らしさを再現しようとするようなものが多かったし、それこそが正義だと思っていた。今でもそう思ってるとこもある。

だがしかし、LIQUID SCREENのやり方は決してそういうとこには向いていなかったのだ(かといってやけにデジタルな音像ってわけでもないよ)。そして同じく彼らが敬愛するXTCの変名バンドDUKES OF STRATOSPHEARもまたDAMNEDと同じやり方をとっていたことにも気づかせてくれたし、他にもロビン・ヒッチコック(SOFT BOYS)とキャプテン・センシブルの嗜好が近いこともLIQUID SCREENを通じて理解したと言ってもよいだろう。彼らはDAMNEDのわかりやすいキーワードをまったく使用せずDAMNEDを感じさせてくれる稀有なバンドなのだ。

The Dukes Of Stratosphear ‎– 25 O’Clock(1985)

簡単に言えば、袋かぶったりドラキュラメイクしたりベレー帽かぶったり“以外の”ダム道の継承の仕方ってのもあるんだなぁということに気付かされたのだ。 いわば森に行くまでの地図をくれたようなもんである。そのおかげでより深くDAMNEDを楽しめることになったのでこの場を借りて御礼を言いたい。また余談ではあるが、LIQUID SCREENおよびFIRST ALERTは同時にTIMESやTELEVISION PERSONALITIESなどの素晴らしさと奥深さを教えくれたバンドでもあることも記しておこう。

もちろんDAMNEDは世界中の多くのバンドに影響を与えているし、その血は様々な形で受け継がれていることだろう。それこそメロコアにもだ。だがしかし、じゃあ具体的に直接的な影響を受けてるバンドは?と言われてみると、パっと思いつかない。Apple Musicの「ダムドに影響を受けたバンド」プレイリストもまったくピンとこないしね。そんな中で私が思い付く影響下のバンドを少しあげておこう。

まず、エピソード3で漏れたが、UKハードコア・パンクではBROKEN BONESなんかもたしかにDAMNEDからの影響を感じさせてくれるバンドだ。『Decapitated』なんかモロに『Love Song』直系ですよ。特にギターソロね。是非聴き直してみてください。

Broken Bones ‎– Decapitated(1983)

 また、DAMNEDはご存じの通り初めてアメリカツアーを行ったイギリスのパンクバンドであり、「そのスピーディーなパンクは西海岸のハードコアパンクバンドに大きな影響を与えた」という話もよく聞く。しかしながらこちらも具体的なバンド名はパッっと出てこなかった。そんな時、もしやと思ってT.S.O.Lの2ndを聴いたらこれがまたかなりダムってたのである。 しかもリフやスピード感ではなく、メロやピアノを入れたアレンジ部分でDAMNEDを感じさせるというやり口だからニヤニヤが止まんない。 

T.S.O.L ‎– Beneath The Shadows(1982)

このようにDAMENEDの影響ははかりしれないものの、その奥行がサイケやカンタベリー、映画音楽など深すぎるので簡単にはマネできないバンドなのだ。やるならある一部の側面や曲単位、はたまたファッション的な影響を体現するしかないのではなかろうか。というわけで散々考えたあげくDAMNEDのフォロワーバンドなんか “ほぼいない!”という結論に達したわけです。

いや、ちょっと待て。あんたひとつ重要なバンドを忘れちゃいないかい? との声が聞こえたので書いておきます。 

そうです、避けて通れないのはTHE WILLARDだ。ここでまたハッキリ言っておくが“ウィラードはダムドの真似”“ウィラードのあの曲はダムドに似てる”なんて話は私にはどうでもよい。そんなこと言いだしたら世界中のパンクロックの多くがほぼRAMONESの真似だし、地球上の多くのバンドがローリング・ストーンズの真似である。

WILLARDはDAMNEDのカヴァーやDAMNEDがカヴァーしたナンバーなどもたしかにやってはいるが、継承してる点はそんなところではない。彼らはバンドブーム/ビートパンクブームの真っただ中の1987年にリリースしたメジャー2作目『THE LEGEND OF THE SILVER GUNS』においてサイケデリックサウンドにも真っ向から挑んでいき、多彩なサウンドアプローチを試み、そこからアルバムを追うごとに様々な実験と音楽的追求を行っていった点が非常にDAMNEDの姿勢に近いのだ。

The Willard ‎– The Legend Of Silver Guns(1987)

そしてなによりも現在にいたるまでブレることがないままだというところも重要だ。そう、WILLARDの孤高の美学はDAMNEDとも共通する。WILLARDというバンドは「WILLARDという世界に棲むWILLARDという民族のWILLARDという音楽を奏でるバンド」であり、彼らの楽曲は「WILLARDという名の映画のサウンドトラック」だと思う。DAMNEDもまたそういうバンドだと私は思っている。だからマネうんぬんで片づけるのはナンセンスに感じるのだ。

ところで私はTHE SMITHSおよびモリッシーの音楽がとても好きなのだが、それはもちろん音楽自体が好きだというのもありつつ、そのルーツを知っていくにしたがい“え、モリッシーはNEW YORK DOLLS好きなのは知ってたけどSPARKSやジョブライアスも?” ”ロカビリーも好きなの?” “ビリー・フューリーも?”……ってな具合に自分がSMITHSと無関係に好きだったものが次々とリンクしいったことも大きい。

そっから次第にこれはもうモリッシーの趣味嗜好を追っていけば間違いねえんじゃないかと思うようになってきたのだ。それを機にTHE SMITHSのジャケで使われてる映画を捜してみたりモリッシーが着てるTシャツを気にしてみたり、ライヴの客入れBGMまでチェックする日々がはじまったわけです。

つまりなにが言いたいかというと、ここからは想像だが、WILLARDのJUN氏にとってのDAMNEDもまさにコレなのではないだろうか。DAMNED自体をお手本にし追い求めたというよりも、氏が好きなドアーズやサイケデリック、グラムロック、ロカビリー、西部劇や不思議の国のアリス、モーターサイクルなどなどなど、これらDAMNEDの世界観の範疇にあるものと自らの好みが共通しているのを確認しつつ、氏は我が道を歩んでいったように思えるのだ。JUN氏には一度インタビューさせていただき実に楽しく深いお話させていただいたが、またいつの日か機会があればその辺りも伺ってみたいと思う。私にとってはTHE WILLARDもまた深き森なのだ。

まぁ、他にもDAMNEDを感じさせるバンドは私が知らないだけでたくさんあるかもしれない。あったら教えてくださいな。

あと、言っておきたいのは私はDAMNEDマニアでもDAMNEDコレクターでもない。正式アルバムはさすがに全部持ってるがレアなシングルの類などまったく持っちゃいないぜ。もちろんDAMNEDのことは愛しているが、この連載はDAMNEDを通じて、もしくは言葉は悪いがDAMNEDを媒介にして、音楽にはいろんな楽しみ方があるよってのを提示したかったのだ。パンクしか聴かない、プログレしか聴かない、それもよいだろう。だが、しかし点と点が繋がり線となり、そこで初めて見えてくる星座を眺めるのはとてもよい気分なのですよ。

それから、自分の専門分野はグラムロックなのだが、“グラムとパンクと地続き論”を述べて、パンクにマウントとりたいわけでもパンクに媚びを売ってグラムを聴いていただきたいわけでもない。パンクが「過去と分断」して見せたやり口は嫌いじゃないけど、時代はもう2022年、センセーショナルな歴史だけを語り継ぐばかりに大事な事実を葬らせるわけにはいかないのだ。I HATE PINK FLOYDやNO ELVIS, BEATLES & ROLLING STONESや「ロックは死んだ」発言をいつまで真に受けてんだってことです。

そんなことを念頭に置きつつ、全7回にわたり立体的にDAMNEDを考察してみたつもりだが、まだまだ気付けてない部分も多い。ギター、ベース、ドラム、キーボードなど楽器が出来る方特有のプレイヤー目線は私には欠けてるので、その辺りでもっと深くDAMNEDを分解してる方もいるだろう。例えばこのコード進行はあの曲と同じだとか、ブライアンとキャプテンの音の歪みの違いとか、ラットのドラミングの変貌だとかね。もっと言えばアンプやレコーディング機材も重要だ。

また私は英語が不得手なので歌詞に関してはほぼ言及していない。この辺にポイントをおけばDAMNEDの世界観はより拡がるだろうし森も更に深くなるだろう。デイヴがカヴァー曲を選ぶ理由の別角度も見えてくるに違いないし、同時に例えばLOVE(バンド)がなんであんなにイギリスで人気なのかも解るんじゃないかしら。 それからサイケを語る上ではドラッグもかかせないけど、それ体験して検証してたら投獄されますし身体ももたないんで想像だけにしときます。

Love ‎– Love(1996)

ともかく、そのようにこの連載をキッカケに様々なDAMNED考察が展開されることを私は願っている。ここで書いたことは私の妄想も多々含まれているので異論も勝手に展開してください。いや、DAMNEDのみならず、「BUZZCOCKSという名の深き森」でも「JESUS & MERRY CHAINという名の深き闇」でもなんでもよい。そんなものがあれば読んでみたいし、いろんな発見がしたいのです。

あと、ここでDAMNEDのルーツをいろいろ紐解いてみたが、それは彼らがなにをマネしたお手本にしたということだけが言いたいわけではない。そういったルーツを剥ぎ取っていくことで見えてくるものこそがダムドの個性だ。例えばあの1stアルバムからルーツとニック・ロウの手腕を引き算していって見えてくるものもあるじゃないか。なので無数にあるDEMOやライヴ音源を聴いてみることもおススメいたします。

The Damned – The Chaos Years 1977-1982: Doom The Damned!(2018)
The Damned – Live Anthology(2001)

話は四方八方に飛びまくるが、私は今回この連載を通してあることに気が付いた。それはパンクとは何か? という禅問答への回答だ。その結論というのは、結局のところパンクとはファッションなのではないだろうか。こういうと批判されそうだけど、私はファッションとはアイデンティティでありカルチャーだと思ってるし、音楽がそれに優位に立たなきゃいけない理由はどこにもないと思っている。

つまりどういうことかと言うと、パンクはグラムをはじめハードロックやサイケ、パブロックなどそれまでのロックと地続きのものだし、後々になって周りに“パンク”と総称されたものも多い。そこから考えると過去を完全にぶったぎって新しく独自のものを構築したという意味では、パンク・ファッションこそがパンクなのではないかと思うのだ。

まぁ、もちろんファッションだってルーツはありますが、それが世間的にも認識され、確立したという意味で、「パンクとはファッションだ」と考えるわけです。パンクファッションが一番似合う音楽がパンクロックで、パンクファッションを己のスタイルにした人たちがパンクス。そう考えるのはどうでしょう? ダメ? 

ただ、そういった意味でもキャプテン・センシブルのデニス・ザ・メナスとグラムロックをルーツにしたファッションは本当にぶっ飛んでるし、非ステレオタイプな超独自路線である。先ほどダムドのルックスの真似うんぬんについても書いたが、私はそれを否定する気はまったくない。

Dennis the Menace

DAMNEDは怪傑ゾロかはたまたバットマンのジョーカーくらいのアイコニックな存在なのだから、袋もヴァンパイアメイクもベレー帽もバードスーツもケーキまみれもやりたくなって当たり前なのである。思う存分コスプレすればよいでしょう。なんだったら私も隙あらばやりたいくらいです。あ、でもファッションもやっぱり思想のもとに生まれるから、パンクはやっぱり思想、価値観ありきかもしれません。思想つったってポリティカルだけじゃないからね。

自分で言いだしてといてなんだけどパンクは思想であり、価値観です!!それに基づいて同時多発で音楽をはじめたいろんなロックバンドがいて、それらがパンクと呼ばれ、その呼ばれたものに影響を受けたバンドがまた数多く生み出され……ということですね。(ちょいと説得力にかけたかもだが、これは一生のテーマとしてもうちょっと考えます)

ダラダラが過ぎるのでこの辺で筆をおこう。

シドもジョー・ストラマーもピート・シェリーも随分前からこの世にはいないし、HEARTBREAKERSは全員、RAMONESもほとんどいなくなっちまった。だけどもどっこいDAMNEDは生きている。バリバリの現役だ。あらかじめ“地獄に堕ちた野郎ども”なわけだから、彼らは不滅なのである。

2022年のツアーポスター

セックス・ピストルズのようにスキャンダラスではなく、クラッシュのように生き様に訴えかけてくるわけでもなく、ジョイ・ディヴィジョンのように神格化もされてない、にもかかわらず我らを熱狂させ続けてくれ、様々な謎かけをし続けてくれるバンド THE DAMNED。その道……ダム道を極めるのはまだまだ険しいが、これは今後も私のライフワークとしたいと思う。

ホント言うとデイヴ・ヴァ二アンのロカビリー嗜好や、DAMNEDとローリング・ストーンズ、アリス・イン・ワンダーランドとDAMNED、徹底比較DAMNEDとSTARNGLERSなど書きたいことはまだまだあるし、調べ抜きたいことも膨大なのだが、これにて一度終了とさせていただきます。毎回毎回長文を読んでいただきリアクションくださった皆様、本当にありがとうございました。そしてここで書く機会をくださったin the middleのハジメ氏、ミヤポン氏にも大感謝です。

というわけで皆さま、またいつの日か森で会いましょう。それまでどうか彷徨い続けてください、この深き森を……。


その森の名は。


 THE DAMNED

追伸
いつもこの連載を読んでくださってた親愛なるJさん。昨年末に「いつかsplit出そうよ」って言ってくれたけど、実は俺にはアイデアがあったんです。『Machine Gun Etiquette』をあなたのバンドと私のバンドでやって、それをまとめてマッシュアップさせる案です。あなたのバンドがハードコアパート、私のバンドがグラムパートです。これもったいぶって伝えることが出来ないままにお別れとなってしまいました。きっとこのアイデア面白がってくれたと思うから、とても残念です。多分そっちでこれ読んでくれてると思うのでここに書いておきますね。