ライブレポート – leech presents Not Nice X MASSPRESS split “dieVariante” release party

text by Hyozo-ゴヰチカ

MASSPRESS/Not Nice-die Variante(2020)

2022.3.20(sun)小岩bushbash
leech,Not Nice,MASSPRESS,SOILED HATE,SAIGAN TERROR,VxNx

18時ちょうどくらいに小岩Bushbashに到着。ビールを注文し、10分ほど押して(ライヴハウスで10分押しは押したうちに入らない)、SOILED HATEがスタート。

SOILED HATE

コロナになってからハードコアイベントに行くのは初めてだったのでまずフロアの雰囲気の硬さに驚いた。それはマスク着用などの制約のせい、シャイな東京人のせい、というよりは、皆この場の雰囲気が「かつてどうだったのか」を思い出しかねるといった様子なのだ。

さて、ステージの様子だが、スクリームする男性ヴォーカリストがフロントに2名、ギタリストも吠え女性ベーシストも歌のパートが多く用意されているので演奏は意外にも歌モノとしてはっきりしている。細身の方の男性ヴォーカルがフロアに降り、運動会以上の激しさで壁から壁まで左右に往復する。

ノイジーで常にショックを与え続けるような短く、叫び声に満たされ、濃縮された曲の連続。ハードコア/パワーバイオレンスのイベントの幕開けとしてはピッタリだ。久しぶりのライブハウスに鼓膜がだんだんチューニングされていく。30分弱のコンパクトな演奏で潔く終了。

ジャックダニエルを追加。VxNxは2ピースのハードコア。ギターヴォーカルとドラマーという組み合わせはインディロックのKlan Aileenや帯化のイメージがあったが質感は遠からず、だがより直情的で縦乗り、Ruinsほど職人技でなく、HUHほどアヴァンでもない。同行した友人が言う通り「世間で言われるパンクとは程遠い」音だ。しかしこれほどシンプルで純粋にエネルギー発散系の腑に落ちるパンクもそうそうないと思う。

時々踏むQuasar Phase Shifterの幻想的な音も独特で気持ちよかった。竹を割ったような音楽性と彼らの軽妙なMCで、フロアの雰囲気が少し和らぐ。

leech

続いては主催のleech, 以前音源を聴いた印象よりも直接的に70’sハードロックの伝統をいい意味で感じるライヴに思えた。しかし曲はどれもこれも短く、ヴァルハラに誘おうとしているわけではない。

しっかりとした堅実な演奏の上でヴォーカリストがノイズと化した金切り声で絞り上げるように叫ぶ。ダムが決壊するかのような発散系ヴォーカル。しかしロックとしてノリやすく短い曲が矢継ぎ早に繰り出されるので、フロアの雰囲気がどんどんよくなっていくのがわかる。観客から「More!」「もっとやれ!」の声が上がり、アンコール一曲を高速でプレイして幕。

SAIGAN TERROR

国産ハードコア界の大御所SAIGAN TERRORは流石の一言。筋肉質で迫力ある風貌の男たち4人が一糸乱れぬ演奏を展開する。音量はこの日一番大きかったのだが、それを感じさせない緊張感とミュージシャンシップに満ちた完成度の高い曲たち、それは人間としての純粋な筋力の違いや、体力の有無が音楽性に強く影響することを感じさせるものだった。 新曲2曲も披露し、創作意欲の旺盛さも改めて示した。

聴いていると唐突に冷たさを感じたので何かと思ったらフロアはいよいよ糸が切れる観客が登場、冷たいと思ったのは暴れ馬と化した客にぶつかられた隣が溢したハートランドだった。この感じも久しぶりだ。ステージ前の中心部では暴れ馬2名がすっかり防戦モードになった周囲とぶつかり合う。

あらゆる娯楽と公共空間の社会的包摂が進み、画一的で「安心安全」となったこの時代にこの解放のあり方は貴重だ。彼らは凝り固まった社会的ペルソナを一時忘れ、酒のもたらす陶酔の中原理的な「ハレ」の世界へと至る。忘我することを一足先に提示した客が、固かった周囲の空気をどんどん変えていく。マイペースに頭や体を動かす人たち。懐かしく、心地よいこの感じ。

Not Niceは友人たちと話し込んでいたら見逃してしまった、悪しからず。

MASSPRESS

トリはMASSPRESS, VxNxと同じくギターヴォーカルとドラムヴォーカルの編成でよりメタル寄りの重厚な演奏という印象を受ける。

この頃になると久しぶりのアルコールでだいぶ酔いが回っており、周囲と一緒になって一曲ごとに大きな拍手を送る。中盤からノイズ奏者も加わってうねりにレイヤーが一つ加わる。大いに盛り上がって幕。

フライヤーは良い意味でオールドスクールなハードコアシーンを感じさせるもので渋い。 当日の会場内の男女比は8:2ほど。正直、こういうイベントとしては思ったより女性客が来ているという印象を受けた。

久しぶりで十分楽しかったのだが以前はBushbashのハードコアイベントはより多様な国籍と思しき客層で賑わっていたので、その部分も早く元に戻ってほしいと思える一夜だった。