The ClashとR&B

The Clash

text by Hajime Murakami
Mule Team,Flower Zombies

前回ジャマイカ音楽について考えてみたThe ClashとThe Clashにまつわる話、R&Bについても考えてみたいと思います。

ジョーはThe Clashの音楽を「ミックの新し物好きと、ポールのレゲエ好きと、自分のR&B好きが上手くミクスチャーした結果」みたいな言い方をしている(トッパーの貢献度も高いと思うけど彼のことはどう言っていたかな…)。確かにジョーがThe Clashの前にやっていたThe 101ersは、パブ・ロックと表現されるシーン?の中では、やはりDr.Feelgoodなどと同ベクトルを持っていた(が、同レベルには達しなかった)バンドだと思う。Chiswickから出た音源などはパワー・ポップ的に語られたりもしますが、全体的には初期ストーンズからの流れのR&B(勿論カバーを含む)をパンク前夜の勢いで、というような。

そんなジョーがピストルズを観てそれまでやってきた事は全て終わったと感じThe Clashに加入する訳ですから、初期The ClashにはやっぱR&B色はあまり感じない。むしろThe 101ers の未発表音源を聴いたりすると後のThe Clashの曲をもっとR&B的にやっていたりします。なので、ジョーの?The Clashの?R&Bへの想いが開花するのは、月並みですがやはり3rd「London Calling」。そこで登場するのが前回に引続きプロデューサーのガイ・スティーブンスの存在です。

Guy Stevens(1943-1981)

前回も紹介していますが、ガイ・スティーブンスと言えばやはり60年代にUK SueレーベルでアメリカのR&Bを紹介した人として有名ですが、それ以前からR&Bマニア、DJとして活躍していたそうです。The Rolling StonesやThe Small Facesのメンバー、The Who(当時はThe High Numbers?)のマネージャー(ここがミソ)などが、こぞって彼の家やDJをするクラブに押し掛けて情報収集していたらしい。彼がUK Sueで紹介していたのは、当時リアルタイムのものから遡って50年代のものまで、UK Sue と名打っているもののただ単にアメリカのSueレーベルの音源だけをリリースしていたわけではなく他レーベル含め自分でチョイス/コンパイルしたものだったのです。当時のBeat/Modバンド達がそういうものに影響を受けて自分たちの音楽を作り上げていったと考えると…ガイはChuck Berryファン・クラブもやっていたらしく、ジョーはレコードのライナーでガイの事を知っていたそうです。

話がそれかけましたが、そんなガイを迎えての3rd 「London Calling」 です。前回の繰り返しになるのですが、やはり印象に残るのは「Rudie Can’t Fail」「Wrong’em Boyo」などニューオリンズ~スカへの繋がりをハイブリッドに表現した曲。ガイは60年代にIsland UKというジャマイカ音楽のレーベルも手掛けており、スカは英国でBlue Beatと呼ばれこれまたBeat/Modな方々に愛された音楽と考えると、やはりこれはガイいてこそだったのでしょう。そしてそれは当時のリアルタイムのレゲエも好んだメンバーだったからこそ(+マイキー・ドレッドの影響もあり)4thの「Junco Partner」のレゲエ/ダブ的アレンジにまで繋がっているのかなと思います。

ニューオリンズ物と同じく影響としてよく言われているのがBo Diddleyです。

Bo Diddley(1928-2008)

London Callingの収録曲「Hateful」がそのリズムを取り入れた曲などと言われたりしますが、意識して(しなくても?)聴いてみるとちょっと違う?むしろ前述の「Rudie Can’t Fail」の間奏の方が…とか思いますが、そもそもニューオリンズ特有のセカンド・ラインと呼ばれるリズムはBoリズムと似ているし、どちらにしろその辺がヒントになって出てきたリズムに感じます。実際にジョーはBo Diddley好きを公言していたし、ブートのライブ盤ではあまり格好良くない「You can’t judge a book」のカバーも聴けます。共演した時の楽屋写真もありますね(なんとその時はBo DiddleyがThe Clashの前座!)。いわゆるBoリズムの曲としては5thの2曲目「Car Jamming」も。アルバムでの続く2曲は所謂代表曲ですが「Should I  Stay…」はブルース進行が元になっているし、「Rock The Casbah」はボンゴ入りのラテン(R&Bとまでは言えないかもですが)のリズム。当時最先端のサウンドを目指した?アルバムで黒っぽい流れを狙った曲順と勝手に思ってます(A2~4の3曲)。そういう耳で聴くとかなり気持ちいい。

それ以外にも4th「Sandinista!」では所謂Motownな曲もオマージュたっぷりの曲名でやっていて愛は感じますが、MotownはThe Jamに任せた方が良かったかもですね。他にMotownの曲では、当初未発表で後に「Clash On Broadway」に収録されたModアンセム(なのかな?)ブレンダ・ホロウェイ「Every Little Bit Hurts」のカバーもありますが、これもまぁ…このテイクは早死にしたガイに捧げた曲だったっけと思って調べたら、それは「Midnight To Stevens」でした。

時系列前後しますが、また飛ばしかけてしまった2nd「Give ‘Em Enough Rope」収録曲について。「Julie’s Been Working For The Drug Squad」は、今回のテーマ的に言うと隠れたThe Clash流R&Bなのではと思ってます。Aメロはブルース進行が元になっているし、何と言っても曲調がマンボ・リズム。マンボR&Bを白人がカバーしたような、例えばエルビスの「Hound dog」のようなノリで最高です。ブレイクでジョーが叫ぶ「ガンボ!」もニューオリンズを連想させますが、僕の英語力で歌詞を読み返してみた限りではその辺の関連は分かりませんでした。誰か分かるのであれば教えて欲しいです。

最後にみんな気づいているであろう、でも敢えて言いたかった「Capital Radio」のサビの話。あの進行ってベタだけどポップでカッコいい進行の代表みたいな感じですよね?僕らは若い頃クラッシュ進行なんて呼んで、当時のバンドの曲作りでは自分達でまた出た!なんてよく言ってた思い出も。あれってただ単にドゥーワップの進行倍速にしただけじゃん!なんですが、パンクロックから入ってるからそりゃThe Clashのが先だよねって。ただそれだけなんですが…

R&Bを始めとする50~60年代(を中心とした、黒い、でもそれだけではない)音楽への興味はもちろん今でも続いていて、その切り口の幅も様々になっていますが、きっかけの1つがThe Clashでした。R&Bやジャマイカ音楽だけに留まらないこともまた然り。大げさかもしれないけれど、今みたいな音楽との接し方のきっかけをくれたのがThe Clashなんじゃないかと思っている次第です。

調べ切れなかった箇所は間違いがあるかもなので、その辺は優しく指摘してもらえたらありがたいです。