Russian Post-Punk Discovery Vol.4
text by Ashira/NOBODY
まだまだ紹介したいアーティストが沢山いるので、今回の記事もRussian Post-Punk Discoveryです。今回もロシアのポストパンクアーティストの中から、最近リリースがあったものを中心に5組紹介したいと思います。
Chernikovskaya Hata
今回最初に紹介するのは、現代ロシアのポストパンクの中でもかなりの人気を誇る存在であるChernikovskaya Hataだ。
Russian Doomer MusicやSoviet Waveと呼ばれるMixやプレイリストには必ずと言っていいほど選曲されているので、耳にしたことがある方も多いかもしれない。
人気に反して情報が少ない彼らだが、公式の紹介では「地方の日常生活の安っぽさと大都市の狂ったリズムの両方を作品に混ぜ合わせ、ポストパンクのエネルギーを掛け合わせたプロジェクト」となっており、そのスタイルを「ポストシャンソン」と称している。
彼らのサウンドは80~90年代のソ連/ロシアの楽曲たちをコールド・ウェイヴでカバーするというスタイルである。
これまでにカバーされた楽曲は、ソ連最初のニューウェイヴバンドと言われるФорум(Forum)の代表曲『Белая ночь(Belaya Noch)』や、90年代から活躍するテクノDJ/プロデューサーであるОлег Кваша(Oleg Kvasha)の名曲『Зеленоглазое Такси(Zelenoglazoe Taksi)』など。どの楽曲も、原曲を知らなければChernikovskaya Hataのオリジナルと思ってしまうほど、しっかりと彼らのモダンでありながらダークなサウンドに落とし込まれている。
2018年の『Bledniy Barmen』以降リリースが無かったが、今年2月に久しぶりの新曲と思われる『Позови меня с собой』が公開された。こちらはロシアを代表する歌姫Алла Пугачева (Alla Pugacheva)のカバーとなっており、ロシアンポップのノスタルジックで美しいクラシックを見事に現代に蘇らせている。
Аудиопреступление(Audiocrime)
Аудиопреступлениеは2016年にエカテリンブルクで結成されたシンセポップバンド。これまでに3枚のアルバムをリリースしている。ちなみにどのアルバムのジャケットもあたかもこの女性が歌っているかのようなポートレイトだが、実際のメンバーは男性のみである。
彼らの楽曲は80’s~90’s初期のニューウェイヴやユーロビートからの影響を感じるロマンティックでダンサブル、そしてとにかくキャッチーなシンセポップ。しかしやはり単なるリバイバルに聴こえないのは、この手のロシアのアーティストが持っている独自の郷愁感とも言えるメロディーのせいだろうか。この紹介文を読んだり音源を聴いてもらっても分かる通り、前回の記事で紹介したСтереополинаとは相性抜群で、実際にコラボ曲もリリースしている。
次回のアルバムに収録されるであろう最新シングル『Мальчики вздыхают: “Ах!”』『кому ты такая нужна?』はベースラインがよりファンキーにアップデートされており、これまでのシンセ主体のサウンドとはまた一味違ったダンスサウンドが期待できそうだ。
Aудиопреступление-Молодость
MА́ITSA
MА́ITSAはサンクトペテルブルクを拠点とするポストパンク・デュオ。ロシアのインディーレーベルHИИからカセットテープをリリースしているが、情報が全く見つからず残念ながら詳細は不明である。Russian Doomer MusicやSoviet Waveとして紹介されるような他のアーティストと比較して、ゴシック/ポジパンの要素が強いダークで耽美なサウンドが特徴だ。
2022年にリリースされた現時点の最新作となる『В тумане невнятных обещаний』ではドリームポップ/ネオサイケに接近したような儚く美しいサウンドを奏でており更なる深化を感じさせてくれる。
現時点ではまだシングルとEPのみのリリースなのでフルアルバムにも期待したい。
MА́ITSA-J.R.V.F.
Июльские Дни (Iyulskie Dni / July Days )
Июльские Дниは2014年にニジニ・ノヴゴロドで結成されたポストパンクバンド。バンド名は 1917年にロシアのペトログラードで起きた七月蜂起(兵士や労働者達がロシア臨時政府に対して武装デモを起こした事件)に由来する。
力強さとメランコリックなメロディーを兼ね備えた疾走感のあるポストパンクサウンドはBauhausやSisters of Mercyといったバンドたちを連想させる。
初期の楽曲はギターを主体とした構成が目立つが、2020年にリリースされた『Я хочу стать твоим』はサックスやシンセを積極的に取り入れたサウンドで表現の幅を増やしており、個人的にも1番気に入っている作品だ。
今年3月にはСтереополинаとの共同製作によるシングル『Конец времён』をリリースしたばかり。この曲はバンドの音源で初めて女性ボーカルを用いたものとなる。
聖歌のようなアカペラで始まるこのシングルは彼らの楽曲の中でもトップクラスの美しさを誇る感動的な1曲だ。Bandcampでは配信されていないようだが、Apple musicやSpotify、itunes等で聴くことができるので是非チェックして欲しい。
Июльские Дни-Точкой
Lurve
Lurveはノヴォシビルスクで結成された3人組のインディーロックバンド。
元々はGaardenという名前で活動し、本格的なシューゲイズサウンドを奏でていたがLurveという名義に改名してポストパンク/ドリームポップに接近したサウンドに変化。2021年にオーストラリアのLibrary Group Recordsという小さいレーベルからセルフタイトルのデビューアルバムをリリースしている。
なお、Gaarden名義の唯一のアルバム『The Fall』も素晴らしいアルバムなので、シューゲイザーがお好きな方にはこちらもオススメだ。
Lurveに改名後のサウンドはThe WakeやThe Stone Roses、それにDiivやBeach Fossilsを連想させる儚さと透明感のあるギターフレーズや、疾走感あるリズムが大きな魅力だ。『Fake Friends』や『Small Talk』といった曲では、Gaarden時代の名残とも言えるようなノイジーなギターがほんのり登場しておりアルバムの流れにアクセントを加えている。
ロシアのポストパンクファンにはもちろんだが、Captured tracksのアーティストがお好きな方にも推薦したい。
Lurve–I Hate Your Face