Peace De Resistance-Bits And Pieces

text by Ushi-Number Two

2022年の4月、激烈問題作Peace De Resistanceの1stアルバムBits And Piecesが投下された。Peace De Resistanceその人物Mose Brownは、言わずと知れた米・オースティンのテキサスパンクシーンの雄2010年代の私的レジェンドInstituteのシンガーであり、ハードコアフリーク達の心を鷲掴みにしたGlueのドラマーである。

Institute-Readjusting the Locks(2019)

そんな彼がニューヨークに拠点を移し、Peace De Resistanceというソロ名義でdemoカセットを作ったのが2020年のこと。彼が感染症禍にも止まらず活動をしていたことがなんとも喜ばしくもあり、その楽曲を聴いてその変化というか進化というか、ソロ作品なので、そりゃあバンドとは違うのは当たり前ですが、兎に角、一聴して心奪われたのでした。

それから一年足らずでリリースされたこの1stアルバム、このレコード盤を時には正座をして、時には腕を組み仁王立ちで、時には歌詞を追いかけながら、何度も何度もひっくり返しては繰り返し聴いて、それでも語る言葉を明確に見つけることが未だに出来ないでいるのが正直なところであるけれど、今の僕なりに誠心誠意向き合ってみようと思うのです。

いつだってそんなあてどもない未知へ飛び込むような一歩を自ら踏み出すことが、今の自分にある真実を形作ってきたではないか。そうだ、かつてジョー・ストラマーも言ったじゃないか「月に手を伸ばせ、たとえ届かなくとも」

Peace De Résistance-Bits And Pieces(2022)

さてさて、バンド名のPeace De Resistance直訳すると”抵抗の平和”。むむ、これだと、なんとなくわかるような気がするけど、、いやいや、なんのこっちゃわからない。

が、レコード盤にポスタースリーブが付いていてカッコいい写真と共にOur favorite vegetable…Peas of resistance(我々のお気に入りの野菜…抵抗の豆)と記してあり、どうやら、綴りを変えてPiece De Resistanceとするとフランス語で「ディナーのメインディッシュや主要なもの」や、「時の流れに耐え得る名作や既存の価値観に抵抗」を指す言葉のようで、なるほど、これに掛けてPeace De Resistanceと名乗っているのだろうなーと推測できるのです。流石はInstituteのボーカルなだけあっていちいち唸ってしまいます。違ったらすいません。

この作品は新たな自主レーベルPeace De Recordを旗揚げしてリリースされており、DIYパンク精神は健在な訳ですが、ディストリビューションを米・ノースカロライナの優良DIYパンクレーベルSorry State Recordsが担うという素晴らしい布陣。

その紹介文の言葉を借りれば、Mose本人は自らを「とち狂ったグラムロック」と形容し、それはDiamond Dogsの頃のDavid Bowie、70年代のRou Reed、Iggy PopのThe IdiotやLust For Lifeの影響が伺えると記しています。ジャケットの写真を見ればメイクを施したMoseのその姿は新鮮だし、本作を聞けば、なるほど上記の影響は多分に感じる事ができます。

そして何より目を惹いたのが”Zam Rockからの感化”。僕はといえばZam Rockとはなんぞや!というところから探り始める始末なのですが、それを調べれば、1970年代にアフリカはザンビア国内で発生した音楽ムーブメントの一つなのだそうで、ジミ・ヘンドリクスやジェファーソン・エアプレインのサイケデリック・ロックとジェームス・ブラウンのファンクを合わせた音楽と称されるものなのだとか。

これはZam Rockへの旅が始まってしまう予感をビシビシと感じながら、サクッと人命の力に頼ってみると、Welcome to Zam Rockなるオムニバスが2017年にリリースされているではないですか。しかしレコード売り切れ。視聴してみれば、確かにその影響も多分にありそうです。そして何よりどのバンドもめちゃくちゃ良い。

思い返してみれば、ニジェールのアガデスで活動するEtran De L’air(エトラン・デゥ・レール)というバンドのNo.1というアルバムを「これは!」と思って手にしてから、出会ったサハラ地帯(西アフリカ)に特化したレーベルSahel Soundsを追いかけたのもここに繋がるのか、と勝手に自分の歩んだ道と辻褄を合わせてしまうのです。

また話が逸れていますが、Peace De Resistanceは上記のものに確かに影響は受けていそうですが、やはりDIYパンクの最前線を地で進み続けたMose節は健在で、それが何よりの魅力であり、僕がこのレコードを何度も繰り返し聴いてしまう最大の要因なのです。

そして忘れてはいけないのはInstitute作品でもその大きな魅力であるMoseの歌詞。Instituteの楽曲でも、モンペルランソサエティ(新自由主義者の政治団体)に触れ、新自由主義がもたらす貧困や自己責任の世界と分断、福祉依存、競争思考など、現代に暮らす違和感と共に警鐘を鳴らすものがあったり、アナーコパンクと形容されるのも納得のメッセージを込めていて、新たに知ることや考えさせられるものがたくさんあるのですが、今回のソロ作もその姿勢は変わらず、貧困と搾取、押し進み続ける監視社会や、僕らが便利と引き換えに失うもの、Form 1099(アメリカの収入証明書、日本でいうインボイス制度のような感じでしょうか)に触れていたり、社会にある違和感やその仕組みに触れ、僕らも日常で感じる違和感に立ち止まって考える糸口を見せてくれるようにも感じます。

“BITS AND PIECES”それは彼が暮らす日常で見つけた違和感の欠片を一つずつ記録し、その新たに辿り着いた音と共に2022年を物語る、語り継がれるべきパンクレコードだと思うのです。