Russian Funk Guide
text by Ashira/NOBODY
in the middleではこれまでポストパンクについての記事を書かせてもらいましたが、今回はロシアの現行ファンクについて。
僕はDJの時にロシアのポストパンク以外にもファンクのレコードをかける事が多いのだが、極寒の地であるロシアとファンク・ミュージックがいまいち結び付かない印象もあってか、「ロシアにかっこいいファンクバンドが沢山いる」という事を話すと意外に思われることが多い。
しかしロシアでは、ソ連時代から閉塞的な環境の中で発展してきた独特のグルーヴを持つロックやサイケ、ファンクミュージックが存在しており、これらの音楽の遺伝子(そしてもちろんJBを始めとした世界的なファンクレジェンドたちの遺伝子も)を受け継ぐようなアーティストたちが2010年代以降注目を集めている。
今回の記事ではロシアの現行ファンクバンドの中からいくつか紹介させてもらおうと思う。
The Soul Surfers
ロシアの現行ファンクの代表的な存在と言えるのがThe Soul Surfersだ。
The Soul Surfersは2010年にハイスクールの仲間たちで結成されたファンク・バンド。デトロイトのファンクレーベルFunk Nightや本国ロシアのSpacibo等から数多くの楽曲をリリースしている。リーダーのIgor Zhukovskyはソ連レコードのディガーとしても有名。
Soul Power
2011年にリリースされた彼らの1st 7inch。歪んだギターや激しいドラム、熱いボイスで疾走するアッパーなキラー・ブレイキン・ファンク。今と比べるとかなり荒々しく熱を帯びたサウンドはデビュー盤ならでは。
Summer Madness Pt. 1 & 2
こちらはKool and The Gangのファンク・クラシックのカバー。19年にリリースされたこの7inchは即完売となる大ヒットとなった。(最近Jet Set Recordsから日本版ジャケットの再発盤もリリースされた)
Pt. 1 では原曲の持つメロウネスを継承しつつも彼らならではのサイケデリックな要素がミックスされ、トリッピーなサマーファンクに仕上げている。Pt. 2では硬質的なギターやリズム隊によるファンク度アップなアレンジでこちらもかっこいい。
My Crew (Doe)
彼らとしては珍しいボーカル入りのナンバー。メロウなメロディーにサイケデリックな浮遊感も漂う、ソウル・テイストの名曲。
Jesus (Gospel Surfers)
変名プロジェクトがやたらと多いのもThe Soul Surfersの特徴。Slow Surfers、Snow Surfers、Les Soul Surfers等、楽曲のテイストに合わせた様々なプロジェクトが存在するが、これはその中の1つGospel Surfers名義による7inch。
うねるベース、キレのあるハモンドオルガンがファンキーなインスト・ゴスペル・ファンクだ。
Great Revivers
The Soul Surfersと並んで現行のロシアン・ファンクを代表するバンド。2015年ごろからFunk Nightを中心に数多くの7inchと2枚のアルバムをリリースしている。
Don’t Mess With GR
2014年にリリースされた初期の7inch。後に1stアルバム「Have a Drink With Great Revivers」にも収録されている。
彼らのサウンドの代名詞とも言えるオルガン(旧東ドイツVermona製とのこと)を全面にフィーチャーしたミドルテンポの心地よい1曲だ。
Bboy Anthem
ボーカルユニットLucid Paradaiseとのコラボ7inchからの楽曲。この後コラボアルバム「Have a Trip With Lucid Paradaise」もリリースされ、そちらにも収録されている。
Evil’s Nest
今年になってリリースされた新作の7inch。直訳すると「悪の巣」となるタイトル通り、おどろおどろしい鍵盤の音色とソリッドなギターで構成されたシネマティック・ファンクになっている。
The Diasonics
ロシアのレゲエバンドThe Wheeler-Dealersのメンバーらが参加しているモスクワ拠点のファンクバンド。デビュー7inchのリリースが2020年であり、今回紹介するアーティストの中では比較的新しいバンドだ。
Derilium
Funk Nightからジャケット付きでリリースされた7inch。タイトなドラムが作りだすファンキーなグルーブやオルガンの音色が美しい、シネマティックなファンクチューン。メロディーはどことなくロシアのクラシックや民謡を彷彿させる。
Deviants
こちらは今年Record Kicksよりリリースされたばかりの1stアルバム「Origin Of Forms」から。モンドミュージックっぽさもある鍵盤のフレーズや歪んだテクニカルなギター、エキゾチックなコーラスが病みつきになる1曲。アルバム通しての完成度も高く、KhuruangbinやAltin Gun等のファンにもオススメだ。
The Vicious Seeds
2016年にサンクトペテルブルクで結成された5人組のディープ・ファンクバンド。
Illegal Delivery
ドイツの名門レーベルTrampよりリリースされた7inch。
いかにもフロア受けしそうな疾走感溢れる軽快なブレイキン・ファンクだ。
Agent Sentimental
今年Mocamboからリリースされたこの7inchはビブラフォン奏者Pavel Chizhikとのコラボ作品。
図太くファンキーなベース、オールドスクール・ヒップホップライクなブレイクビーツ、そしてトロピカルなビブラフォンが心地よい極上のサマーファンク。
Bamma Gamma
ガレージ・サイケバンドMystic Brewのメンバーによって2012年に結成されたガレージ・サイケ・ファンクバンド。別プロジェクト的な立ち位置なためか、キャリアの割にリリースは少ないが、いずれも良質なガレージ・ファンクチューンになっている。
Back To The Zoo
2017年にFunk Nightからリリースされた7inch。ファンキーなワウギターやサイケデリックなシンセ、そしてそれに乗ってくる動物の鳴き声のサンプリングが楽しい密林系サイケ・ファンクチューン。
Bubble Gum
今年リリースされた2ndシングル。切れ味のいいギターカッティングがカッコいい1曲。さらにサックスやパーカッション、ボイスやSEのサンプリングまで多種多様な楽器が折り重なりカオティックなサイケ・ファンクナンバーになっている。
今回はロシアに絞って紹介させてもらったが、旧ソ連の構成国であったエストニア等にもMisha PanfilovやPenza Penzaといった現行のファンクアーティストが存在するので、またいつか紹介できたらと思う。
また、今のところロシア国外のレーベル(=日本国内でもレコードの取り扱いが多い)からリリースされているアーティストしか情報を纏められていないが、さらに掘り下げていくとロシア国内でしかリリースがないようなローカルなファンクアーティストも存在するかもしれない。
まだまだ興味が尽きないロシアの音楽シーン。引き続き探求を続けていきますので宜しくお願い致します。