ヨーロッパのおすすめ小規模ヴェニュー巡り①
text by Hyozo-ゴヰチカ
欧米では一般的に、近所に来たツアーバンドの演奏を気軽に見に行くという文化がある。それは世界中からわざわざ自分たちの国に演奏しに来てくれているアーティ ストの姿勢への純粋なサポートでもあるのだが、主にホール公演よりも小さい規模で演奏するツアーバンドがドサ廻りする会場は、本格的な音楽ホールやPA環境を備えたライブスペースだけでなく、普通のレストランやバー、田舎町にひっそり佇む謎のイベント施設、普通の民家、レイヴのような屋外、など多岐にわたる。
ツアーバンドは毎日デカいFIATでそこに乗り付け、自らの手でドラムセットやアンプを搬入し、演奏してギャラと物販の売り上げでやりくりをするわけだが、ヨーロッパの場合オーガナイザーがミュージシャンとマネージャーたちの宿の手配も行うという慣例がある。まともなホテルに泊まれることもあれば、氷点下の中暖房もないようなゴミ屋敷に案内されるというエクストリームな日もあるように、会場やオーガナイザーによってその扱いは様々だ。
私がパンデミック前に同行したDe LoriansとSundays & Cybeleの2度のヨーロパツアーで印象的だったヴェニューをここで紹介したい。
イタリア編
Clandestino Faenza
ファエンツァという瀟洒な町にあるヴィーガンレストラン兼ライブスペース。深夜になるとディナーを楽しむ家族連れと入れ替わるように地元の音楽好きが集う。 ケータリングはヴィーガンパスタなど。朝は店のパンとカプチーノを入れてくれるというもてなしも嬉しい。グラッパもおすすめ。
Clandestino Faenza– Viale Alfredo Baccarini, 21, 48018 Faenza RA, IT
Retronoveau
シチリア島の港町メッシーナの会場。治安悪げな地域にポツンと立っているが意外と人が集まり盛況となった。イタリア人のナイトライフは基本的に夜更かしだがこ こは特に遅く、夜中の1時半に演奏がスタートし明け方4時過ぎまで会場はDJイベントで盛り上がっていた。シチリアの人々は心が暖かく、とてもタフなのがいい。
Retronoveau-Via Croce Rossa, 33, 98124 Messina ME, IT
Fanfulla
ローマの外れ、治安悪げな地域に立つこの会場は多国籍な客層で賑わい、とても盛り上がる。遠方から訪れる人も多く、ローマをツアーする際は押さえておきたい会場だ。
Fanfulla-Via Fanfulla da Lodi, 5/a, 00176 Roma RM, IT
ドイツ編
8mm Bar
ベルリンの中心街にあるミュージックバー。ベース音量に制限があり、小さな空間に設営するステージに難儀させられること間違いなしだが、とにかく若い客がたくさん来る。店内が狭く混雑し、物販を売りづらいという難点もあるが都会らしい活気があり、日本人客もよく訪れるおすすめスポット。
8mm Bar– Schönhauser Allee 177b, 10119 Berlin, DE
Hafenklang
港町ハンブルグにある会場。ステージも広めで、ケータリングも充実している。ベルリンはイメージ通り電子音楽やミニマルでクールな音楽が盛んだが、ビートルズ武者修行の地としても知られるこの街はもっと猥雑でロックな表現が似合う。
Hafenklang-Große Elbstraße 84, 22767 Hamburg, DE
UK編
Nice N Sleazy
ストラングラーズの曲名から命名されたと思しき、スコットランドはグラスゴーのライブスペース。客層は若者が多い。「Ogre You Assholeは来ないのか?」と客に聞かれるくらい日本のバンドに対する注目度が高い会場だ。グラスゴーは緯度が樺太くらい北にあるので、なるべく暖か い時期に来たいところ。ご当地グルメの雪のように塩をかけるフィッシュアンドチップスもいいが、普通に美味しい日本食が食べられる会場でもある。
Nice N Sleazy-421 Sauchiehall St, Glasgow G2 3LG, UK
The Shacklewell Arms
幅広い客層が訪れるツアーバンド御用達のロンドンの老舗ライブスペース。妙な作りのステージで面白い。自分たちが演奏した時はフロアに尿のような異臭が満ちて いたが、これも歴史の積み重ねだろうか。60年代UKの音楽シーンを知る生き字引のような観客とのコミュニケーションも楽しかった。
The Shacklewell Arms-71 Shacklewell Ln, London E8 2EB, UK
フランス編
Super Sonic
パリのツアーバンド御用達スポット。ステージの上の吹き抜けが3階まであるのがオシャレだ。レコード屋としても営業しており、この地域のロック文化をコンテンポラリーなものに更新し続けている。
Super Sonic-9 Rue Biscornet, 75012 Paris, FR
La Poulple
スイスとの国境近く、モンブランを眺める町レニエにあるライブスペース兼カフェ。ケータリングが充実しており、ステージも広く宿泊スペース含めホスピタリティに 安心感があるヴェニュー。
La Poulple -2484 Rte de l’Eculaz, 74930 Reignier-Esery, FR
実際のところたった2度のツアー経験で知り得たヴェニューの数は限られており、今 回はイタリア、ドイツ、フランスとUKの会場しか紹介できなかったが、他にもオランダやスイス、ベルギーなども音楽に対して開かれたマインドを持つ素晴らしい国であり、再び訪れたい地域だ。
2020年からの二年間はご存知の通りツアーバンドというライフスタイルの根幹に関わる部分で社会情勢の変化があり、我々のツアーを二回手配してくれたエージェントのZuma Bookingsもその余波で解散してしまった。日本のグループがヨーロッパをツアーすることは採算の面でハンデがあり今後はよりいっそう難しくなるかもしれない。とはいえ西洋音楽という世界のスタンダードを生み出した地域において音楽と日常の結びつきは日本とは比べ物にならないほど深く根付いており、あらゆるジャンルがあらゆる層に向けて開かれていると感じる。我が国において活動に手応 えを感じないアーティストは一度ツアーを検討してみてほしい。
そして毎日長距離を車で運転し、時にはPAも行い、ミュージシャンと苦楽を共にするツアーマネージャーという存在についても語るべきことは山のようにあるので、 また別の機会で触れたい。