Ukrainian Post-Punk Discovery

text by Ashira/NOBODY

今回はウクライナのポストパンクシーンについて取り上げてみたいと思う。

プーチン政権による侵攻のため、今なお厳しい状況が続くウクライナ。もちろんこの地にも数多くのミュージシャンが活動しているのだが、やはり周辺地域と同じようにコールドウェイブやEBMを中心としてポストパンクを演奏するアーティストが豊富に存在する。

その中から、個人的特に好きで愛聴しているアーティストを紹介しようと思う。

SadSvit

SadSvit-Cassette(2021)

SadSvitはБогдан Розвадовський (ボフダン・ロズヴァドフスキー)によるインディーポップ/ポストパンクソロプロジェクト。2004年生まれでこの記事を書いている時点でまだ18歳という若さの彼は、13歳の時にラップトップで音楽の制作を始めている。当初はビートメイカーとしてトラックを作っていたようだが、2020年にSadSvit名義となり現在のスタイルで活動開始し、現時点で2枚のアルバムをリリースしている。

まだ活動歴は短いうえに一般的に人気のあるジャンルではないにもかかわらず、動画やストリーミングの再生回数が多く不思議に思っていたのだが、どうやらアゾフ連隊(ウクライナ国家親衛隊に所属する準軍事組織)が、SadSvitの1stアルバムのタイトル曲『касета 』を動画のBGMとして使用したことで知名度が上がったようだ。

彼の楽曲は、「SadSvit = 悲しい世界」という名前の通り、ギターのアルペジオや切ないメロディーを特徴としたメランコリックで疾走感のあるポストパンクを特徴としている。

ロシアのMotoramaや以前別の記事でも紹介したПеремотка、初期のCaptured Tracks等にも通ずるものを感じるサウンドだ。

Небо

Morwan

Morwan – Ubila mogila(2019)

MorwanはAlex Ashtauiによるポストパンク・ソロプロジェクト。

ウクライナとアラビアをルーツに持つ彼は、特徴的な低音ボイスやオリエンタルな要素を含んだ、どこか禍々しい雰囲気が漂う独自のダークウェイブを展開している。これまで2枚のアルバムを発表しており1stはカセットテープ、2ndはレコードとカセットでもリリースされている。

彼が拠点にしていた地域はキエフ。今回のウクライナ侵攻で甚大な被害を受けた場所だ。実際に彼の自宅も戦火に巻き込まれ、リュック1つと自作の曲が入ったPCだけを持った状態でキエフを脱出。現在はベルリンで生活している。

(SNSで「今ロシア軍による攻撃が行われている」という投稿の後、しばらく更新が途絶えた時は流石に不安で気が気ではなかった…)

仲間やファンの人々の寄付金により機材も購入でき、音楽活動も再開しているようだ。いつか彼の新しい楽曲もいつか聴けることを楽しみにしている。

Все будто сон

Kurs Valüt

Kurs Valüt -Kurs Val​ü​t(2021)

Kurs Valütはウクライナのミニマルウェイブを再考・普及することに焦点を当てて2017年に結成されたエレクトロ・デュオ。ウクライナ語による歌詞に、EBM/コールドウェイブ/シンセポップ等をミックスしたそのスタイルは”Dnipropop”と呼ばれている。

彼らは2018年に1stアルバム『Veselo』、2021年にセルフタイトルの2ndアルバムをリリースしている。

少ない音数やシンプルなベースラインで構成された彼らの楽曲はミニマルな造りだが、程よくキャッチーなメロディーがモノクロームの世界観に僅かな色彩を与えている。

ウクライナのポストパンクは冷たい質感の電子音に強い印象を受けるが、彼らの楽曲やアートワークはその中でも特に洗練されているように思う。

Karantin

Bichkraft

Bichkraft – mascot м​а​с​к​о​т(2015)

2014年にDima NovichenkoとJenia Bichowskiを中心に結成されたポストパンク/ノイズロックバンド。

ベーシストにSerzh Kupriychukを加えたトリオ編成でレコーディングしたアルバム『Mascot』がブルックリンの名門インディーレーベルWharf Cat Recordsからリリースされた事で注目を集めた。(以降のアルバムも全て同レーベルからリリースされている)

The Jesus and MarychainやThe Velvet Undergroundを彷彿させるサイケデリックで気怠いギターノイズとThe Fallのようなポストパンクサウンド、さらにインダストリアルまで融合した楽曲は、暴力的でありながらダンサブルで今聴いても衝撃的だ。

メンバーにZenya Fenecを加えて4人編成で制作された2nd『Shadoof』ではドラムマシンを導入し、結成当初からの狂気的なノイズはそのままに、冷たくダンサブルなビートを手に入れることに成功している。

ちなみにこのアルバムは、キエフのロシンスキー地区にあるゴミと瓦礫が散乱した土地の中央にスタジオを建設してレコーディングされたらしい。

3rdアルバムリリース後は活動休止していたのか、残念ながら彼らのSNSは2019年から更新が止まっている。現在のメンバーの情報見つけられなかったが、なんとか無事でいて欲しい。

“Stain of Rest” (Official Video)

Small Depo

Д​Э​П​О – П​Р​О​С​Т​О​Й(2022)

2014年に結成されたポストパンクバンド。自らのスタイルをHomeless Post Punkと呼んでいる。

ソ連時代の代表的なポストパンクバンドであるКиноやNautilus Pompiliusの雰囲気も感じるダークなサウンドが非常にかっこいい。

初期音源はベーシックなコールドウェイブが多いが、今年リリースされたEP『п р о с т о й』ではアコーディオンでトラディショナルな要素を取り入れたり、女性ボーカリストのINGRETをフィーチャーしたバラードを収録するなど、楽曲の幅が大きく広がった。

Ne Otpuskaet Nikogda

ウクライナのポストパンク・アーティストは、ソ連時代のポストパンクからの流れや、不安定な情勢の影響もあるのか、凍てつくようなダークさを纏ったサウンドが多く見られる。そして多くのアーティストが、その中にウクライナの景色を思われるような美しいメロディーを秘めているように思う。

ここで紹介しているアーティストが気になった方は、他にもたくさんのアーティストが楽曲をリリースしているので、YoutubeやBandcamp等を駆使して是非いろんなアーティストを聴いてみて欲しい。

また、ZINE「PØRTAL ISSUE SEVEN」の「RUSSIAN INDIE GUIDE」で、侵攻開始後のロシアとウクライナのインディーシーンについて少し触れているので、興味がある方はこちらもチェックしていただけると嬉しく思う。

最後に、一刻も早く戦争が終わり、ウクライナの人々が安全に暮らせる日が来ることを心から祈っている。