COSMIT / COSMIT 7inch

text by Ushi-Number Two

2020年のリリースであるものの、僕が2021年に手にしたレコードでとても良かったのがこの一枚COSMITの1st 7inch。

CosmitーCosmit(2020)

なんの前情報もなく、新譜レコード店の7インチの棚を覗いていると「あれ?これなんだろ。」と手を止めた。目を惹くDIY感溢れるジャケット。お店のレビューが書いてあり、読んでみればRoyal Headache(2008年から2017年に活動していたオーストラリアの私的伝説の重要バンド)が引き合いに出されていたり、イギリスで活動する現行のパンクバンドであると。「嗚呼、これはこの瞬間に、僕と出会うためにここに巡って来たのだ」またもやそのような大いなる勘違いと共に、このレコードを手にレジへ向かった。

わかっている、これはもう病いだ。勝手なこじつけであるし、浪費家と言われればそれまでである。しかし、僕が自ら選ぶ我が人生でもあるのだ。そうだ、僕はこうやって生きて来たし、いつからこうなったのかも忘れてしまった、これからも出来る限りギリギリのところでこの生き方と付き合っていくつもりだ。こうやってたくさんの大切なもの、そして人と出会ってきた真実が僕にはたくさんあるのです。あ、話が逸れました。

COSMITはUK・ブリストルのバンドであり、これが1st 7inchでデビュー音源であるようです。彼らはノーザンソウルやモータウンと1960年代のポップグループに触発されたパンクバンドであるとbandcampに記している。「これはもう絶対最高。僕の人生ありがとう。」と僕は針を落とす前に感激。そんな謳い文句を掲げ活動するバンドに出会えたという事実で、もうどんな曲が飛び出してきても、余程賛同しかねる歌詞でなければ、それを愛す準備が僕にはできている。

1曲目のKeep it real。思ったよりも攻めたリズムとギターのメロディ、なるほどコーラスワークに60’sのそれが垣間見れる。そして何より耳を惹くのが、Royal Headache以来もっともRoyal Headacheしているソウルフルなボーカルのその声と歌だ。力強くも儚さも滲むその声で
「僕らは決して同じ靴を履いて歩くことはなかったけれど、僕らは自分らしく存在することができる」
そう歌われるこの曲は、僕の胸に深く響いたのでした。

3曲目のRolling Seaは他の曲に比べればゆったりしたビートでありながら力強くもあり、手拍子しながら踊れるホットなダンスナンバ一とも言えるでしょう。

そして、合唱必至の胸熱なこの歌の一節
「人生が公平でない時でも、そこにはいつだって希望がある」
「私はうねる海の中であなたの岩になる」
「すべての涙は空中の拳である」

そんな歌詞を読みながら、ミラダ・ホラーコヴァーのような人権活動家の生きた姿がよぎったのは、ミラダ氏のドキュメンタリーを最近見たせいかもしれませんが、弱きものの側に立ち、時代のあらゆる波に削られながら、それでも自らの信念へとひたむきに向かう人の姿が僕には浮かぶのでした。レコードのジャケット裏にも歌詞が記載されているし、bandcampでも歌詞読めますので併せて是非。

そして、こんな素晴らしい曲をどんな人がどんな姿で演奏しているのだろうと実際にライブを観に行きたくなるところではあるけれど、そこは文明の利器に頼り彼らの動く姿を探す。なかなか情報がない中やっと辿り着いたその先にいたのは、見覚えのある姿。「うおー!」と思わず声を漏らすほどの衝撃、そこでギターを弾いていたのは2014年に来日ツアーも果たし、日本の全メロディックパンクファンを歓喜させた素晴らしいエナジーとメロディそしてメッセージを持つオリンピアのRVIVRのメンバーErica Freas。眩しいほどにチャーミングなその姿を覚えている方も多いのではないでしょうか。

RVIVR-The Beauty Between(2013)

まるでEricaと出会い直すかのような感動を抑えきれず(僕はただのファンだけど)、COSMITのInstagramまで飛び、その姿を追えば2021年の6月に「どんなに不運であろうとも、我々はまだここにいる、曲を書き続けている」というメッセージと共に新曲であるだろうこれまた素晴らしい曲のリハーサル風景を残している。近い未来に新作を聴ける日を楽しみに待ちたい。

そして、アメリカで活動していたRVIVRのメンバーが何故イギリスのバンドに…と疑問を持つ方もいるかもしれません。どうやらEricaは2019年に故郷であるアメリカ・ワシントンからイギリスへ移住していたようで、移住したその地でも10年間続けてきたソロ活動を絶やさず、2020年に素晴らしいソロアルバムも制作していた。

COSMITのレコードはEricaという人物の歩んできた軌跡を僕の目の前に届け、その年月に僕自身の見てきた景色も思い起こさせてくれる、そんな一枚にもなったのだ。レコードとの出会いは様々なものや人を繋げ、思いもよらない未来の景色を用意してくれたりもする。僕の選びとりたい人生はそのようなものなのかもしれない。

Erica Freas-Salish Sea Orcas(2020)

最後に、このレコードをリリースしたのはSpecialist Subject Recordsという2007年から活動し、今やブリストルに店舗も構えるDIYレーベル。知らずに手に取り、我が家のレコード棚にあったブリストルのNeurotic Fictionや、ダブリンのPillow Queensなどもリリースしているようで、ここ日本でもポップパンク好きな方にはご存知の方も多いかと思われるMuncie Girlsなどもリリースしている、という見逃せないレーベルがまた増えたのでした。