DJ Takeuchi081の中南米音楽旅行記 その1
text by Takeuchi081-DJ/Ti Punch
中南米・カリブの音楽に夢中になって、旅をしたパナマ、プエルトリコ、コロンビア、メキシコ、キューバ、ペルー。そこで出会った人、料理、街など音楽にまつわるエトセトラ。
はじめに向かったのはパナマ。運河のある国というので知っている方が多いでしょうか。2016年当時スペイン語のレゲエに夢中になっていた自分は、その発祥の地と知って衝動的に行ってみることにしたのでした。くしくも近年DJ界隈でその多彩なトロピカル音楽が注目されてもいます。でもなぜそのような音楽がパナマにあるのか。
スペイン語レゲエって?という方のため、ヒット曲「Renato / la chica de la ojos cafe」貼っておきますね。
どんな世界かイメージできたでしょうか。ということで、では出発。
パナマへはアメリカはマイアミ空港経由。乗り継ぎの待ち時間にcafe versaillesというカフェでキューバンサンドを。飛び交うスペイン語がなんだか嬉しい。(マイアミも中南米各地から人が集まるところで面白いんですが、これはまたの機会に。)
パナマのトクメン空港へ。ほどよいサイズ感と古びた感じに、日本の地方空港を思い出す。ホテルのある首都パナマシティー中心部まではタクシー。(はじめての中南米なので、ホテルは少し良いところにした。)中南米らしい風景を眺めていると、遠くに乱立する高層ビルが見えてくる。
高層ビルの足元に着くと、歩道はところどころ舗装がなかったりで、砂ぼこりが舞っている。遠くから見た景色とは違う印象。近年ラテンアメリカで最も開発が進む地域だと聞いたことがある。
セントロと呼ばれるマーケットのある辺りを散策。店ごとに大音量のBGMを鳴らしているので、だいぶ騒がしい。ラテン音楽にまじって、JC LodgeのSomeone loves you honey(ラバーズレゲエの曲)が聴こえてくる。
カスコビエホと呼ばれる旧市街へ。古い街並が残り、観光客が多い。日本で言えば京都の祇園みたいな感じだろうか。弾き語りの老人がカリプソを歌っている。椰子の木ごしに高層ビルが見える。
次の目的地は、パナマシティーの数少ないレコード店「ディスコテカソフィー」があるリオアバホという地域。タクシーでの移動中、流れてくるラジオが楽しい。プエルトリコサルサやレゲトン、ダンスホールレゲエにハイチ音楽っぽいものまで。カリブ色濃厚。
店に入ると店主ソフィーと息子が店番中。Hector Lovoeの古典サルサが流れている。ここに来たのは、リオアバホの歴史と関係がある。
パナマはスペインから独立後、コロンビアやベネズエラ、エクアドルと一体となるも、再度独立。その際アメリカの支援(?)を受けると同時に、アメリカの干渉が続くことになる。運河周辺は1990年代までアメリカの管理下となったし、紙幣は米ドル札が使用された。(そのため英語を話せる人も少なくない。)
また、古くから太平洋とカリブ海をつなぐ交通の要所で、鉄道や運河が作られてきた。それらの建設ののために各地からやってきた移民が、パナマに多様な音楽をもたらしたのだった。その中でも、リオアバホはジャマイカ系移民が多く移り住んだため、レゲエとの関係が深い地域。
ジャマイカ系移民たちは、1980年代に屋外ディスコ(ジャマイカでいうサウンドシステム、ディスコテカモバイルと呼ばれる)でレゲエをプレイしはじめる。最初は英語でMC(レゲエでいうDJ)をしていたが、それがスペイン語に変わり、やがて自分たちで作ったスペイン語レゲエをプレイするようになっていった。
ディスコテカソフィーのレーベルにも、スペイン語レゲエのオリジネーターと言われるRenatoの作をはじめ、多数のリリースがある。ソフィーに当時のことを聞くも、片言のスペイン語ではさっぱりで断念。腹が減ったので隣の八百屋で妙に大きい緑色のバナナを買ってきて食おうとしたら、ソフィーの息子が笑っている。そのまま隣の店に連れて行かれ、返品されてしまった。どうやら生では食べられないやつだったらしい。
(続く)
Takeuchi081
DJ活動は二十数年。レゲエのセレクターをきっかけにカリブ・中南米音楽にはまる。レギュラーイベントSeduction Tropicale、メキシコのニューサウンドを追うSonidero Tokioのほか、来日アーティストのサポートやラテンフェスなどにも参加。パナマのレゲエ史を紐解くガイドブック”Reggae retro en Panama”はインディーズレコード店を中心に流通し完売したほか、東京大学のゼミや文化講座セミナーでレゲトン史についての講座を行った。トラックメイカーや、フレンチカリブ音楽のバンドTi punchのメンバーとしても活動中。