Spanish Post-Punk Discovery

text by Ashira/NOBODY

前回・前々回の記事ではロシアのポストパンクについて紹介したが、今回は個人的にロシアシーンと同じくらい注目しているスペインのポストパンクを紹介したいと思う。

スペインと言えばEsplendor Geometrico やEuropaなど、80年代からダークウェイヴ やインダストリアル、シンセポップを演奏するアーティストが多数存在していたことも知られており、近年も「La Contra Ola」や「Sombras」のような80’sの音源を集めたコンピ盤が発売されるなど、今なお新たな発掘が続けられている。

現行のバンドでも、ポストパンクのリスナーだけでなく幅広い層のインディーロックファンに愛されているMournや、女性ボーカルのポストパンク/コールドウェイブの代表格Belgradoなど世界的に認知されているアーティストも多い。

今回の記事では、まだ日本であまり紹介されていない新世代のアーティストを中心に、是非オススメしたい5組を紹介する。

Depresión Sonora

Depresión Sonora-Depresión Sonora(2020)

現在のスペインのポストパンクシーンにおいて最も注目を集めているのは彼だろう。Depresión Sonora はMarcos Crespoによるプロジェクト。

2020年に「Ya no hay verano」や「Hasta que llegue la muerte」 といった楽曲を配信開始すると、それは驚異的な速さでポストパンクリスナーたちに発見され、僅か数か月で数百万再生を記録した。これらの楽曲を収録したセルフタイトルのEPはマドリードのレーベルSonido Muchachoからヴァイナルリリースされた。

メランコリックなギターサウンドに乗った陰鬱なボーカル、疾走感のあるサウンドは、Joy DivisionやThe Cureのようなポストパンクの先駆者だけでなく、ロシアのポストパンクからの影響を大いに感じる。

実際にSpotifyのアーティスト プレイリストを見るとPlohoやUtroといったロシアのバンドも多くセレクトされているし、筆者も情報無しで始めて彼の音楽を耳にした際は、彼がロシアのアーティストだと思っていたくらいだ。

こう書くと典型的なダークウェイブ/コールドウェイブのサウンドを連想するかもしれないが、決してそうではない。Depresión Sonora は彼の最大の特徴である、やたらと手数の多いリズムマシンが作り出す躍動感と、キャッチーなメロディーにより、どこか”陽”の要素を感じさせる独自のサウンドに昇華させているのだ。

2021年にリリースされた2枚目のEP「Historias Tristes Para Dormir Bien」では、前作からの流れをくむ「Apocalípsis Virtual」のような曲だけでなく、Depresion Sonora流のバラードともいえる「Tú no me tienes que salvar 」など楽曲の幅も広がったように思う。今後も進化を続けるであろう彼の作り出すサウンドに是非とも注目して欲しい。

VVV [Trippin’you]

VVV [Trippin’you]-Turboviolencia(2021)

VVV [Trippin’you]は3人組のダークウェイブ/シンセパンクバンド。2018年に1stアルバム「L’Ennui」でデビューして以来、これまでに3枚のアルバムをリリースしている。

1stアルバムの「L’Ennui 」では、ややローファイで隙間のあるポストパンクサウンドであったが(これはこれで良いのだが)2ndアルバム「Escama」ではより強固なエレクトロサウンドを取り入れ、BPMもかなり速い曲が多くアグレッシブな内容となっている。

2021年にリリースされた最新アルバム「Turboviolencia」は、高い評価を得た「Escama」を軽く超える非常に高いクオリティとなっている。ベースとなる音は前作から変わらないが、ブレイクコアやドラムンベースのスタイルも飲み込んだアプローチを展開しており、エレクトリックミュージックという面でのクオリティは更なる飛躍を遂げたように思う。

エモーショナルなメロディーのボーカルによって歌われる世界観は、怒りや罪悪感をテーマにした悲痛な歌詞が多く見られる。攻撃的な楽曲だけでなく、ミドルテンポの曲も散りばめられ、アルバム全体の構成に緩急がつけられている。

中でもアルバムのちょうど真ん中に収録された「Monstruo」は、静謐なピアノを主軸とした美しいサウンドで、彼らの新境地と言ってもいいのではないだろうか。エレクトリックミュージックへの深い敬意を感じる彼ららしく、リミックスアルバムのリリースにも積極的だ。(ちなみに「Escama」のリミックスにはDepresion Sonoraも参加している)

最新作「Turboviolencia」のリミックスアルバムも予定しているとの事で、完成が楽しみだ。

Nueve Desconocidos

Nueve Desconocidos-Llagas(2021)

Ares Negrete によるダークウェイブ・プロジェクト。2021年から配信にていくつかのシングル曲をリリースした後、1stアルバム「Primer Disco de Nueve Desconocidos」を発表した。このアルバムは80’sニューウェーブの空気感を顕著に感じる高いクオリティの作品になっている。

「Liagas」は不穏なシンセサウンドとリズム、サビ部分で爆発する叙情的なメロディーで構成された彼の象徴となるようなダークウェイブナンバーで幕を開ける。

その後も初期Depeche Modeを連想させる、ややチープで軽快なシンセポップ「Preguntas」や、アップテンポなドラムマシンと物憂げなギターのバランスがユニークな「Desaparecer」など良曲揃いだ。アルバムの最後には先ほど紹介したVVVをフィーチャーした曲も収録されている。

まだ始まって1年ほどのプロジェクトだが、Ares Negreteの佇まいはスター性もあり、ネクスト・ブレイクとして期待できそうな存在だ。

La Plata

La Plata-SM043 – Desorden(2018)

バレンシアを拠点とする5人組のギターロック/ポストパンクバンド。2018年に1stアルバム「Desorden」、今年2ndアルバム「Acción directa」をいずれもSonido Muchachoよりリリースしている。

「Desorden」では疾走感あふれるギターロックサウンドを披露。この国らしい情熱的でキャッチーなメロディーと、ジャングリーなギターサウンドが瑞々しい。

2ndアルバム「Acción directa」ではESGやTalking Headsといったクラシカルなニューウェイブ/ポストパンクバンドの影響が色濃く現れており、エッジの聴いたギターや躍動的なリズム隊によるダンサブルな要素が溢れている。シンセサウンドでほんの少しダークさも増し、前作からの明確な変化が伺える。

歌詞はスペイン語なので少々馴染みにくいかもしれないが、Franz Ferdinand、The Futureheadsのようなポストパンク・リバイバル期に登場したバンドや、Yard Act、Home CountiesといったUKの新進気鋭のバンドが好きな方にもお薦めのサウンドだ。

Triángulo de Amor Bizarro

Triángulo de Amor Bizarro-Salve Discordia(2016)

2004年に結成されたガリシアのロックバンド。ポストパンクの要素があるものの、どちらかというとシューゲイザーやオルタナティブロックの要素が強いサウンドなので、今回の記事で取り上げるか迷ったが、スペインのインディーシーンにおいても強い存在感を放つバンドなので紹介したいと思う。ちなみにスペイン語が分からなくてもピンと来てしまうバンド名は、New Orderの名曲「Bizzare Love Triangle」に由来する。

前述の通り彼らはポストパンクだけではない実に様々なスタイルを取り入れている。彼らのサウンドの最大の特徴はMy Bloody ValentineやJesus & Marychainを思わせるノイジーなギターサウンドと美しいメロディーだ。

中でも2013年の「Estrellas Místicas」では、ドリーミーなコーラス使いも素晴らしい屈指の名曲で、Ringo Deathstarrなどのファンにも気に入ってもらえそうな1曲だ。また、こちらも代表曲の1つである「Baila Sumeria」では、ギターと共に鳴り響くシンセにはNew OrderやThe Cureといったバンドの遺伝子を確かに感じる仕上がりになっている。

シューゲイザーやポストパンクの影響だけでなく、2020年の「Ruptura」ではハードなインダストリアル要素、「No Eres Tu」ではダブの要素を取り入れるなど進化を続ける様子も実に頼もしい。
スペインでは既に高い評価を得ている彼ら。引き続き注目しておきたい。

以上、今回は5組のアーティストを紹介させていただきました。

スペインのポストパンクシーンでは、ダークウェイブやコールドウェイブを軸とするアーティストが多いが、この土地ならではの情熱的なメロディーからか他の地域の同様のスタイルのアーティストよりもエモーショナルなサウンドが目立つように感じる。

まだまだ興味深いアーティストが隠れていそうなスペインのポストパンクシーン。もし気に入っていただけたら是非チェックして欲しい。