Post-Punk Discovery
text by Ashira/NOBODY
これまで僕のin the middleの記事ではロシアやスペイン、ユーゴスラビアなど、国ごとにフォーカスして色々なアーティストを紹介してきましたが、今回は国や地域に関係無く最近聴いて気に入ったポストパンクのアーティストを紹介したいと思います。
Plague Pits
個人的にここ最近のポストパンクの中で最も衝撃を受けて愛聴しているのがPlague Pitsだ。Plague Pitsはスイスのベルンを拠点とするポストパンク・コレクティブ。
昨年2021年末に最初のEPをBandcampで発表して以来、かなり速いペースでEPをリリースしている。現在はSpotify等のストリーミングサービスで楽曲を聴く事ができるが、元々Bandcampでの配信と極少数のカセットテープのリリースのみという状況ながら、初期のカセットテープは完売(中にはプレオーダーの時点で完売となったものも)しており、一部のポストパンクやコールドウェイブの愛好家からは注目を集めていた。調べた限りではメンバー構成もその姿も情報が無くミステリアスな存在である。
そんなPlague Pitsのサウンドは、80年代のアンダーグラウンドなDIYエレクトロニックテープカルチャーにインスパイアされた、ミニマルで退廃的なコールドウェイブだ。
躍動的でダンサブルなシンセサウンドやドラムマシンが作りだすリズムをベースに、時に暴力的な金属音や、様々なエフェクトを施されたボイスがリズミカルに重ねられた彼らの楽曲は、ディストピアのディスコミュージックといった印象だ。
初期の4曲入りEP3作品の後にリリースされた7曲入りEP『Transnecropolitan』ではよりミニマルなアプローチにシフトしている。2曲目に収録された『The Frozen Ground』はミニマルなシンセサウンドだからこそ際立つドラマチックな展開が素晴らしい名曲だ。
気になった方は是非カセットテープも入手してみて欲しい。
The Frozen Ground
Zack Zack Zack
Zack Zack Zackはトルコ出身で現在はオーストリアのウィーンで活動するYigit BakkalbasiとCemgil Demirtasによるポストパンクデュオ。2021年に『EP1』と、このEPに追加曲を収録してLPにした『Album1』をリリースしている。
彼らはトルコをルーツに持つだけありオリエンタルな要素が随所に見られ、それをメランコリックでダンサブルなダークウェイブ/ポストパンクと融合させる事で独自のサウンドを創り出すことに成功している。
中でもアルバムのリードトラックである『Bütün』は、淡々と刻まれる重厚なビートに、クラップ音やトルコの伝統的な楽器であるサズを効果的に差し込んだ強烈な1曲だ。
他にもクラウトロックの影響も感じる『Alles Was Du Hast』や、レトロフューチャー的で(良い意味での)いなたさ溢れるディスコトラック『Disco Traurig 』、女性ボーカリストとサックスをフィーチャーした『This Feeling』など幅広い楽曲を制作している。
今年になり公開された新曲『Ev』ではミニマルなシンセのフレーズを主体とした疾走感あるサウンドに、(おそらく)サズをエレキギター風に取り入れたりと更なるアイディアが。いずれリリースされるであろう『Album2』に期待したい。
Ev
Bendi Boi
韓国でこの手の音楽を作っているアーティストをあまり知らなかったのだが、最近になって素晴らしいアーティストと出会った。Bendi Boiは韓国のソウルを拠点とするキムシンジによるソロ・ダークウェイブプロジェクト。
2021年から配信での楽曲リリースを開始し、今年になってアルバム『Meine Gäste』とEP『Hochzeitstag』をリリースしている。
初期の音源はJoy DivisionやLebanon Hanoverを彷彿させる陰鬱なポストパンクといった印象だ。『Meine Gäste』では少し韓国らしさが色濃くなったようなメロディーや、EBMを思わせるエレクトリックサウンドが強くなり独自のダークなサウンドを創りあげている。
Chopovian Rock
Isolationsgemeinschaft
最初に紹介したPlague PitsのBandcampページでオススメされて知ったのがこのユニット。Isolationsgemeinschaft はChristoph DittmannとJan Gasserによるベルリンを拠点とするデュオだ。
2020年に『Isolationsgemeinschaft』、2022年に『Der Tanz geht weiter!』という2枚のアルバムを発表している。
Depeche Modeを思わせる軽やかで少しゴシックなシンセサウンドを主軸としたコールドウェイブがかっこいい。また、ドイツということもありNeue Deutsche Welleの要素も随所に感じられる。2ndアルバムに収録された『Leere』や『Schwätzer』などはDAFのファンにも是非ともオススメしたい。
Leere
Unschooling
Unschoolingはフランスを拠点とするポストパンクバンド。2019年に1stアルバム『Defensive Designs』、2021年にEP『Random Acts Of Total Control』を発表している。
ここ数年のインディーロックシーンでは、ポストパンクスタイルの若いギターバンドたちが大勢活躍しているが、その中でも彼らはノーウェーブの影響を感じる実験的で殺伐としたサウンドで特異な存在感を放っている。不安定で落ち着きの無い曲構成やリズム、『Boo Boo Dragon』ではおもちゃ(?)のような音を取り入れたりと、とにかくカオティックな楽曲が大きな魅力だ。鋭角的で痙攣気味なギターはやはりContortionsを連想させる。
More Is More
La Texana
メキシコのティファナ市出身のJosué Ramírezによるソロプロジェクト。
2021年に最初の音源である『Nunca he sabido amar』が配信でリリースされると、ソビエトウェイブにも通じるローファイでメランコリックなポストパンクサウンドや、50年代のダンサーの映像を曲に合わせてテンポを変えた不思議なMVがポストパンクリスナーから注目を浴びる事となった。
その後もDIY感のあるポストパンクサウンドをベースにリリースを続けており、中には『Más daño me harás』『El Ciego』等、おそらくアコーディオンと思われる楽器を使用したユニークなアプローチもあって唸らされる。
今年10月にBandcampで配信が開始された『Debut』は、これまで配信でリリースされた楽曲をアルバムとして纏めたものだ。気になった方は是非こちらを聴いてみて欲しい。
ちなみにこのアルバムのリリースで初めて知ったのだが、驚くべきことに彼はまだ19歳という若さ。今後どのように進化していくのかますます楽しみだ。
Nunca he sabido amar