:Playlist for Venus Occultation:

text by CHIRO – Photographer / DJ

11月8日。金星が月を隠す「金星食」という現象が起こる。私たちの体に男性、女性といった壁を超えて「男らしさ」「女らしさ」の概念から一気に自由になる日。

人間が無機物から有機物へなるために種を蒔くという作用が起こる気がしている。私の住むこの東京では13時46分41秒、南西の空に始まり、金星が月に隠れ始め顔を出す時、太陽の強い光が作用し、目の前と身体を真っ白にしてくれる。内なる傷を解放するそんな日に聴く音たちを紹介します。

Pan Daijing-Jade 玉观音

Pan Daijing-Jade 玉观音(2021)

この文章を書いている季節は10月。ベルリンを拠点とする中国出身のPan Daijingを聴きながらーこのアルバムの季節も9月のこの曲「Moema, forever」で終わってしまった。雨が降り、どんよりとした日に現れる池や沼に生息する色彩の鮮やかなメダカ。そして空想の中で鑑賞するLilja 4-ever (2002)のような景色が広がっていて、

Chelsea Wolfe & Emma Ruth Rundle-Anhedonia

触れるものに対して何かを感じる。人間のサイクル。今は金星食へとエナジーが向かう11月。それに反し私の体の中には路地裏にあるガラス瓶のよう。光の当たらない場所で何に対して喜びを感じるのか? 無快感症。孤立と共に眼を開き、夢を見る。その頭を、闇を取り巻いているのは、私くしの女神という名の奏の魔術師Chelsea Wolfe ーそして彼女の音を編み、幻想の人形を作り出すEmma Ruth Rundleによる「Anhedonia」は救いを与えてくれているのかもしれない。

Fronte Violeta  (FACT Magazine : Patch Note)

気づくと外には光が現れ、視界には東京というビルにあふれた街。そこには水がない。人間の体と同じに乾ききっている。物理的に水を飲んだ時、私の目は閉じることが出来て、この曲を思い出す。2016年に日本ツアーを行った、儀式を響かせるポストパンクバンドーRaktaのベーシストで、同年に私の写真展「Pain Chrisantemo」を開いた時には、サウンドヴィジュアルを制作してくれたCarla BoregasとAnelena Tokuによるユニット”Fronte Violeta”。カセットFalamaはRyo Murakami 主宰Depth Of Decayからリリース。彼女たちの街、サンパウロに水を与えるライヴレコーディング。足りない自然を求めながら、

D-day-Grape Iris

私たちは都会に生息している。人々の目に恐れが映し出されてきた時、足は森へ向かう。日が落ちていく中、森の過酷を知り道をさまよい始める。森が朝の顔から夜の顔に変わる時「Night Shift」の歌詞が蘇り、’80年代に夢を見る。2021年は軽やかなものなのか、もしくは鬱のような重さを感じながら生きているのか、たどり着く場所は私自身が知っている。 

Kelly Moran-Optimist

Kelly Moran – Optimist(2016)

樹海に迷い、人生を彷徨う。その足音は「Optimist」の見えない楽譜が作り出す、プリペアード・ピアノのトーンと合わさる。暗闇を駆けるような彼女のピアノは、ただ”美しい音”という言葉だけでは表現できない。その楽譜を頼りに木々の集合体の中を駆け抜ける私の目はPowers Of Ten(1977)のように俯瞰して自身をフォーカスし、

Rainforest Spiritual Enslavement-Flying Fish Ambience

Rainforest Spiritual Enslavement-Flying Fish Ambience(2021)

ある人物を目撃する。その人物はJOKERに釘を刺す、川鍋暁斎の姿をみているよう。Hospital Production オーナーであり、Prurientとしても活動するDominick Fernowである。彼の別名義、意思と本能をコントロールするような生命を生み出すプロジェクトRainforest Spiritual Enslavementは、第1幕の森を抜け、第2幕は川や海。今、私は生々しい魚を目の当たりにしている。“狂っているのは俺か?時代か?”海岸に辿り着くその魚が生と死を教えてくれた、

Vox Populi! -Mysticismes

Vox Populi!-Myscitismes(2020)

波打ち際に光る月の姿との会話の時間。「Avaze Dajodayi」。出なかった声がかすれ始め、音を外に吐き出している。その吐息は身体から聞こえてくる神秘的なパーティへの導き、その場所へと案内をしてくれている。

Cruz De Navajas-Dominacion

Cruz de Navajas-Dominación

耳に入った最初の音はドラムマシーン。その音が身体を揺らし、暗闇の街に生息し色彩を発生させるライトのように踊り出す。メキシコのポストパンクバンド Cruz De Navajas の「Ciudas 40」はオーガズムを感じる程に私を踊り狂わせる。ボーカルのシャノンと東京 新宿の路地裏で煙草を吸った時、彼女のカバンにはCocutau Twinsのパッチが縫い付けてあった。そう、自分が生きる街、人間という身体。金星食が終わり夜の空に見えるのは、三日月と金星が接近するようなお遊びの光景。