ガレージ期以後のLink Wray
text by Hajime Murakami
Mule Team,Flower Zombies
Link Wrayについてであれば他に適任者がいるのは重々承知、でもあえて書いてみようというやつです。一般的には「Rumble」を始めとする50年代終わりから60年代中頃の作品が有名で(レーベルだとEpic、Mala、Swan辺りが代表か)、ガレージ・パンク好きにとっては勿論定番、パワー・コードの発明や数多くの有名ギタリストにも影響を与えて云々…といった話だと思うのですが、ちょっと違った切り口で書いてみようと思いまして。
偉そうなこと言いましたが、どの時期のLink Wrayが好きか聞かれたら、僕自身も初期のガレージ期と答えると思う。でもそれは別に矛盾しているわけじゃなくて、例えばLink Wrayが好きな人でストーンズが好きな人は沢山いると思いますが、初期のガチャガチャしたR&Bパンクなストーンズも好きだし、一般的に黄金期と言われるミック・テイラー在籍時の70年代前半~中盤のストーンズも好きなんてよくあることじゃないですか。そう考えると、Link Wrayのその後について興味ある人がもう少しいたっていいのではないかと思ったんです。好きな人は好きでしょうが、日本語版Wikiなどには一旦リタイア状態だったなどと書かれていて、それは違うだろという気持ちもあり、そんな時期のLink Wrayについてです。
まずはセルフタイトル「Link Wray」(1971)。メリーランド州の農場の鳥小屋を改造したWray’s Shack 3 Tracksという自作スタジオでの録音です。このアルバムのジャケの通りLink Wrayのルーツがネイティブ・アメリカンにあるのは有名な話ですが、母親の故郷メリーランド州で、ソロと言っても兄弟であり盟友であるVernonとDougも含めたセッション。彼自身がルーツを見つめ直すような時期だったのかも知れません(ガレージ期後期の録音もここでやっていたという情報も目にしたことがあり、詳細調査不足すみません…)。
スタジオ名の通り3トラックで録ったそのサウンドは、非常にプリミティブ。と言っても生音中心で所謂ガレージ期とは全く違い、この時期のサウンドはスワンプ期などと言われていますね。スワンプ・ロックは語れるほどではない僕ですが、ピアノやマンドリン、ドブロなどがフューチャーされ、ブルージーで、時にファンキーだったり切なかったりブリブリのエレキ・ギターが入ったり…という感じのいい曲だらけです。そしてなんと全曲Link Wrayがリード・ヴォーカル。まぁ普通の事なんですが、初期Link Wrayのイメージはやはりインストな訳で。朝鮮戦争で肺を悪くしたことがそのスタイルのきっかけのようですが、実は60年代にもRay Charlesのカバーなど味のあるヴォーカル作品あり。ここではそれがむしろドはまりしているし、時に絞り出すように歌うのがカッコいいです。
曲について少し書きますと、僕が好きなのは特にラスト2曲の流れで、「Black River Swanp 」はマンドリン大活躍の泣きの名曲。そしてラスト「Trail Dragger」はWillie Dixon作Howlin’ Wolfのカバーです。あれ?気づいた方はご名答、ガレージ期にも同じくHowlin’ Wolf(Charles Clarkが元?)の「Hidden Charms」の激烈カバーやってますよね。サウンドこそ違えど、アレンジのエグさや歌が原曲と全然違うところ、ターンオーバーのフレーズなどはガレージ期を彷彿させます。Link WrayってChess/ Willie Dixon/Howlin’ Wolf好きなんだなーと思っていたら、Howlin’ Wolfの「Hidden Charms」と「Trail Dragger」、実は同じシングルのA/B面でした。そしてHowlin’ Wolfリスペクトについては、映画「ランブル 音楽界を揺るがしたインディアンたち」を観てなるほどと思ってしまった訳です。
続く音源はまた経緯が謎に満ちたアルバムMordicai Jonesの「Mordicai Jones」(1971)。そう、Link Wray名義じゃないんです。どういう事かというと、この音源上記「Link Wray」(1971)と同じセッション・メンバーでの録音なのでLink Wrayのアルバムとして数えられています。
ですがMordicai Jonesのリーダー・アルバムになっていることからも分かる通り、ヴォーカルはMordicai JonesでLink Wrayは歌ってません(アルバムの写真ではバックバンドのメンバー然とした写り方)。そして更なる疑問はMordicai Jonesって誰?って事なんですが、同セッションなので当然上記アルバム「Link Wray」にも参加している、マンドリンとピアノで大活躍のBobby Howardという人らしい。Mordicai Jones はBobby Howardのあだ名?別名?架空の設定?よく分かりませんが、どういう経緯があったのか、ジョークみたいなものなのか。サウンドは同セッションという事もあり、上記音源と完全に同じ空気です。Mordicai Jonesの歌はLink Wrayより甲高くてソウルフル。このアルバムもLink Wrayの歌で聴きたかったという声もあるようですが、Mordicai Jonesの歌もいいです。後にLink Wray自身の歌でリメイクする名曲「Walkin’ In The Arizona Sun」や、アコギながらガレージ期を彷彿させるギター・フレーズでカマす「Days Before Custer」など収録。
リリースは次作と前後しますが、このセッションのアウトテイクがアルバム「Beans And Fatback」(1973)として出ていますのでそちらを先に。正式音源ではあえてカットされたのかも知れない歪んだエレキ・ギターがブリブリの曲、彼のルーツに根差したスピリチュアルな曲、そしてマンドリンが大活躍する曲などが混在して取っ散らかってはいますが、曲はいいです。
リリースの時系列としては「Mordicai Jones」の後で「Beans And Fatback」の前のはず、「Be What You Want To」(1973)は上記3作と比べるともう少しカチッとした音作り。相変わらず曲はよくて、イントロとサビのゴスペル・コーラスが印象的なアルバム・タイトル曲や前述のMordicai Jonesの名曲の再録、Lloyd Price「Lawdy Miss Clawdy」のカバーなど聴きどころ多いです。
この頃から再評価が高まってきたのか、はたまた評価され続けていた初期ガレージ期を再度意識し始めたのか、そんな印象の次作が「The Link Wray Rumble」(1974)。
うーん、タイトルからして初期と混同しそうでややこしい…アルバムの出だしから自身の名曲「Run Chicken Run」や「Jack The Ripper」のフレーズの引用、ラストは「Rumble」再録。ボ・ディドリー・ビートの曲が入っていたり、ジャケに反してポップでバラエティに富んだロックンロール・アルバムでいいのですが、Link Wrayって考えるとちょっとアクが弱いか。ただ、この時期のライブ映像はこのアルバムのジャケの雰囲気のまんま、めちゃくちゃ凶暴でカッコいいです。
その後で有名なのはRobert Gordonと組んで、Robert Gordon With Link Wrayとしての活動でしょうか?2枚のアルバムに参加しています。Robert Gordonは、ネオロカの元祖などと呼ばれてる人ですが、60年代からキャリアがあるらしく、NY PunkのTuff Dartsに参加していたり、映画出演などユニークな経歴の持ち主です。この2枚はロカビリー/オールディーズ/R&Bなどのカバー中心のアルバムですが、Link Wray自身も曲書いてますし、意外なところではBruce Springsteenが曲を提供したりしてます。Link Wrayのギターはさすがの存在感。サウンドがロカビリーという事で、初期ともスワンプ期ともまた一味違った切り裂きギターが炸裂してます。
この後ももちろんLink Wray自身のキャリアは続きます。それ以外にも、こういった時期に彼がプロデュースしたバンド、彼の兄弟やレコーディング・メンバーの作品にも触れたかったり、前述の映画「ランブル」の話などもあったのですが(この映画、Link Wrayについてだけの映画ではないですが、面白いのでまだの方は是非)、字数もあるので…
最後に個人的には1番好きなだけどあまり話題に出ない気がするシングル「Rumble Mambo」(1963)を紹介。
曲名はまた勘違いしそうでややこしいですが、代表曲「Rumble」をマンボ調にアレンジしているのではなく、全くの別曲です。ホーンもフューチャーされたエキゾチック且つ凶暴なインストで、V.A.「Born Bad」シリーズやQ・タランティーノやR・ロドリゲスの映画にはこの曲が採用されても良かったのでは?と個人的には思うくらい。結局ガレージ期の話がしたいのかというツッコミについては冒頭の通りなので(この曲はガレージというよりExotica/Tittyshakerといった雰囲気が強いですが)、誰かその時期についての文章書いてもらえないかなーと期待しつつ終わりたいと思います。