Estonian Funk Guide

text by Ashira/NOBODY

前回のロシアのファンクについての記事でも少し触れたが、旧ソ連圏であった東欧エストニアにも、ソ連時代のファンクの遺伝子を受け継ぐような興味深いアーティストが存在する。今回はエストニアの現行ファンクから代表的なアーティストを紹介したいと思う。

Misha Panfilov

エストニアの現行ファンクシーンの最重要人物、それがMisha Panfilovだ。
マルチ奏者であるMisha Panfilovはソロ名義でのリリースはもちろん、Misha Panfilov Sound Combo名義でのバンドスタイルや、Shawn Leeとの共作など多様なプロジェクトで数多くの作品をリリースしている。

Planetarium

2015年にFunk Night RecordsリリースされたMisha Panfilov Sound Combo名義での1st 7inch。シネマティック・ジャズを彷彿させるホーン隊やフルート等壮大なサウンド・スケープに、初期の彼らの特徴とも言えるスペーシーなアレンジも心地良い。デビュー曲とは思えない完成度の1曲だ。

Soul Strut

デトロイトのファンク・ディーヴァCokoをフィーチャーしたMisha Panfilov Sound Combo名義での7inch。スモーキーなファズギターをバックにCokoがソウルフルにシャウトするキラーソング。ファンクのリスナーだけではなく、ガレージロックがお好きな方にも是非聴いて欲しい。

Freaky Tiki Cafe

Ping Pong OrchestraやYoung Gun Silver Fox等でも活躍するマルチインストゥルメンタリストShawn Leeとのコラボアルバム「Paradise Cove」から。民族的なパーカッションや掛け声とオリエンタルなシンセが絡み合う。どこか辺境のカフェを想像させてくれる不思議な1曲だ。

Road Home

同郷エストニアで活動するJanno Jurgensが監督を務めた映画「Rain」のサウンドトラックの収録曲。この映画のスコアをMisha Panfilovはソロ名義にて担当している。温かみのあるコーラスと軽快なギターカッティングが美しい。この曲の他にもハードなガレージロックやアンビエント調の曲など、実に幅広いサウンドを収録した聴きごたえたっぷりのサントラとなっている。日本未公開のため映画は視聴出来ていないが、彼の音楽がどのように使用されているのかも気になるところだ。

Estrada orchestra

エストニアのディガーやミュージシャンが集まって結成されたサイケデリック・ジャズ・ファンクバンド。メンバーには先ほど紹介したMisha Panfilovも在籍している。

Zucker Tanzclub

2019年にお馴染みFunk Nightからリリースされたレコードの表題曲。3曲しか収録されていないものの、この表題曲は16分を超える大作となっている。

規則的に反復するミニマルなベースフレーズを骨格としており、そこに乗ってくるサイケデリックなギターや鍵盤で様々な表情を加えており、クラウトロックの要素も強く感じる。長尺ながら全く飽きずに楽しめるのは流石だ。

Nite City

フランスのStereophonkからリリースされた2ndアルバム「Jazzbeatjaatis」収録曲。メロウな雰囲気でスタートするが、徐々に熱を帯びていくサックスやギターがドラマティック。楽曲に見事にマッチした短編映画のようなMVも是非観て欲しい。

Penza Penza

2016年にデビューしたエストニアのファンクシーンを代表するバンド。リリースはFunk Nightから(1st 7inchのみ傘下のEEE ZEE Records)。全ての楽曲のプロデュースをMisha Panfilovが手掛けている。

Keep ‘Em Rollin’

2016年にリリースされた2ndシングル。硬質的でファンキーなベースラインと、アシッドなワウギターがクールなサイケデリック・ファンクソング。アルバムには未収ということもあり、是非7inchで手に入れたい1枚。

Why Do We Care About Anything?

1stアルバム「Beware Of Penza Penza」収録で、後に7inchとしてもリリースされた楽曲。繰り返される「Why Do We Care About Anything?」のフレーズとハンドクラップがご機嫌なキラーファンクチューンだ。

Neanderthal Rock

今年7月にリリースされたばかりの2ndアルバム「Neanderthal Rock」の表題曲。彼らの楽曲は今まで3分前後のものばかりだったが、こちらは6分超えの長尺のナンバーで新たな試みを感じ取れる。タイトルから連想する通り、ロック色も強い1曲。プリミティブな荒々しさを感じるギターサウンドがかっこ良い。

Doktor Normal

Funk Embassyから2019年にデビューアルバムをリリースしたエレクトロ・ファンク/レトロ・ホップユニット。これまでのアーティストとは少し毛色が違うが、なかなかユニークな存在なので紹介させていただきたい。

Freaky Jam

デビューアルバムの冒頭を飾るナンバー。レトロ感溢れるシンセサウンドで奏でる80’sライクなエレクトロ・ファンク、そしてオールドスクールなラップ。2019年とは思えないスタイルだが、こういうサウンドが現代のエストニアから現れるという意外性と、この独特の抜け感がクセになり逆に新鮮に聴こえてくる。

Chase Da Flow

同じくデビューアルバムから、80’sシンセ・ファンクナンバー。エストニアには、80年代に活動していたUku Kuutという伝説的なエレクトロ・ファンクのミュージシャンがいるのだが、彼の影響も少なからず受けているのではないだろうか。

以上、今回はエストニアの現行ファンクから4組のアーティストを紹介させて頂きました。最後に、今回取り上げたアーティストに興味を持った方に是非聴いて欲しいコンピレーションアルバムを紹介したいと思う。

Marju Kuut – Üksi, Kuid Vabana

これは2019年にFunk Embassyからリリースされた「Groove of ESSR」というコンピレーションの収録曲。1974年~1988年の旧ソ連時代のエストニアで制作されたファンク、ディスコ、フュージョン等をレアグルーヴ的視点で集めたアルバムとなっている。(ちなみにこの動画の楽曲を歌っているMarju Kuutは、Doktor Normalの紹介時に名前を出したUku Kuutの母親である)

現行エストニアファンクのルーツを辿れるだけでなく、なかなか情報が入ってこないソ連時代のエストニアに存在した驚くべきファンクミュージックの数々楽しめる好盤となっている。現行のファンクアーティストと一緒に是非チェックして欲しい。