ZEAニューアルバム”Witst noch dat d’r neat wie”
text by Takeshi Sato(満州候補者,in the middle)
前回、オランダのレジェンド・パンクバンドThe EXの現ボーカリスト、Arnold de BoerのソロプロジェクトZEAについての記事を書きましたが、今回2021年11月に発表した8thアルバム”Witst noch dat d’r neat wie”をin the middleのディストロに追加したので紹介します。
今作は15曲収録、56分の大作。アーノルドが幼少期から青年期を過ごしたオランダ・フィースラント州の第二公用語であるフリジア語を全曲で使用。アコースティックギターを中心とし、ストリングスや管楽器が時折入り込むシンプルな作風になっていますが、このスタイルは6th アルバムの”Moarn gean ik dea“をさらに突き詰めた続編とも言えると思います(7thアルバム”Summing”はOscar Jan Hooglandとのコラボレーション作品)。
ZEAを聴いたことがある人は、4thアルバム”The Begginer”に収録されている”Song For Electricity”に代表される電子音とトリッキーなギターが絡み合う、アフリカの音楽に強く影響を受けたサウンドのイメージがあるかもしれません。
なので1~5thアルバムのZEAのイメージを期待して新作を聴くと、若干物足りなさを感じてしまうかもしれませんが、今作はアーノルドが現在目指している音楽の方向性をより深く追求したものであるとも思います。(もっとも、彼自身は「アコースティックなサウンドは近年の自分の曲に合っているので取り入れているけど、特別アコースティックに固執しているわけではないよ」とのことでしたが)
実際自分も今作のサウンドを最初は意外に感じたりもしたのですが、アーノルドの解説や様々なサイトのレビューを読んでいくうちに印象が変わってきて、夢中になって繰り返し聴いています。また今回はフリジア語の歌詞に英語、オランダ語、また曲によってはベトナム語や中国語など多言語の翻訳が記載された16ページもの豪華なブックレットが付いています。
なぜそのような仕様にしたのかをアーノルドに直接聞いてみたのですが、
僕が初めてフリジア語で曲を書いたのは、母が亡くなった後だった。“The Swimming City album”(5thアルバム)の最後の曲の’Ik kin der net by’だったんだけど、母についての歌詞は英語ではしっくりこなかったんだよ。”母語”で書く必要があったんだ。”Moarn gean ik dea “(6thアルバム)でも再度レコーディングしたんだけど。 その曲を書いた時、まるで自分の心の中で…今まで気づいていなかった部屋への扉が開いたような気持ちがしたんだ。その中にいる時は以前に作っていた音楽より、もっと個人的で密接で、暗く響きのある音楽を表現することができたんだ。
もちろん英語でもまだ曲を書いているけど、英語の曲はより外の世界、僕の目の前にある世界について歌っているものなんだ。去年作った”SUMMING”(7thアルバム)はコラボレーション作品で英語で曲を書いたんだけど、今も他のアーティストと新しい作品を作っているよ。今回は英語以外にも曲の背景に合わせて様々な言語の訳詞を付けているけど、多言語を用いることで世界中のアーティストからお互いに学ぶことができると思うし、それらをまた新たな音楽に還元してシェアできるのは素晴らしいことだと思うんだ。
とのことで、 歌詞と言語にも強くフォーカスしているのが伺えます(歌詞の日本語訳も今後行ってみたいです)。 一聴するとシンプルな構成の作品ですが、背景やコンセプトを探ることでどんどん深みが増してくる作品です。
収録曲に関してもいくつかピックアップして解説していこうと思います。
1.”Witst noch dat d’r neat wie”
アルバムのタイトル曲であり、ミニマルなフレーズに疾走感のあるドラムが効果的で、アコースティックな楽器で演奏しているとは思えない位の迫力を感じます。
2.”De Doar”
独特の蛇行したギターフレーズが印象的。アーノルドのギタープレイはどの曲も丁寧に作り込まれていながら、音やタイミングの外し方が恐ろしく効果的で、曲に強い引力を出していると感じます。このギタープレイでThe Exにおいても、アンディ・ムーア(Gt)とテリー・エックス(Gt)のバランスをとり、凄まじいアンサンブルを作り出す土台になっていると思います。
5.”Fuort”
このアルバムの中でも特に強いインパクトを残す曲。序盤のアメリカーナ風のスポークンワードから、静寂を切り裂くようなスライド、ギターボディをパーカッションにするプレイはアーノルドによるデザートブルースの独自解釈とも言えるでしょうか。家から出ようとしても出れない人の事について歌っているとのことですが、もちろんコロナウイルスによるパンデミックのことでしょう。恐ろしくカッコいいライブ映像もあります。
7.”Wat Moatte Wy Dwaan As Wy Gjin Jild Hawwe”
アイルランドのバンドLankumの”What will we do when we have no money?” のカバー。たまたまソーシャルメディアでその曲を聴いた際に、歌詞の内容が自身を含む多くのアーティストのコンサートやツアーがパンデミックによってキャンセルされた(収入源を失った)ことと深くリンクしたとのことです。ZEAではフリジア語に翻訳してカバーしています。
The ExでもFugazi,Tortoise,konono n°1など同時代に活動するバンドと競演、その影響をストレートかつ嫌味なく自身のサウンドに取り入れていて、これがまた彼らのカッコいいところだと思ってます。私もバンドをやっていますが、同世代で活動するアーティストをちょっと斜に見てしまう癖がありますがいけませんね..見習わねば。
9.”Doch Noch
アフリカ・ガーナのフラフラ族に伝わる弦楽器、コロゴの演奏を思わせるシンプルかつ強靭なリズムのギターフレーズが印象的な曲。この曲に限らず随所にサハラのデザートブルースやコロゴ等、アフリカ音楽の要素を取り入れていますが、それを誇張的であったり露骨に感じさせないところがまた凄いなと思います。
フォーク(民族)音楽の要素を安易に楽曲に取り入れようとすると結構雰囲気ものになってしまうこともあると思うんですが、アーノルドは長年に及ぶ現地でのフィールドワーク、競演ツアーなどでもはやDNAレベルで位体に染み付いているんじゃないかとも思ったりします。それぐらい馴染んでます。
ZEAの作品を聴いたりアーノルドとやり取りをしていると、彼が世界中のアーティストをリスペクトし、それらを消化し、独自の音楽としてアウトプットしていくことを意識していることが伝わりますが、それ以上に自分の違和感やトライしたいことを誤魔化さずに、しっかりと自分と向き合い作品を作っていることを強く感じます。今作”Witst noch dat d’r neat wie”は、聴くたびに(一人で聴くのにぴったりです)、また、ブックレットに目を通すたびに新しい音楽体験ができる傑作だと思います。
また、今作入荷のタイミングで、アーノルドのギターに焦点を当てた作品”Minmal Guitar-Arnold De Boer”アーノルドがプロデュースしたアフリカ・ガーナのフラフラ族コンピレーション”This Is Frafra Power – Various Artists”のMakkum Recordsの作品も追加しましたのでチェックしてみてください。