Russian Post-Punk Discovery Vol.3
text by Ashira/NOBODY
今回の記事は久々にRussian Post-Punk Discoveryです。
ロシアで活動するポストパンク・アーティストを紹介するこのシリーズ、今回も個人的に好きなアーティストの中から最近リリースがあったものを中心に5組紹介したいと思う。
Seven Knives
Seven Knivesはサンクトペテルブルク出身の3人組。詳しい結成時期は不明だが、SNSの投稿を見る限り、活動開始は2018年頃だろうか。
2022年にはアンダーグラウンドなCold Wave作品を連発するYoung & Cold Recordsから1stアルバム「BO3」をリリースしている。
レーベルのインフォメーションで“contemporary band from St-Petersburg”と紹介されている通り、Cold Waveの要素を含みながらも現代的で洗練されたエレクトロ・サウンドが魅力的だ。
リードトラックの『Some Igra』は徐々に盛り上がりを見せるミニマルなダンストラック。『Peresudies』ではNew Order等を連想するダンサブルなシンセポップなど、電子音をベースにしながらも楽曲の幅が広く、アルバムの最後までだれる事なく楽しめるクオリティは見事だ。
ロシアンポストパンクファンだけでなく、UKのWorking Men’s ClubやPVAのようなアーティストのファンにも是非オススメしたい。
Seven Knives – Some Igra
Интурист (Inturist)
ロシアを代表するポストパンクバンドの1つであるГШ(Glintshake)のギタリストЕвгений Горбунов(Evgeny Gorbunov)のソロプロジェクト。不条理、ランダム、予測不可能性に基づいて構築された日常生活に触発されていると語るこのプロジェクトは、ポストパンクを軸にしながらも正に予測不能で変幻自在なスタイルによる意欲的な作品をリリースしている。
代表作である2ndアルバム『Экономика』ではContortionsを連想させる鋭角的なギターや痙攣気味のサックスがカオティックな1枚で、最初に聴く作品として推奨したいアルバムだ。続いて発表された『Action!』はボイスサンプリングと電子音により構成されたアブストラクトな作品という全く異なるアプローチとなっている。4thアルバム『Комфорт』では再度ポストパンクスタイルに戻るが、2ndにあったような焦燥感は収まり、少し隙間のあるサウンド構成とトライバルなリズムが独特なグルーヴを生み出している。
そして2022年にリリースされた最新作『Незнакомка』では、スポークンワードや、ミニマルなギター、電子音で作られたエクスペリメンタル・ポップともコンテンポラリージャズとも言えるようない独創的な作品となっている。
このスタイルはГШでバンドメイトであるKate NVのソロ作とも通じるものを感じる。常にクリエイティブな作品に挑戦し続けるИнтуристに引き続き注目したい。
余談だが、楽曲のサウンドをЕвгений Горбуновが顔面とダンスだけで表現したような『Шел бы ты отсюда』のMVがかなりユニークで面白いのでこちらも合わせてチェックして欲しい。
Интурист – Шел бы ты отсюда
Дурной Вкус (Durnoy Vkus)
Дурной Вкус はАндреем Андреевымによって結成されたポストパンクバンド。
彼らは2019年頃から楽曲の制作を開始し、2020年にデビューEP『Светомузыка』をリリース。ロシアのポストパンクファンにはお馴染みのSierpien RecordsからはCDとカセットテープも発売されている。
Дурной Вкусの楽曲の特徴は何と言ってもメランコリックで美しいメロディーだろう。瑞々しく透明感に溢れたギターのアルペジオや、軽やかなリズムマシンの音はDiivやWild NothingsといったCaptured tracksのバンドや、80’sのネオアコともリンクするようだ。
楽曲とピッタリの美しいアルバムアートワークも魅力的。
まだシングル曲とEPのみのリリースしかないので、そろそろフルアルバムの完成を期待して待ちたいところだ。
Дурной Вкус (Durnoy Vkus)- Луна-1
Стереополина (Stereopolina)
サンクトペテルブルグを拠点とするKarina Morgunovaによるソロプロジェクト。
SierpienやНИИ、Maschina Records等、ロシアのポストパンクシーンを支える複数のレーベルからリリースがあり、ロシアのシンセポップの女王と言えるような代表的なアーティストだ。
ロシアのインディーをディグったことがある人なら、実際に耳にしたり、アルバムジャケットを見かけた事があるという人も多いのではないだろうか。
彼女のサウンドは80年代のニューウェーブやイタロディスコからインスパイアされた煌びやかでダンサブルなシンセポップ。こう書いてしまうと直球の80’sリバイバルに思えてしまうかもしれないが、聴いてみると同じようなスタイルの他のアーティストとはどこか異なる独自性も感じられる。それはやはりソヴィエトウェーブ特有のノスタルジックな哀愁が随所に滲みでているからだろうか。
Стереополина – Последнее свидание
Заговор (Zagovor)
モスクワと拠点とするKirill OvchinnikovによるDark Wave/Cold Waveソロプロジェクト。
不気味だが不思議とキャッチーなシンセ、静かにグルーヴを生み出す硬質的なベースライン、トライバルな要素も感じるドラムに、この国らしい低音ボイスが乗せられた極寒のポストパンクサウンドは、他には無い独自の中毒性を生み出している。
中でも2020年リリースのアルバム『Ретро』は良い意味で洗練され切れていない荒々しさや、隙間を感じるサウンドが魅力的で個人的にも大好きなアルバムだ(Sierpien RecordsとНИИからフィジカルのリリースもあったが買い逃したのが悔やまれる)
2021年の『Вещь』では初期よりもかなり色彩的になったシンセが聴けるが、呪いのような低音ボーカルとのアンバランスさによりこちらもまた初期作には無いユニークなサウンドに仕上がっており面白い。
まだまだ知名度は低いアーティストだと思うが、ロシアのインディーシーンを代表するポストパンクバンドУтро (Utro) や、N.D.W等お好きな方にも是非オススメしたい。
今年1月にリリース予定だった新作アルバム『Формула 1』は残念ながら2月に延期になってしまったようだが、アルバムの完成を楽しみに待っていよう。
Заговор – T4U
このようにロシアのアーティストたちは意欲的に楽曲のリリースを続けているが、現在(2023年1月)も続くロシア軍によるウクライナ侵攻による影響は大きく、反戦声明によりライブ活動を禁じられた者や、拠点をロシア国外に移さざるを得なくなった者も多い。
経済制裁によるPaypalのストップで、音源を購入するのも難しい状況だが、引き続きロシアの素晴らしいアーティストたちの事を発信していけたらと思う。