Her’s

text by Ushi-Number Two

「うおお!こ、これは、、気になる!」
イントロの数秒で目と耳を奪われたあの日から早5年、それはSpeed Racerというミュージックビデオを目撃した瞬間のこと、Her’sとの出会いはそこから始まって、今ではきっと忘れる事のない僕にとって特別なグループになった。それは2019年Her’sはUSツアーの最中に交通事故に遭い、この世を去ってしまったという事実があるからであるのは確かであるのだけれど、あまりにも素晴らしいHer’s自身の魅力が僕にとって特別であるのには変わりなく、そんな彼らについて書いてみたいと思います。

UK・リヴァプールを拠点に活動したHer’sはギター・ボーカルのStephen FitzpatrickとベースのAudun Laadingによる二人組。

彼らはリヴァプールでお互いが大学一年生の時に出会い、スティーブンがドラム、オードゥンはベースでSundogというバンドのリズムセクションを担っていたのだそう。その活動を通してお互いの音楽的な趣向の共通点を見出して、彼ら2人の曲を作り始めHer’sの活動が始まったようです。(SundogはBrad Stankとしてソロ活動を現在も続けています)

曲作りを始めた当初からスティーブンがドラムマシーンを所持していたため、ドラマーを加入させるよりも自然な流れでスティーブンがドラムマシーンでドラムパートを作る形となり、2人体制のHer’sのその姿になったと語っています。

Her’s-Dorothy/What Once Was (2016)

活動開始から間も無く2016年のデビューシングル”Dorothy”から各地で既に大きな注目を集めていたようで、翌年のアルバム発売を前にしてSXSW2017に出演のため渡米も果たすという、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いでその名を世に轟かせた彼ら。

思い返せば2013年頃にFat White Familyがデビューしたあの頃から、それまであまり音沙汰のなかったUKのロックシーンがサウスロンドンを中心に少しずつ火がつき始めている、という風の噂を聞いて、その数年後に若き尖る才能Shameがサウスロンドンから出現。いよいよ本格的に「これはロンドンバーニング再び!」と心弾ませていた傍ら、リヴァプールから現れたHer’sはそのサウスロンドン周辺のバンドとは少し違う雰囲気を持って現れたように思います。冷たく気怠く尖る都会なイメージのサウスロンドン勢と比べ、Her’sは自由に浮遊して人懐こい感じがするのです。

先にも少し述べましたが、僕がHer’sを知ったのは、2017年にリリースされた1stアルバム”Songs Of Her’s”が発売された頃。Speed Racerのミュージックビデオを目撃した瞬間から、「幼さの残るヤンチャそうな青年がこんな音をやっているなんて!」と心奪われてしまって、間もなくレコード屋に走ったのでした。

そしてアルバムを通して曲を聴き、その姿が気になってライブ映像を探してみれば、そこで確認できる彼らのなんとも楽しそうに演奏する自由で奔放な立ち居振る舞いが、僕の心を明るく弾ませてくれるし、「音を楽しむというのはこれだよな」とさえ思ってしまう程に素晴らしい姿がそこにあります。そして、飄々としたその姿を支えるのは一筋縄ではいかない演奏力と音楽愛である事が滲み溢れ出ているではありませんか。

彼らは2枚のアルバムをリリースしていますが、その1枚目”Songs of Her’s”は彼らが活動を始めた最初の1年間に書かれたもので、Her’sの2人からすればそれは「ライブ活動のためのプレイリストのようなもの」と語っていて、Her’sがHer’sになるための活動初期1年間のタイムカプセルなのだと語る。

そうして、Her’sがHer’sである形を見出し始めた彼らは素晴らしい2ndアルバムを発表します。”Invitation to Her’s”「Her’sへの誘い」のタイトルの通り、まるで歓迎の花束のようなジャケットも素晴らしいのですが、その楽曲は1stアルバムのギター・ベース・ドラムマシーンのシンプルな構成にシンセサイザーが効果的に鳴りHer’sの描きたい世界にぐっと近づいたのだろうことが伺えます。

そしてそこで歌われることは、彼らがドラマTWIN PEAKSの熱狂的なファンである事も多分に影響して、物語のような側面もあり、実生活の中で感じた一個人としての違和感や心に残ったことが歌われるものもあり、それらは全体を通して混ざり合い行き交いながら、まるで映画のようにロマンチックな雰囲気に包まれているように感じられるのです。

実際に”Low Beam”や”She needs him”なんかはまさにTWIN PEAKSの世界からインスパイアされているようだし、”If you know what’s right”では彼らが音楽に打ち込む傍ら、友人たちは若くして結婚し、子を授かっている、そんな姿やその現実を目の当たりにし「自分の存在とは、世にある価値とは、正しさとは、人生とは?」と自問自答し未来に向かう若者の姿とイギリスの姿、それはその当時のチャブという言葉で可視化された貧困や階級差別、多様性と言う言葉が内包するものなどを目の当たりにする姿が、そこに見えるようにも僕は思うのです。

Her’s- Invitation To Her’s(2018)

そして、そんな2ndアルバムを提げて、満を持して長いUSツアーへ向かった2019年。彼らはその19本に及ぶタフなツアー中に、アリゾナ州フェニックスでの演奏を終え、翌日の演奏のためにカリフォルニア州サンタアナへ向けて移動(およそ560kmの距離)の最中、逆走車両による事故に遭遇し、巻き込まれる形で命を落としてしまった。まだスティーブンは24歳、オードゥンは25歳という若さで。これからまだまだ素晴らしい曲が生まれたであろう事を思うと、やり切れなさが溢れます。(最後の演奏となってしまったPHOENIXでのライブ映像はYoutubeで見ることができます)

彼らのルーツはなんだろう、そんなことも考えてみたのですが、2017年に24歳ということは2007年頃から多感な10代のあの頃が始まっているのかぁ、と若さにビビりますが、そう考えるとMac DeMarcoやその頃のThe Drumsなど、当時僕も熱心になった2010年前後あたりのカナダ・USインディーロックや、イギリスではKing Kruleなどがその時代に活躍し始めていたことも少なからず影響あるのかな、と思ったりします。

これは僕の想像と憶測でしかなくて、その先のルーツにはDaryl Hall & John Oatesが探し求めたロックアンドソウルがあるようにも感じるし、The Smithsなどの80年代のマンチェスターのあの空気感とリズム、ギターの残響も感じることが出来るように思います。そして、出自がそうさせるのか、彼らが奏でた音楽にThe Beatlesのあのリヴァプールサウンドが確かにここまで受け継がれているんじゃないかと思い馳せるのです。

実際にインタビューをいくつか読めば、ベースのオードゥンはスミスのアンディ・ルークに影響を受けていると語っているし、スティーブンはローファイレジェンドことR STEVIE MOOREや、カナダ・モントリオールの孤高のグッドソング職人TopsのDavid Carrire、そしてRobert Smithからの影響を自ら語っていました。もちろんThe Beatlesの名前もその中に挙がっています。

僕が現在進行形で生まれ活動するバンドに出会い感激する音楽は、それまでに生まれた数多の素晴らしい音楽への道標となり、それを辿り新しく出会う、または再び出会い直すその音に、それまでには体感した事のない発見や、見ることのできなかった新しい一面を見出すきっかけとなる。そんな楽しみ方もできるはずです。

まあ、でもそんな事は、いち聴き手の僕の勝手であって、Her’sの2人はそんなことには構いもせず、彼ららしく自由な姿でこの音楽を作ったし、誰がなんと語ろうとHer’sはHer’sでしかなく、僕にとってどうしたって魅力的な彼らの存在はレコードの中に、音の中に生き続けていくのです。この音楽を大事にする人それぞれの中でそれぞれのHer’sの姿を見出す事が素晴らしいではないですか。

最後に、タフな日程でしか実現できない事情や、タフなツアーでしか見ることの出来ない素晴らしい景色があるのは承知の上で、事故という、こんなに悲しいものはないので、安全を一番に、自他共に本当に気を付けなければ。と書き加えて終わりたいと思います。