Strum & Thrum: The American Jangle Underground 1983-1987 後編

text by Kenji Ueda/I Wonder Why

前回に引き続き、Strum & Thrumコンピについて。まず最初に紹介したいのはバンド名とサウンドにニヤリとさせられたこのバンドである。

Sex Clark Five  ”She Collides with Me”

Sex Clark Five-Strum & Drum !(1987)

1960年代にThe Beatlesの”リバプール・サウンド”の対抗馬として出てきた”トッテナム・サウンド”の代表各的なバンド、Dave Clark Five をバンド名の元ネタにしているであろう”Sex Clark Five”。彼らの1stアルバムのタイトル『Strum & Drum !』はこのコンピのアルバム名の元ネタであろう。

楽曲的にはガレージのガチャガチャしたサウンドに、パンクのストレートなメロディが乗ったような印象があるが、それと同時に60年代のUS、UKのポップスやガレージサイケからの影響も深く感じる。バンド名の元ネタのDave Clark Fiveに音楽的にも影響を受けているのは間違いないだろう。

同時代のUKシーンにはTelevision PersonalitiesやThe Timesなどのポストパンクのバンドがいたが、この時代に60年代の音楽に影響を受けたバンドはどこの国であろうと、この手のサウンドになっていくのはある意味自然なことなのだと思う。ニュージーランドのFlying Nunレーベルにも、やはり同じ匂いがするバンドたちがいたという点も忘れてはならない。

Sex Clark Five をこのコンピで聴いて、当時のUK、USシーンのアンダーグラウンドなバンドの同時代性を繋げて語ってしまうのはやや大袈裟なことかもしれないが、僕にとってはとても面白い発見だった。(個人的にTelevision Personalities贔屓なのもあるが) ”Strum & Thrum” の中で最も面白いと感じた部分はこのリンクだったかもしれない。

Sex Clark Five はかなりの量の音源をリリースをしており、自主制作盤やカセット、CD-Rだけの音源もあり、どれが正式なリリースなのかも正直分からないが、現在もアンダーグラウンドなシーンで活動を続け、音源を発表し続けているようだ。これまでこのバンドの存在は知らなかったが、これを機に彼らの音源を掘って行ってみようと思う。

Start ”Where I Want To Be”

次に紹介したいのはStartである。2曲目に収録されているバンドだが、イントロのギターのハーモニクスの音から高らかに盛り上がる曲はまさにネオアコ、ギターポップらしいサウンドで、Hit Paradeのような爽快感もありとても好きな一曲だ。

Start – Look Around(1983)

得てして、どのジャンルでもシングルやアルバムを1枚だけリリースして消えてしまったシーンの徒花的な存在のバンドはいると思うが、志を持ったコンピによって無名バンドが発掘され、後々話題になるということが多々ある。ネオアコやギターポップ、パンクなどは特にそういったバンドが多いジャンルだと思うし、誰も知らなかった超良質なバンドのシングルが後に数万で取引きされたりする事がザラにある。(ギター・ポップやネオアコの源流を辿っていくとパンクに行き当たるし、様々な面で共通項がある)

そういった意味ではStartはアルバム1枚、シングル1枚だけのリリースで活動が止まっており、まさにこの手の発掘音源系コンピでは象徴的な存在であるギターポップバンドとも言える。

Pop Art  ”The Meeting”

Pop Art ‎– A Perfect Mental Picture(1985)

次に紹介するのはPop Art。曲調もそうなのだが、ボーカルの歌い方やメロディの伸ばし方がThe Smithsのモリッシーと少し似ていることがまず気になり、バンドのリリースを調べてみると驚くことがあった。

Pop Artの1stシングル”That’s Enough For Me/New Generation”(曲名がまさにパンク/ニューウェイヴ後といった感じで最高)は1983年のリリースとなっており、The Smithsの1stシングル”Hand in Glove”がリリースされた1983年と同じ年なのだ。まさかThe Smithsのデビューシングルのこの年のロサンゼルスに、The Smithsと近いサウンドのバンドがいるとは思わなかった(Pop Artはどちらかというと1981年にデビューしたR.E.M.フォロワー的な感覚だったのかもしれないが)。Sex Clark FiveとTelevision Parsonalitiesと同様、同時代のUSとUKに共通する音楽性を持ったバンドが存在していたことに感動を覚えた瞬間だった。

ちなみにTelevision Personalitiesに在籍していたEd Ballの別バンド、The Timesの1stアルバムのタイトルは”Pop Goes Art!”で、Edの運営しているレーベル名も”ARTPOP!”なので、Television Personalitiesファンの自分としてはこのPop Artというバンド名を見て勝手に嬉しくなってしまった。(こじつけです。すみません)

Pop Artはアルバムを5枚、シングルを3枚リリースしており、インターネット上にある曲は一通り聴いてみたがどれもかなりの良曲揃いだ。キラキラと輝くクリアなギターにメロウで伸びやかなメロディのボーカルが印象的なバンドだが、2008年にデビューした”デンマークのThe Smiths”ことNorthern Portraitとも近い印象がある。同バンドのファンの方にもぜひ聴いてみて欲しい。

Cyclones ”I’m In Heaven”

最後に紹介したいのはCyclonesである。Cyclonesはシングル2枚という少ないリリースで活動を停止してしまっている。

Cyclones– Out In The Cold(1983)

メロディや全体の流れは、勢いのあるEverything But The Girl、またはDolly Mixtureといったような印象を受け、これまた個人的な好みド真ん中だった。ギターソロやサビのI’m in Heaven now〜のフレーズの部分のリズムギターのアタック感はThe Wolfhoundsのようなガッツも感じる。曲調やフレーズはUK的でいて、リバーブのドライさや音全体のミックスはUSパンク系の音で仕上がっているという点もまた魅力的な一曲である。

この曲を聴いただけで、「もし彼らがアルバムを出していたとしたら、USのアンダーグラウンドなギターポップシーンに留まらず、様々な場所で広く話題になっていたのではないか…」などなど想像せずにはいられない。もっと早くこのバンドの存在を知りたかったし、編集音源などがリリースされたら絶対に手に入れたい。

ちなみにDisc 2の1曲目に収録されているRiff DoctorのメンバーはCyclonesにも在籍していたようだ。Riff DoctorもShop Assistantsのような雰囲気が満載の歪んだギターサウンドの爽やかポップスとなっている。

Riff Doctors – The Riff Doctors(1985)/Cassete

”Strum & Thrum”は当時のUSには良質なギター・ポップバンドの数々の名曲が存在していたことを裏付ける一枚となっており、これから世界のギターポップやパンクを愛する、DIY精神を持ったレーベルやリスナー、ミュージシャン達は、80年代のUSアンダーグラウンド・ギターポップをさらに掘っていくことになるであろうし、きっとこの作品が道標的な存在になっていくのであろう。僕もまた収録バンドから情報を辿って行き、時代に埋もれていった良曲を探して行きたいと思っている。

ただ、自分の知る限り、アメリカの80年代のアンダーグラウンドなギターポップシーンは日本ではこれまでほぼほぼ語られることがなかったと思うし、”Strum & Thrum”に収録されるバンドの作品のほとんども中古レコード店で偶然出会う事ができれば安く入手できると思うが、実際に見つけ出す事は困難を極めるであろう。そして当時のアメリカでもこの手のジャンルに力を入れていたレコード店が存在していたのだろうか…など個人的に気になることもたくさんある。

後編では個人的にこのコンピの中でも特にパンクとリンクする精神や音楽性を感じるバンドを中心に選んでみたが、僕がピックアップしたバンド以外にも、もちろんカッコいい曲が多数収録されており、さらに85ページのブックレットにはバンドの紹介や貴重な写真がたくさん掲載されている。いろいろな発見がある発掘コンピレーションアルバムなので、今回の記事を読んで気になった方はぜひとも聴いてみて欲しい。

また、最後になるが”Strum & Thrum”と近いコンセプトを持った『Sound Of Leamington Spa』という、ドイツのfirestation recordsの発掘系名コンピシリーズを紹介しておこう。現在Vol.10までリリースされている、知る人ぞ知るUKやドイツのネオアコ、ギターポップ系の数々のバンドを収録した音源集で、あらためてこの手の音楽の底の深さを垣間見れる内容になっている。

Various ‎– The Sound Of Leamington Spa – German Edition(2019)

まだまだ世界にはたくさんの素晴らしいバンドや名曲が埋もれているだろうし、それを探し出す旅は当分終わりそうもないということだ。